白岩は会釈をし横

した。

 

白岩は会釈をし横をすり抜けようとしたが、それよりも早く沖田が口を開く。

 

 

「白岩君。貴方、魚尾紋消除 今暇ですか?」

 

「は……?」

 

 

さりげなく行く手を塞ぐように立つと問い掛けた。

 

 

「宜しければ、共に出掛けませんか。今から甘味を食べに行こうと思いましてね」

 

 

これは彼に近付く好機だと、沖田は心の中で思う。

 

「…あの、申し出は有難いんやけど先生方の邪魔するのは忍びないんで、遠慮さして貰いますわ」

 

 

白岩は戸惑いの表情を浮かべながらそう言って頭を下げ、去ろうとするがその腕を藤堂が取った。

 

 

「そんなこと無いよ!俺、君と話してみたかったんだ。だから一緒に行こう!」

 

屈託のない笑顔を向けられ、白岩はたじたじになる。藤堂のそれはあの土方ですら折れる程の破壊力があった。

 

その思いがけぬ強力な助勢に、沖田は運が良いと思う。

 

そして攻防の結果、白岩が折れ三人で甘味屋へと

行くことになった。

 

 

沖田、藤堂の後を付いていく形で白岩は歩く。

 

余り馴れ合いはしたくなかったが、新撰組でも随一の剣術の腕前を持つ沖田を知る機会である。

 

二人の背を見るその目は非常に冷ややかで、それを見た者は思わず縮み上がる程であった。

 

 

悪寒を感じた沖田はハッとして後ろを振り返る。

すると瞬時に白岩は元の友好的な表情へと戻った。

 

 

「どないしました、沖田先生」

 

沖田は軽く辺りを見渡すが、特に何も無い。

 

 

「い、いえ…。殺気を感じた気がしましたが…。気のせいでしょう」

 

 

「殺気ね…。…仕方ないよ、総司。俺らは不逞浪士だけでなく、京の人間からも疎まれているんだからさァ」

 

 

藤堂は寂しそうにそうポツリと言った。

 

 

「平助……」

 

沖田は視線を反らす。

 

藤堂は元々人懐っこく、好かれやすい気質のためか、この様な扱いに誰よりも心を痛めていた。

 

近頃慣れては来ているが、それでも時々こうして現状を憂うことがある。

 

 

 

「…あ、御免よ。早く行こうか。もしかしたら品切れになってしまうかも」

 

 

藤堂は笑顔を作ると先を急いだ。

沖田、白岩はその後を追う。

 

 

三人は七条にある亀屋陸奥に着くと、早速、名物の和菓子である松風を頼んだ。

 

 

それは戦国時代てに、かの織田信長石山本願寺との戦いの中にて保存食として誕生したものである。

 

 

非常にコシが強く噛み応えがあり、噛む度にじわじわと甘味が出てきた。

三人は必死にそれを噛みながら会話を交わす。

 

 

「白岩君の故郷って何処なの?」

 

 

藤堂は茶を一口含み、視線を白岩へ向けた。

 

甘味を食べたことによって、藤堂の表情が元に戻ったため沖田は安堵する。

 

 

「俺は近江です。勘当されてしもたから無いも同然なんですけれどね」

 

 

白岩は気恥ずかしそうに言いながらも何処か影を帯びていた。

 

「へぇ。何故勘当なんてされたのさ」

 

「…ええと」

 

 

藤堂の質問に白岩は言葉を詰まらせる。

 

「それ…、言わなあきませんか?」

 

 

「あッ…、御免。言いたく無ければ言わなくて良いよ」

 

焦る藤堂に、気まずそうな表情を浮かべる白岩。

そんな二人を沖田は黙って見ていた。

 

 

白岩は普通の人にしか見えないが、あの土方が疑った人物である。土方の勘は大抵当たるのだ。何らかの探りを入れなければならない。

 

沖田は口の中の物を茶で流し込む。

 

