「私は……新選組のみんなに顔がバレて

「私は……新選組のみんなに顔がバレてるので私が行けば小五郎さんが居ると知らせてるようなもんですからね……。」

 

 

「すまない。」

 

 

桂は三津の物分りの良さに少しほっとしつつも,自分に執着していないようで寂しくもあった。

 

 

「向こうに着いたら必ず便りを出す。待っていてくれる?」

 

 

三津は何度も頷いた。ようやく顔を合わせられるようになったのにまた離れ離れだ。流石に聞き分けのいい三津でもそれは辛い。

涙で言葉も詰まり頷くしか出来なかった。顯赫植髮

 

 

「道中……お気をつけて……。」

 

 

それを言うのがやっとで桂の顔も見れなかった。

 

 

「三津,必ず迎えに来るから。私の妻になれるのは君しかいないんだ。」

 

 

桂は三津の髪や耳や頬に触れ,その全てが愛おしいと抱きしめた。次の再会がいつになるかも分からない。会える保証もない。でもずっとこうしてもいられない。

 

 

「愛してるよ,三津。」

 

 

甘い言葉と口づけを最後に二人は別れた。

桂の言葉が吉田の最期と重なって三津は一晩中泣き続けた。桂が京を発って三津は度々河原町辺りに足を運んだ。功助とトキを見つけたのだ。二人の元を訪れては新たな生活の手助けをしていた。

 

 

「三津,そんな頻繁に来て大丈夫か?」

 

 

功助は元気な姿で三津が現れて喜んだが,それよりも新選組に見つかることを恐れた。

 

 

「大丈夫,そんな長居せんから。それに吉田さんが守ってくれてるし。」

 

 

三津の背中には常に脇差が背負われている。それだけで心強いんだと笑った。

 

 

「ホンマにあんた強くなったなぁ……。」

 

 

トキは以前より涙脆くなっていた。三津の前でも簡単に泣いた。

 

 

「向こうでいっぱい教えてもらったことあるねん。だからそれを無駄にせんように頑張らんと。」

 

 

「功助はんおトキはん!あっち壬生狼来とる!みっちゃんはよ帰り!」

 

 

相変わらず近所のみんなも三津の味方だ。だから尚更ここに居たいし,頻繁に来ても大丈夫と思っていた。

 

 

「ありがとう!そしたらまたね!」

 

 

三津はすたこら逃げ帰る。それを毎日繰り返していた。だから意外と今の生活に苦は感じていなかった。苦を感じない理由はもう一つ。

 

 

「あっおかえりなさーい!」

 

 

「ただいま戻りました。」

 

 

定期的にサヤとアヤメが家に来てくれているのだ。最初に二人が訪ねて来た時には二人が無事だった事を泣いて喜んだ。そして二人から何故訪ねて来たかの理由を聞いて更に泣いた。

 

 

“一人じゃ寂しいだろうからたまに一緒にご飯を食べてあげてくれないか”

 

 

桂にそう頼まれたと言う。子供じゃないんだから一人でご飯くらい食べられるよと笑ったが,やっぱり一人じゃない方が良かった。

 

 

それともしこの家がバレても,ここはサヤの家で三津はそこに転がり込んでいると装う為でもあった。

そうやって支えられて三津は生活する事が出来た。

 

 

たまに桂から文が届く。元気にやっていると状況報告だけだ。居場所が知られるとまずいからどこに居るかの詳細が分からない。だから三津が返事を出す事は出来ないが,桂が無事でいるだけで良かった。

 

 

 

 

 

 

「桂は本当に生きてるんでしょうか?」

 

 

総司は焼けた町の復興を手伝いながら斎藤に問いかけた。

 

 

「分からん……。御所のとある場所で奴の鉢金が落ちていたと言う者もいるが……桂はあぁ見えてどちらかと言うと何事にも慎重派だ。あの場に居たとは思えん。」

 

 

「じゃあ……三津さん連れて逃げたんですかね……。三津さん無事かなぁ……。」

 

 

総司も斎藤も桂の行方よりも三津の行方の方が気になった。「もし三津さん見つけたら捕縛ですかね?」

 

 

