案の定な反応を見て

 案の定な反応を見て、沖田は胸を痛める。仲の良い者の苦しむ姿を見に行けというのは酷なのでは無いかと思い始めた。

 

「無理にとは言いませんが……。見舞いに行ってやって下さい。貴方達が行けば、多少は気も良くなるでしょう」

 

 沖田の言葉に、山野と馬越は直ぐに頷く。顯赫植髮 だが、桜司郎だけは現実を受け入れられずに視線を揺らした。行こうぜと山野がその腕を掴むが、首を横に振る。

 

 その心中では妻子に会いに行くように促した自分のせいかもしれないという自責の念と、どうして嘘を吐いたのかという失望の念が渦巻いた。

 

「……行か、ない」

 

 桜司郎はか細い声で拒否をした。それを諌めるように山野が掴む腕に少し力を入れる。

 

「桜司郎」

 

「行かない、行かないッ……。会いたくないの、二人で行ってきて……!」

 

 桜司郎は手を振りほどくと門へ向かって駆け出した。山野と馬越がその後を追いかけようとするが、沖田はそれを制する。そして二人は松原の元へ行くように言うと、桜司郎の背中を追いかけた。

 

 

 先程までは爽やかに晴れていた空に、暗い雨雲がかかり始めていた。

 昔から沖田は足が早いことで有名だった。だが、それ以上に桜司郎は身軽であり、直ぐに見失ってしまう。

 

 桜司郎が行きそうな場所など検討が付かなかった。前に小さな桜の木の下にいた事はあったが、からでは距離がある上に駆けて行った方向が違う。

 

──思えば、私は彼女のことをあまり知らない。

 

 

 ケホケホと咳を漏らしながら、沖田は通りを一つ一つ見て回った。そうしているうちに頭上の空は完全に雲に覆われ、まるで夕暮れ時のように暗くなる。

 ぽたぽたと降る雨粒が沖田の着物に紋を作っていった。

 

 

 人に尋ねると、揃って北を指さす。侍が走る姿は奇異に見えたのだろう、幸いにも直ぐに居場所を特定することが出来た。

 

 壬生寺に到着すると、寺の軒先に膝を抱えて座る桜司郎を見付ける。

 

 

 髪の先から滴る水を手で拭うと、近寄っていった。境内の石を踏み締める音に気付いたのか、桜司郎は顔を上げる。

 

 泣いていたのか、はたまた雨に打たれたのか頬には幾筋ものの雫が流れていた。

 

「……桜司郎さん。何があったのか、教えてくれますね」

 

 決して咎める訳では無いが、沖田の声色は拒否を許さないものだった。もしも桜司郎が松原の自害に関わっているのであれば、組長である自分の監督不行届である。

 

 だが、松原と秘密にすると約束した手前、話すことは出来ないと桜司郎は口を開こうとしなかった。

 

「これは貴女の身を守る為、引いては松原さんを守る為になるんですよ。……今回のことは思ったより根が深そうですから」

 

 そう言われ、観念した桜司郎は見聞きした全てをぽつりぽつりと話し始めた。話しながら、恐怖が襲ってきたのかまた涙を流し始める。

 剣を持たせれば抜群に強いが、心はまだ清らかなのままなのだ。

 

「私が……、会いに行こうだなんて無責任なことを言わなければ。きっとこんな事には……ッ」

 

 悲痛な声が境内に響く。あそこで背中を押してしまったが故の有様なのだと思うとやり切れなかったのだ。

 

「……それは、違いますよ。きっと、松原さんもそう感じているのではないでしょうか」

 

「何でそう言い切れるんですか……ッ」

 

「だって、松原さんは事の顛末を知る人間に、貴女の名前を出しませんでしたから」

 

 

 沖田の言葉に、桜司郎はハッと顔を上げる。