そして深く息を吐くと、決意したように顔を上げた。

 

 

「…ねェ白岩君。私が当ててみても宜しいですか」

 

 

沖田は白岩の顔を覗き込み、笑みを浮かべる。

 

空気を読まないかのようなその発言に藤堂は慌て、白岩は驚いていた。

 

 

「ど…どうぞ」

 

そんなものも意に介さないかのように沖田は続ける。

 

 

「わァ、有難う御座います。…そうですね、奉公先から逃げ出したとか?」

 

その言葉に白岩は僅かに眉を動かした。

 

 

「いいえ」

 

だがゆっくりと首を横に振る。

あれを見られていた

あれを見られていたという恥ずかしさで蒸発しそうだった。

 

 

「謙遜しなくても良いんだよ。本当に素晴らしかった」

 

桂は微笑む。

惜しい。期指是什麼 もしもこの者が男であったのなら是非我が同志に、と誘っていたのに。本当に惜しまれることだ。

 

「貴方が捕縛してくれた者共は我が藩の名を語り、悪事を働いていてね。我々としても困っていたんだ。今日は疲れただろう。今宵は此処に泊まっていくと良い」

 

せめてものの感謝の意を、と桂はそう提案した。

 

「おお、それがええ!桜花、良かったのう。流石は桂さんじゃ」

 

高杉はニヤリと笑うと桜花の肩を叩く。

その場に流されて頷いてしまったが心中戸惑っていた。

 

高杉にも、この桂にも此処までして貰う義理など無い。

浪士の件にしても自分が勝手にしたことだ。

 

「貴方のことは勝手に高杉から聞いているよ。私は長州の桂小五郎だ。今後見知り置きを」

 

桂という男は優雅に微笑んだ。気品溢れるそれに桜花は緊張を隠せずにいる。

 

「こっ、此方こそ」

 

 

桜花は姿勢を正すと思わず頭を下げた。

 

豪胆な高杉や冷静な吉田とは違うものがこの男にはあった。

見惚れてしまうような顔立ちとは裏腹に、有無を言わさない程の威圧感をひしひしと感じる。

 

 

「先程の大立ち回り、見させて貰ったよ。大の男五人を相手に物動じない態度…、女子だというのに大した腕だ」

 

「恐れ入ります」

 

に酒盛りを始めたが、桜花は湯浴みを済ませると早々に休むことにした。

 

 

行灯の灯りがゆらゆらと隙間風に吹かれて揺れている。

昼間の出来事が脳裏に浮かんでは消えた。

 

 

無論、自分の知っている日本ではないということは承知しているつもりだった。

しかし何も分かっていないことを痛感する。

 

皆、必死なんだ。明日の生活の為、自分の信じるものの為に。

平和な時代でぬくぬくと育ってきた自分には耳の痛い話しだった。

元いた時代の人とは覇気も生き方もまるで違う。一人一人がまさに生を謳歌している気がした。

 

 

桜花はふと、自分を追い掛けた集団のことを思い出した。

 

浅黄色に染めた羽織を纏い、駆けてきた新撰組

 

彼らの姿を見た途端、脳髄が痺れるような圧を感じた。まさに修羅場を潜ってきたと言わんばかりの堂々たるその姿は、狼そのものだと思う。

 

 

次々と迫るこの数奇な出会いは一体何なのだろうか。

 

明日もまた別の道場を当たろう。それも無理なら働くところを探そう。

 

 

桜花はそんなことを考えながら床につき、目を瞑った。

 

思ったより疲れていたようで、直ぐに寝息を立てていった。「高杉さん、桂さん泊めて頂きありがとうございました」

 

「桜花、暫しの別れになるのう。気張って生きろよ。また生きて会えたら土産話待っちょるけぇ」

 

高杉はそう言うと歯を見せて笑った。高杉はこの後、もう一人の同志に会った後長州へ帰るとのことだ。

 