「あぁ,捕まえろ。桂の居場所知ってやがるかも知れねぇからな。」

 

 

「土方さん,何故焼けた家の撤去の手伝いに来てるのにそんなに小綺麗な恰好なんでしょう?」

 

 

自分や斎藤は煤と汗と土に塗れていると言うのに。汚れてないし汗一つもかいてない涼しい顔した土方に笑顔で嫌味を言い放った。

桂には早朝と夕方におにぎりを届

桂には早朝と夕方におにぎりを届ける約束をして名残惜しくもその日は別れた。

家に戻った三津は箪笥の引き出しを開けてみた。

 

 

「こんなに……。」

 

 

今まで触ったことのない量の金子が包まれて引き出しに入っていた。その金子の横にトキが使っていた覚えのある巾着。

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「おばちゃん……あの時は嫁がへんって言ってたやん私。」

 

 

三津は目を潤ませながら口元を緩めた。それからよしっ!と気合を入れて着ていた着物を脱いだ。

 

 

「ごめんなさいっ!」

 

 

着物に向かって手を合わせて謝って着物をわざと汚したり割いてみすぼらしく繕った。

 

 

「うん,これなら馴染める。」

 

 

仕上げにほっかむりまでして焼け出された町娘に扮した。

 

 

「すみませんけどついて来て下さいね。」

 

 

独り言を呟きながら脇差の風呂敷包みを背負って家を出た。

河原町方面に向かって歩く。どこも瓦礫の山で時折焼け焦げた何かに縋りついて泣く人に出くわした。

 

 

『酷い……。』

 

 

目を背けたくなる光景だがこれが現実なのだ。燃え尽きてどこに何があったかが分からない。多分甘味屋があったであろう場所を探して歩いていた。

 

 

『アカン……どこがどこか分からん……。』

 

 

半泣きになりながら歩いていると見かけた事のある顔を見つけた。

 

 

「あっ!あっ!」

 

 

扇子屋の主人だ。何度もお店で話し相手をしてくれた優しいおじさん。三津は知り合いに会えた嬉しさから全力で駆け出した。

 

 

「おじちゃん!おじちゃん!」

 

 

「え?あっ!みっちゃんか!?良かった!急におらんくなって心配しとったんや……。」

 

 

「ごめんね……ちょっとした縁があって……。ねぇ他のみんなは?」

 

 

ここに扇子屋の主人がいると言う事は……と周りを見渡して何もなくなる前の町の様子を頭に浮かべた。

 

 

「他のみんなも無事や。この近所の人らは早いうちから避難したからな。みんな火が及ばんかったお寺や神社に身を寄せとるわ。」

 

 

「誰がどこに逃げたかは分からんよね……でも無事なんやったら良かった!あとは自分で探してみる!」

 

 

三津は主人に向かってにっと笑った。その足ですぐにでも探しに行きたかったがここは一旦家に帰る事にした。

 

 

『何も考えずに走り回って土方さんとかに見つかったら大変や。』

 

 

隠れる建物すらなくなったこの場は危険だ。三津は急いで家へ戻った。家の近くまで来た時も誰かついた来てないか確認してから入る警戒心も身につけた。三津なりに学習した。玄関の戸を閉めて思い切り肺の空気を吐き出した。変な緊張感なのか高揚感なのかずっと胸はバクバクと大きく脈打っていた。

 

 

「お米あるっけ……。」

 

 

三津はまず食料を確認した。せっかくの二人の家なのに結局ほとんど藩邸に居た気がする。食料などほぼ取り置いてない。

 

 

「まだあるけど。」

 

 

何日保つだろうか。町のあの状況じゃ食料も簡単に手に入らないのではと思う。そしてやつれていた桂の顔を思い出した。

過酷な日が続くのなら体力はつけてもらわないと。

三津は自分の食べる分を少なめにしてあとは全て桂の為に使った。

 

 

三津は朝と夕刻に二条大橋まで行って橋の上から下を覗いて,桂が姿を見せるとおにぎりの包みを落とした。

手招きされる時は傍に寄ってもいい時でその時は喜んで土手を駆け下りた。

 

 

その生活が五日ほど続いて新たな転機を迎えた。その日は手招きをされて桂の傍に下りた。

 

 

「今日は話がある。よく聞いてくれ。」

 

 

いい報せか悪い報せか。三津はごくりと息を呑んで頷いた。

 

 

「だいぶ追手が迫っててね。出石へ行くことになった。」

 

 

「出石……とは……。」

 

 

どこですかと眉尻を下げて聞いた。どこであろうと桂と会えなくなる不安がのしかかる。

 

 

「兵庫の但馬と言う土地でね。そこに拠点を移して長州との連携を取る。君も連れて行ってあげたいんだけどね……。」

抱き寄せられて手で口を塞がれた

抱き寄せられて手で口を塞がれた。振り向くと桂が少しやつれた顔で微笑んでいた。

 

 

「良かった会えた。」

 

 

そう言って自分を見下ろしてくる柔和な顔を見て三津は泣きそうになった。

煤だらけの顔に着ている物も酷く汚れている。easycorp

 

 

「大丈夫ですか?どこか怪我は……。」

 

 

愛しい顔に手を伸ばして優しく指で煤を拭った。桂は三津に触れられる喜びに目尻を下げた。

 

 

「怪我はないよ。これはわざとこんな格好をしてるからだ。三津場所を移そう。」

 

 

桂は三津の手を引いて上流に向かって歩き出した。三津はぴたりと桂の背後について歩いた。見覚えのある三条大橋を通り越してさらに上へ向かう。

 

 

「悪いね,道は分かるかい?」

 

 

「川沿いを歩けば大丈夫です……あの場を離れないと追手が来るんですね?」

 

 

「理解が早いね。そうだ,我々は完全に朝敵となってしまった。今まで以上に厳しく追われる。君も新選組に追われるだろう。」

 

 

二条大橋の下まで来てようやく桂は足を止めた三津の方に振り返り細い体をきつく抱き締めた。

 

 

「私は何一つ守れなかった……。だがまだ終わってない。これからやる事が山程ある。」

 

 

「私は何か出来ませんか?」

 

 

家でじっと待っているあの時間がどれほど苦痛だったか。信じて待つしか出来る事はないだろうけど少しでも何か役に立ちたかった。すると桂は耳元で囁いた。

 

 

「三津の握り飯が食べたいな。」桂の為に出来る事がある。その言葉に三津は胸がいっぱいになった。ほんの些細な事だけど桂に必要とされた。それが堪らなく嬉しかった。

 

 

「はい,いくらでも握ります。喜んで。」

 

 

泣きそうになりながら笑って上を向くと桂はぷっと吹き出した。

 

 

「すまない,三津にも煤がついてしまった。」

 

 

桂の着物に顔を埋めたからおでこや鼻や頬が黒くなっていた。

 

 

「もっと汚してください。小綺麗な格好だと浮いてしまいます。私も身を隠さなアカンので変装にちょうどいいです。」

 

 

「物分りが良くなったね。三津は元々私を困らす事はあまりしない子だけど。

多分覚悟は出来ているだろうから今の時点で分かってる事を話す。」

 

 

桂は三津の後頭部を押さえて自分の胸に埋めさせた。

 

 

「今回の戦で玄瑞はもう戻って来ない。九一の方は行方が知れない。だが見ての通り焼け野原だ。生きている望みは薄い。」

 

 

三津は桂の着物を握りしめ,奥歯を強く噛み締めた。悔しさや怒りがそこにはあった。今回は自分の大好きな町まで奪われた。

 

 

何で戦なんかしたんだと喚き散らしたいがそれをぶつけていい相手が誰なのか分からず,三津の中で怒りがぐるぐると渦巻いた。

 

 

「みんな……自分のしてる事が正しいって思って動いてるのに……何でそこには得る物より失う物の方が多いんですかね……。」

 

 

「……すまない。」

 

 

別に謝って欲しい訳ではない。これも桂達が成し遂げようとしている事に必要な過程なんだろうとも思う。だけどどうして戦がその手段なのか,それしか本当に方法がないのか。それが疑問だった。

 

 

「私はこれから長州がいい方へ向かうように小五郎さんを支えますから。」

 