彼らに礼を言って池田屋を出ていくと、桜花は昨日同様に道場を回った。

だが、やはり結果は変わらない。

 

閉鎖的な京において、見ず知らずの者を置いてやれるほどの余裕など何処にもないのだ。

 

 

桜花はすっかり心が折れたかのように、重い足取りで行き場もなくふらふらと歩いていた。

 

地理も勝手もわからない京の町はまるで迷路であり、今何処に居るのかさえ分からない。

 

 

重い溜め息が思わず出るが、桜花はまだ諦めてはいなかった。

 

この世で信じられるのは自分だけであり、絶対生きて帰りたい。

そう気持ちを強く持っていなければ、崩れてしまいそうであった。

吉田稔磨も長州藩に

吉田稔磨も長州藩に属しており、高杉晋作と同じように松下村塾を出ている。師である吉田松陰より、大変可愛がられ、知能の高さを賞賛されていた。

しかし、身分が低いために要職には付けずに苦労している一人だった。

此度の依頼人である桂小五郎に指定された旅籠池田屋へ桜花を送るために、道を進みながら吉田は不思議な気持ちを感じていた。

 

 

「記憶が…ない。regular savings plan そのようなこと有り得るのか」

 

「そう思いますよね。ですが事実なのです。同じような人を聞いた事はありますか?」

 

桜花の問いかけに吉田は首を横に振る。

記憶を失うなどそんな恐ろしいこと、僕には考えられない。

 

思想、出身、尊敬する師に友。そして自分を暖かく迎え入れてくれる家族。

これら全てを一瞬にして失ってしまうなど、ただの生き地獄に等しい。

 

先程も救済に入って新撰組に目を付けられていた。

一体、この男はどういった神経をしているのか。

 

 

吉田は隣を歩く桜花の横顔を見た。

桜花はそんな視線に気付いて小首を傾げる。

 

 

「!」

 

視線を受けて鼓動を高鳴らせると吉田は慌てて目を反らした。

 

「あの…」

 

桜花は少し考えがちに口を開く。

 

 

「もしかして、吉田さんに私の事を頼んだのは高杉さんですか」

 

 

高杉という思いがけない名が出て思わず足を止めた。

 

「…晋作と知り合いかい」

 

 

桜花の様子を伺うように見る。

 

「高杉さんは、私をこの京まで連れてきて下さったんです」

 

どういうことだ。晋作は国に居るのではなかったのか。それとも何か命が下って上京してきたのだろうか

 

「そうか、晋作が京に居るんじゃな」

 

吉田は懐かしそうに目を細めた。思わず訛りが出る。

 

「吉田さんも長州の出なのですか?」

 

 

それを聞いていた桜花は目を丸くした。

ならば合点がいく。高杉と知り合いなことも、新撰組から庇ってくれたことも。

 

 

「…ああ、晋作とは昔からの友だよ。情に厚くて良い奴だろう」

 

その問いかけに桜花は頷いた。

 

しばらく無言で歩いていると吉田が再び立ち止まり、ある旅籠を指差す。

 

 

「あの中に恐らく晋作は居る。桂さんの客と言えば通じるだろう」

 

 

池田屋…」

 

桜花は表札の名を小声で読み上げた。

 

長州の家紋である一文字に三ツ星が提げられているそこは、長州贔屓の旅籠だった。

 

何処かで聞いたことがある気がしたが思い出せない。

 

「では、僕はもう行く」

 

「あ…、また会えますか」

 

 

桜花は少し寂しい気持ちを感じた。

ああ、と吉田は薄く笑みを浮かべて去っていく。

 

 

桜花は群衆に紛れていくその後ろ姿を見送ると、池田屋の暖簾を潜った。旅籠池田屋を切り盛りする主人、惣兵衛に二階の部屋を案内してもらう。

 

 

「此処ですわ。ほな、ごゆるりと」

 