 

「あぁ,頼むよ。」

 

 

三津はそっと桂の胸を押して体を離した。

 

 

「見つかったらアカンのは分かってるんですけど,おじちゃんとおばちゃんを探したいんです……。」

 

 

「分かった。私の方でも……。」

 

 

「いえ,小五郎さんは目の前の事に集中してください。自分の事は自分でやります。」

 

 

三津は力強い目で桂を見上げた。そんな目で見られては何も言えないよと桂は笑った。

 

 

「家の箪笥の上の段の引き出しに私の給金と女将から預かった君の給金がある。それでしばらくは暮らせるはずだ。」

 

 

「私の給金?」

 

 

三津は首を傾げた。甘味屋には養子になる約束で生活の全ての面倒を見てもらっていて給金など発生してない。

 

 

「君が嫁ぐ時の資金に貯めていたそうだよ。」

 

 

トキの親心に三津はまた泣き虫になった。

吉田はそこは見なかった事にして話を続けた

吉田はそこは見なかった事にして話を続けた。

 

 

「実際それはデマだったけど周りから見ればそれだけ気に入られてたって事。案外恋敵多いんだよ。」

 

 

「ふーん。その辺の女子と変わらんように見えるけど,俺に拳骨しよる女子はそうおらんな。」

 

 

なかなか痛かったんだとけらけら笑った。

 

 

「まぁ細かい事は明日にでも本人に聞くさ。あーねみぃ……。」

 

 

そう言って大きな欠伸をしたその次にはもういびきが聞こえてきた。

 

 

「お前本当に自由だな。」 顯赫植髮

 

 

聞いといて結局これかよと鼻で笑った。

 

 

「まぁいいよ。しばらくは煩くなるけど。」

 

 

脱藩して来たと聞いた時には懲りずにどうしょうもないと呆れ返ったが近くに居たら居たで落ち着く騒々しさなんだ。

 

 

『一番頭を悩ませて心労を募らせるのは桂さんと乃美さんだね。』

 

 

あとは高杉が夜這いしようとしたら斬れるように脇差を忍ばせて眠った。

 

 

 

 

どんな状態でも体内時計はしっかりしていて朝の決まった時間になると一度目は覚める。

 

 

『うぅ……頭痛い……。』

 

 

熱でも出たかな?それでもひとまず朝餉の用意を……といつもの段取りを考えながら目を開けた。

 

 

「ん……おはよう。」

 

 

目の前には眠そうに目をこすってから爽やかな笑顔を見せる桂の顔があった。

 

 

「へ!?は!?はひ!?」

 

 

間抜けな奇声と共にばっちり目覚めたが思考はすっかり停止した。

何故同じ布団に桂が寝ているのか。勢い良く起きあがって周りを見たらここは自分の仮部屋で間違いない。

 

 

「どうしたの?」

 

 

「すみません……昨日の記憶が全くないです……。」

 

 

悲壮感を漂わせて項垂れる姿を見てにやりと笑って体を起こし胡座を掻いた。

 

 

「晋作に無理に呑まされて酔い潰れたんだよ。そこからはもう大胆に誘ってくるから……。」

 

 

桂は照れ臭そうな表情を浮かべて少しはだけた胸元を整える仕草を見せた。

 

 

「へぇぇぇ!?」

 

 

そんな事したの!?だから私襦袢なの!?両手で頬を押さえて何て失態を晒したんだ!と絶叫した。

 

 

「なんてね。玄瑞の膝枕で寝始めたから連れて来たんだ。そしたら今の今までぐっすりだよ。

帯が苦しかったらいけないと思って着物は脱がしたけど。」

 

 

何もしてないよと笑った。

悲壮に満ちた顔がぽかんとして,そこからふつふつと怒りが込み上げてきた。

 

 

「全っ然笑えませんっ!」

 

 

「さぁてまだ早いから私はもう一眠りしようかな。」

 

 

三津の顔が真剣に怒った顔になる前に桂はくすくす笑って退散した。

 

 

 

 

 

台所でサヤとアヤメにからかわれた事を愚痴ったがそれでも腑に落ちない三津はむすっとして朝餉を用意した。

 