恭しく頭を下げ、惣兵衛は下がっていった。

桜花は閉じられた襖に手を掛け、失礼します、と言いながら開ける。

 

すると目の前には胡坐をかいた

高杉の姿があった。

 

 

「桜花…無事じゃったんじゃな」

 

高杉は勢いよく立ち上がると、桜花の背中を叩く。

桜花は笑顔で頷いた。

 

「はい、無事です。吉田栄太郎さんに助けて頂きました」

 

「何、栄太郎がおるんか」

 

「もうお帰りになられましたが…」

 

桜花は刀を腰から抜き、高杉の正面に座る。帰ったと聞き、高杉は残念そうな表情になった。

 

「貴方が桜花さんだね」

 

その時、横から声が掛かった。そちらを見ると、吉田に劣らずの美男子が座っている。

前のセクションでは

前のセクションでは、対数配当価格比率などの評価を使用できることを示唆しました

総株式リターンを予測する比率。ただし、予測変数が定常的であり、リターンと一致する場合

関連する場合、そのような予測回帰は、次のようなトリッキーな計量経済学的問題に遭遇します。

標準評価比率。

スタインバーグバイアス

 は、一次自己回帰の自己相関係数

推定値には、下向きの有限サンプル バイアスがあります。富途信託 具体的には、自己回帰では次のようになります。

偏差は次のとおりです。

 

このうち、残差平均が標本サイズの 2 乗以上で増加することを意味します。

ハイパワーで減少。の定常性推定におけるこの下方バイアスはすべて、リグレッサーによるものです。

は外生的ではなく事前に決定されています (つまり、xt は ξt+1 およびその先行項と無相関であり、

ただし、ξt とそのラグに関連する)、の平均は不明であるため、次のようにする必要があります。

見積もり。小さいサンプルでは、の観測値が真の平均からかけ離れている可能性があります。

プロセスは真の意味を通過することは決してないかもしれませんが、構造上、少なくとも

サンプル平均を通過するパスが 1 つ少ないことは、移行プロセスがその平均を通過する傾向があることを示しています。

価値。は、リターンのイノベーションと予測が変化する限り、

量的イノベーション相関、単期予測回帰の係数に偏差が発生

有限サンプル バイアス。回帰を考慮する 他の金融アプリケーションでは、スタインバーグ バイアスは問題になりません。安定したプレ

インフレや金利など、イノベーションが株式のリターンと弱い相関関係にある測定変数。

偏差係数は非常に小さいです。さらに、債券利回りは、第 8 章で説明した期間構造に影響を与えます。

ミディアム・イールド・ディファレンシャルで回帰した場合の債券利回りとイールド・ディファレンシャル・イノベーションの相関関係

性別は負ではなく正であるため、予測係数は上向きではなく下向きに歪んでいます。これで

この場合、標準テストの結果は保守的であり、債券リターンの予測可能性の証拠は

性能より強いです。

5.4.2 金融理論における最近の改善

多くの論文は、金融理論からの追加情報を使用してスタインバーグに対応しています

(1999) は、計量経済学的問題を発見しました。文学のテーマは、理論が許すということです

OLS 予測回帰の標準手順を変更して、リターンと所定の予測変数を比較できます

回帰を行います。  の言葉を借りれば、「超過リターンを通じて

市場の効率性をテストするための従属変数の回帰は、すべてを必要とする終了条件を使用しません。

価格の変化は、ファンダメンタルズのその後の変化に関する情報で調整する必要があります は、最初に定常性と真を推定しました。

のバイアス式を次のように調整しました。

 

一見したところ、この式はあまり役に立たないように見えます。

安定係数。しかし、Llewellyn は、理論的根拠に基づいて、Ø が 1 より大きくなることはできないと主張しています。

配当率と価格の比率は爆発的ではありません。したがって、最大の偏差は Ø=1 のときに発生します。

彼は、この最悪の場合のバイアスを使用して推定係数を調整する保守的な方法を提案しています

潁川の周辺には

 潁川の周辺には、時計回りに河南尹から陳留、陳、汝南、南陽と郡がある。河南尹から直接来るには虎牢関がある榮陽周りで長社を目指すことになる。陳留は友軍といって差し支えない、陳に敵が居て、南陽には味方であろう孫堅が駐屯しているのを知っていた。