 

「ごめんって悪かったよ。」

 

 

配膳する三津の後ろを桂がついて回る。

それをサヤとアヤメがにやにやと見ていた。

 

 

「ん?喧嘩か?三津さん女は愛嬌やけ笑っちょらんといけん!そんな顔しちょったら桂さん余所に女作っちまう。」

 

 

高杉は笑顔笑顔と三津の両頬をむにむに解しながらにっと歯を見せて笑った。

 

 

「晋作,三津さんは引く手数多だからどちらかと言うと三津さんの方が選びたい放題だ。

だから桂さんの方が捨てられないように気を付けないと。」

 

 

周りは敵だらけですよね?と入江が意地悪く口角を上げた。

 

 

「三津はそんな事しない。」

 

 

少し焦りを感じた桂はむっと眉間に皺を寄せて胸の前で腕組みをした。

 

 

「さぁどうでしょう?壬生の旦那はとても優しくて三津さんに対しては穏やかに笑いますからね。」

 

 

久坂の一言は桂の胸をがっつり抉った。

 

 

『三津は男として意識してるのは私だけだと言ったんだ。』

 

 

だから斎藤なんかに靡いたりしないと思っている。思ってはいるが……。

 

 

「三津すまない許してほしい。もうあんな冗談言わないから。」

 

 

必死に許しを乞う。「壬生の旦那?やっぱりお前は魔性か。」

 

 

桂さんがいるのに他に旦那がいるのか?高杉は怪訝な顔でよく伸びる頬やのぉと白い頬を左右に引っ張った。

 

 

「正確には元旦那だよ。気易く触るな。」

 

 

吉田は高杉の耳を引っ張ってこっちに来いと三津から遠ざけた。

 

 

「それも語弊がありますからね。ホンマの旦那さんちゃいますからね。」

 

 

紛らわしい事言わないでと口をへの字に曲げた。

そう言われて慌てて乃美の横に

そう言われて慌てて乃美の横に並び膝をついて頭を下げた。

 

 

「三津と申します。」

 

 

宮部は三津の正面へやって来て屈み込むと顎に手を添え顔を上げさせた。

じっくり観察され,三津の目は忙しく泳ぎ回った。

 

 

「こりゃ可愛らしい女子たい。桂さんどこで見つけたと?」

 

 

「私は彼女に助けられたんですよ。あんまり触らないでもらえます?」

 

 

吉田の手なら叩き落としたが宮部の手をそうする訳にもいかずやんわりと手を掴んで外させた。【頭皮濕疹】如何治療頭皮濕疹及遺傳性的永久脫髮? @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 ::

 

 

「羨ましいのう色男で女子が選びたい放題の奴は。」

 

 

宮部はそう吐き捨てて元の場所に戻って胡座をかいた。

 

 

「三津さんは可愛らしいが肝は座っとるぞ。私は怒鳴られた。三津さん座り。」

 

 

乃美は自分の隣に三津を座らせ,それを見て桂は宮部の隣に腰を下ろした。

 

 

「そげな可愛らしい娘に怒鳴られたと?羨ましか。」

 

 

「そっ……その節は申し訳ございませんでした……。」

 

 

三津はあたふたしながら乃美の方に向き直り頭を下げた。

 

 

「構わん。間違ったことは言っちょらんけぇ。頭上げり。」

 

 

乃美は目を細めて三津の頭を撫でた。

 

 

「ええのぉ。私にも頭を撫でさせてくれ。」

 

 

羨望の眼差しを向けていると隣からは鋭い視線が突き刺さる。

 

 

「宮部さん。」

 

 

「冗談じゃ。」

 

 

『やっぱり変な人やった……。』

 

 

まだお酒も呑んでないのにこれだと呑むとどうなるんだと三津は苦笑した。

 

 

「失礼いたします。」

 

 

艷やかな声と共に静かに障子が開いた。

 

 

「お待たせ致しました。」

 

 

恭しく頭を垂れてしなやかに顔を上げた。

 

 

『うわぁ……幾松さんや……。綺麗……。』

 

 

普段会いに来るお松とは違って芸妓としての幾松に会うのは初めてで三津は釘付けになった。

 

 

顔を上げた幾松はゆっくりと三津の方へ視線を寄こした。

 

 

「お三津ちゃん!元気そうで良かったぁ!」

 

 

妖艶な笑みの幾松はすすすと歩み寄って三津に抱きついた。

 

 

「あの時はご心配おかけしましたし,わざわざ来てくれはってホンマに何てお礼言えばいい……か。」

 

 

抱きついた幾松の白粉の匂いが三津の鼻をくすぐった。

 

 

『この匂い……。』

 

 

嫉妬心を呼び起こす嫌な匂い。次第に三津の笑顔がぎこちなくなる。

 

 

「今日は私の妹達もお相手いたしますんでよろしゅうおたのう申します。」

 

 

そう言うと舞妓が二人入って来て幾松はすかさず桂の隣に座った。『着物,帯,簪……。全部お三津ちゃんに似合うのを見繕ったんやろなぁ。』

 

 

幾松はちらりと横目で乃美にお酌をする三津の全身を隈なく見た。桂の愛を一身に受けてるのが目に見えて憎らしい。

 

 

「可愛らしいお姉さんやわぁ。どなたが連れて来はったん?乃美様のお嬢様?」

 

 

「私の娘に見えるか?もし三津さんが娘なら絶対桂の嫁には出さんな。」

 

 

乃美はふんと鼻を鳴らして酒に口をつけた。お酒が入って顔を赤くした宮部はけらけら笑った。

 

 

「三津さんは桂さんが片時も離したくない女子だとさ。」

 

 

宮部がにやにやと笑いながら桂を一瞥すると舞妓達が目を丸くしてくすくすと笑った。

 

 

「嫌やわぁ幾松姐さんおるのにそんな冗談よしてくださいな。」

 

 

『まぁそうなるよね。』

 

 

不釣り合いなのは分かってる。三津は笑ってやり過ごすしかない。早くも居心地の悪さを感じる。

 

 

「こら二人共止しなさい。」

 

 

舞妓達を叱りながらも幾松は余裕の笑みで桂にしなだれかかってお酌をする。

 

 

『あぁやって白粉の匂いをつけて帰って来るのね。』

 

 

なるほどねと三津は納得しながら乃美へのお酌をし続けた。それしかする事がないんだ。

 

 

「三津さんは呑まんそ?」

 

 

ちょっとぐらいどうだ?と乃美が勧める。乃美に勧められては断れない。

 

 

「あまり呑めませんけどいただいても?」

 

 

「折角やけ呑み。」

 

 

笑顔で注がれては喜んで呑むしかない。

 

 

「いただきますね。」

 

 

ちょっとずつ呑み進めるのを肴に乃美は酒を呑む。

それを羨ましそうに眺める桂の太ももを幾松がつねり上げた。

 

 

「いっ……!」

三津は口を半開きにしてなるほど

三津は口を半開きにしてなるほどと感心していた。

 

 

「小五郎さん剣術凄いんですか?」

 

 

「えぇ,勝負を挑んでも私は勝てる気はしませんね。」 植髮香港

 

 

『本当に桂さんの事何も知らないのか?まぁ自分の事をひけらかす様な人でも無いのは分かるが何も知らなさ過ぎるのも不憫だな。』

 

 

「そんな凄いんですか!今日帰って来て疲れてなさそうならお話聞かせてもらおかな。」

 

 

目の前の三津は知らない一面を知れたと嬉しそうだった。

 

 

「何で桂さんを選んだんですか?」

 

 

勝手ながら吉田の方がお似合いだと思ってしまう。

 

 

「それは……私が前を向けるように助けてくれたからですかね。

気付いたらいつも近くにいて,いつの間にか支えられてて好きになってて。

小五郎さんの事何も知らなくても小五郎さんが長州藩士の桂小五郎と言う事実だけで私には充分なんやと思います。」

 

 

「ここぞとばかりに惚気けますね。やだなぁこっちが恥ずかしい。」

 

 

入江はにやにやしながら真っ赤になってく三津を眺めた。三津はそっちが聞いてきたのにと口を尖らせた。

 

 