 

「状況を調べなければならないのは汝南太守の徐蓼殿で御座いますね」

 

 それ以外は概ね問題がない、この一言で察する。朱古力瘤 初めて聞く名前なのでじっと荀彧を見る。

 

「かつて董皇太后の手の者が働いた悪事を暴き、逆に罪を受けて獄へ落とされようとしたというのに、弾劾を強行し風紀を改めたことが御座います。宦官よりの讒言で冤罪を得て、黄巾賊討伐に従軍し功績をあげ無罪放免で故郷に帰っていたところを、先年徴され太守に任官しておられる傑物かと」

 

「あの手合いの被害者か。どうして漢にはそういう人物を中堅以下の官職に留めるようなきらいがあるな。横やりは入れられずに済みそうだ、と普通なら考えるが、それが落とし穴ともいえるな」

 

 出来ない、無理だと思うところから攻撃をされる、これこそが戦いというものだ。会って話をすることが出来れば結果がどうであれ自身の見る目が無かったとあきらめもつくが、経歴だけで判断しろと言われても困る。

 

「我等に賛同こそしても、邪魔だてすることは恐らくは無いかと存じますが」

 

 十中八九は反董卓連合側だろうと荀彧が所見を述べる。それには島介も納得ではあるが、誰かが反対をしておかなければ警戒心と言うのは産み出されない。

 

「俺は仲間以外は信じるつもりはない。利害が一致しているのが次で、正体不明は敵のつもりで考えているんだ。そういう意味では絶対敵だって胡軫の方が相手にしやすいな」

 

 どちらとも解らないならば、もし中立や味方になり得るのを逃すのは失策になってしまう。敵だと解れば様々な妨害も出来るが、そのあたりの加減をしつつ様子を見る、苦手意識だって産まれてしまう。

 

「我が君の方針、しかと文若の胸に刻ませて頂きます」

 

「うむ。雪も解けて遠方への行動も起こしやすくなってきている、より広範囲の情報を薄くでよいので気に掛けるようにしておけ」

 

「畏まりました」

 

 残っていた酒をグイッと一杯飲み込むと盃を置く。

 

「さて荀彧を解放してやるとするか。奥方が寂しがっているだろう?」

 

 長らく故郷を離れ、戻って来たというのに司令部に詰めっぱなしで滅多に帰宅も出来なかった。そこへようやく島介がやって来たのでお役御免というところ。これにははにかんだ笑みを浮かべて俯くのみ。

 

「俺は寝る、さっさと帰るんだ」

 

 どうせ床につくつもりもないのに、ぶっきらぼうにそういって追い払おうとする。荀彧が出て行くと、一人で酒を楽しみ空を眺めていた。そこには三日月が浮かんでいて、わけもなく暫く視線を奪われることになる。

 

◇ 長安の永楽宮、皇帝が住まう宮殿では常に董卓の兵が居て目を光らせていた。生活は董卓が手配した女官が全てをみている。十一歳になった劉協、元より賢いので自身のおかれている立場というのをしっかりと理解していた。

 

 どこであっても監視されているが、唯一その締め付けが弱くなる場所があった。先祖を祀る祖廟だけは、兵士も女官もついてこずに一人でいられる。そこへ付き従うことが出来るのは三公三師と呼ばれる皇帝の補佐のみ。それとて度々ではあやしまれるので、滅多に一緒にはならないようにしていた。

 

 九度頭をさげ礼を尽くすと、ようやく司空稠沸は劉協の方を向く。そこでも同じように拝礼して、顔をあげた。

 

「稠沸よ、世の動きはどうなっているか」

 

 まだ声変わりすらしていない、身体も小さい、それなのに王者の風格を身に着けている劉協を、稠沸は有り難く敬う。漢室を至宝だと信じて疑わない人物なのだ。

大笑いで矛を掲げた

大笑いで矛を掲げた、まさかという気持ちで一杯のところで「黒兵、残敵を蹴散らすぞ、突入!」島介が先頭になり陽擢軍へと駆けた。

 

「に、逃げろ!」

 

 大将を失い統制も取れず、肉毒桿菌素 騎兵の突撃を防げるはずもない。歩兵らは散り散りになり一目散に逃げて行く。真っすぐ城へ向かって行き、いち早く城内の軍旗を全て『島』に差し替えていく。城の住民は島では解らなかったが、まずは兵らが乱暴を働くようなことをしなかったのでほっとしている。

 

 翌日になり、陽擢に荀諶がやって来た時にようやく解放されたと喜びを露にした。楽英の部下だった兵士に帰投を呼びかける、罪を問わずに再雇用すると言う条件を示して。呼びかけを荀諶名義で行うと、即日五百人が戻ってきたのでそのまま郷土防衛に組み込んでしまった。

 

 陽擢の指揮を荀諶に任せると、島介は潁陰へと入る。案の定潁川へ侵入すると胡軫は速やかに反撃に出てきたが、無血開城をされてしまい部隊が入った城を落とすまでの用意は出来ずに、一日睨み合って引き下がって行ったらしい。

 

 潁陰の主座に腰を下ろして幕下の者らを見渡す。

 

「ふむ、孫策は行かなくて良かったのか?」

 

 魯陽に行っていぞと許可を与え、切り出しづらいと悪いのでいつ行くんだとまで聞いてやったが、そのまま潁陰についてきてしまっている。その方が安全だと言われればそうなので、判断は預けているから強くは言わない。

 

「そのうち父上が赴任して来るでしょうから、こちらで待たせて頂きます。お気遣いに感謝します」 出来た子供だなと軽く笑って好きにしろと話を切る。長社と許に行っている部将らを除き、多くがここに集まっている。各地から等距離にあるので、ここに本軍を置いて増援に出すのが一番だろう。となれば北瑠と張遼は手元に寄せておきたい。

 

甘寧、長社に行って張遼と交代して来い」

 

「なんでぇ俺じゃ役に立たないっていうのかよ」

 

「お前は陽擢できっちりと仕事をこなしている、俺はそれを認めているぞ」

 

 流言流布、荀氏の者達だけでなく鈴羽賊が共に暗躍してこその成果だ。おかげでつり出された楽英はこの世にはもういない。

 

「あいつらは金さえ手に入れば文句はいわねぇ」

 

「褒美は出すさ。それより長社だ。あそこは河南尹と陳郡との連絡路のど真ん中、諜報をしつつ連絡を断ち切るような役目は甘寧が適切だ。何せ河が走っている、そこを制圧出来るのはお前しかいない。やってくれるな」

 

 潁水が虎牢関の側から別れて南東へと走っている、地名がこうなっているのも納得だ。陳郡への連絡路、陸も水上も長社が軸になっているので、黄巾の乱の時分でもここを要塞化して官軍が使っていたのは記憶にある。

 

「確かに水の上なら負ける気がしねぇよ。わかった、俺が行って来る」

 

荀攸殿に常に相談をして動くんだ。方針や実務は甘寧が決定しろ」

 

 どちらが上かを定め、その上で実際の成否は荀攸次第という形を定めて置く。こうしておけば大きく当たることはあっても、失策など無くに等しい。近隣なのでまさかがあってもどうとでも挽回する手段もある。

 

「荀彧、各地の状況は」「許、臨潁、長社、潁陰、それに陽擢が統治下に入っております。五県で凡そ九万戸が住んでおり、八割がたを掌握可能な見込みで二十万戸余、陳留兵らを全て維持しても数千の余裕が御座います」

 

 当初の目的の一つ、騎兵の維持。正直足りるかどうか税率次第であって、荀彧が想定している六割の徴収ならば全く問題がない。酷吏と呼ばれる太守らが課す最大税率九割に比べれば、農民も子を捨てずに食べていける割合なのは認められた。

属人が書き上げた

 属人が書き上げた上奏文を吟味せずに許可したせいで、部将の官職名を間違い、居ないはずの部将の名が記されたままだったのだ。それを確認した侍御史の桓典が相国に報告、董卓は上奏文を見てみぬふりをして桓典に差し戻させた。だが皇帝に対し不適切な文書を送ったとして、蔡燿は減俸処分を受けてしまう。流石に蔡燿もこれには平身低頭し、謹んで受け入れたそうな。

 

 雪が降りだしそうな季節になった頃、顯赫植髮 孫堅のところに使者がやって来ることになる。初平元年、動乱の先駆けは様々な事件を引き起こし続けるのであった。

 

 

 初平二年一月。河内にある連合軍の本営で旗揚げから丸々一年を過ごした曹操のところに、袁紹からの密書が届いていた。近隣ではあるが別の場所に陣を張り、積雪もあるので互いに顔を合わせるのにはそれなりに手間がかかるので書簡を出してきたのだろうかと訝しむ。

 

 何はともあれ手にして読んでみると、署名に袁紹と韓馥とあり最初に驚く。一体何が書かれているのやら。目線を進めるうちにどんどん前のめりになった、そして天を仰ぐ。

 

「なにが『天子は幼く董卓の傀儡だ、劉虞こそが真の皇帝に相応しい』などと言う寝言を。さてどうしたものか」

 

 誰に相談すべきかと思いを巡らせるが、陣内にこれといった人材が存在しない。いや一人だけ顔が浮かぶ。

 

「誰か陳宮を呼べ」

 

 ややすると三十路頃の文官服をまとった男がやって来る。陳宮、字を公台という。実直な学者肌ではあるが、実務を無視することをしない現場主義者でもある。有能ではあるが何せ決断が遅いせいで、戦場や目まぐるしく状況が変わるような場面では使い物にならない。「孟徳殿、及びとのことで」

 

 とはいえ目覚ましい戦果もないようなこの時分に、他のなみなみいる諸侯ではなく自分に仕官してきてくれた人物なので蔑ろにはしない。まずは小手調べと書簡を目の前に差し出してやる。

 

「読んでみろ」

 

 陳宮曹操を見ると「では拝見」書簡に目を通し、何故自分がここに呼ばれたのかを想像する。

 

「どう思う」

 

 短く問いかけた。良いと思っていれば席次の高い部下を呼ぶなりして画策をしていただろう、では乗り気ではないのだとあたりをつける。

 

「これに応じてはなりませんぞ」

 

「それは何故だ」

 

袁紹殿には十の罪が御座います。一つ、不忠である。天子を助けようとせず見殺しにしようとしていること。二つ、不実である。別の人物を天子に据えようとしていること。三つ、不義である。天子が存命だというのに、皇族に――」

 

「わかったもう良い」

 

 喋っている最中に手を前に出して遮ってしまう。望んでいた答えと違っていたからではない、一致しているからこそ無駄なことをしたくなかったからだ。

 

「公台殿、袁紹は道を誤ることになる。これは恐らく袁術のところにも届いているだろう、荒れるぞ」

 

 袁紹袁術が不仲なのは世の知るところだ。そしてこれは一方的に袁紹に非があると言ってもおかしくはない。袁術にしてみれば好機なのだ、さりとてあまりに不甲斐ない理由で袁家の家名を汚すのもまた面白くない。

 

袁術殿が取られる道は三つありましょう。内々に反対をし話が外に漏れないようにする。公然と反対をし天下に非を知らしめる。賛同をし暴挙に出る」