「いや,思ってたより三津さんがしっかりした事を言ったので。

話に聞いてる三津さんは常に迷子で危なっかしい印象なんで。」

 

 

「常に迷子……。まぁ……道にも人生にも迷ってますよ間違いない……。」

 

 

がっくり項垂れる三津は優しい視線には気付かない。

 

 

「ほら,今私は三津さんを違う角度から見れましたよ?稔麿や桂さんは三津さんが危なっかしいと思っているが私は愛する人の為に真剣に向き合う誠実な方だと思いました。」

 

 

「入江先生は私の事褒める天才ですね。お茶のおかわり淹れてきます!」

 

 

鼻歌交じりに台所へ行った三津が先生!先生!と手招きで入江を呼んだ。

 

 

「どうしました?」

 

 

「あれ,たわんけぇ取って?」

 

 

棚の上の茶筒を指差した。

 

 

『……本当に人心掌握術に長けた人だ。』

 

 

入江は茶筒を取ると三津に手渡した。三津は上手に言えてた?と無邪気に笑う。

 

 

「えぇとっても上手ですよ。」

 

 

『こうやって狂わされていったんだなあの二人は。』

 

 

「私はその手には乗りませんよ?」

 

 

「え?何の話?」

 

 

おっとうっかり声に出してしまった。入江はこっちの話と意味深に笑った。

 

 

流石に会合では真面目な話をするからそれに集中出来て何とか終わらす事が出来たが,

 

 

「三津のせいで疲れが倍だ。」

 

 

げんなりする吉田に桂も久坂も深く頷いた。

 

 

「でもまだ九一から聞き出す事は山程あるからね。」

 

 

二人で何を話したのか問い詰めなくてはと藩邸に戻り入江を探したがまだ戻っていなかった。

 

 

「まさかあいつまだ入り浸ってんの?変な気起こしてないよね?」

 

 

「三津さんとの時間が相当楽しいんだな。」

 

 

久坂の意地の悪い笑みに桂と吉田の目が釣り上がる。

そこへふらりと入江が帰って来た。

 

 

「何を揉めてる?」

 

 

「九一こそ入り浸って三津と何してたの。」

 

 

嫉妬の塊に入江はふっと笑みを浮かべた。

 

 

「萩での話を少々。松陰先生の話と暴れ牛の話と。あとは三津さんの握り飯をいただいて帰って来た。楽しかった。」

 

 

入江の満足感に満ち溢れた顔に吉田の苛立ちが沸々と。

 

 

「何ちゃっかり三津の握り飯食ってんだ。」

 

 

「上手に握ってた。」

 

 

作ってもらっておいて何を偉そうにと食ってかかる吉田を尻目に桂と久坂は顔を見合わせた。

 

 

「そうか,九一助かったよ。三津には余計な事吹き込まなかっただろうね?」

 

 

「余計な事……。何も。」

 

 

自分では余計な事だと思わないので否定しといた。

 

 

「ただ桂さんに余計な事を言わせていただくとしたら,もう少し三津さんとお話されては如何でしょう?」

 

 

少し驚いた顔で入江を見つめたが一つ息を吐いて口角を上げた。

 

 

「それは三津が愚痴として溢したのかい?」

 

 

「いいえ,三津さんは惚気てましたよ。桂さんの事を何も知らなくとも貴方が長州藩士の桂小五郎だと言う事実だけで充分だと。

「さぁ巡察に行った行った。

「さぁ巡察に行った行った。斎藤,お前だけ少し残れ。」

 

 

土方の言葉に少し身構えて頷いた。

普段なら“えー斎藤さんだけ狡い!”なんてふざけた態度で居座る総司だが,腑に落ちない表情を浮かべながらも他のみんなと部屋を出た。

 

 

近藤土方山南の正面に一人残された斎藤は何でしょうと様子を窺う。顯赫植髮

 

 

「またお前の憶測が聞きたくてよぉ。」

 

 

『俺の頭ん中覗けるのかこの人は……。』

 

 

片口を上げて笑う土方に本当に根拠は無いですよと念押ししてから考えを告げた。

 

 

「多分桂は吉田よりも前から三津の近くに居たと思います。

吉田との関係が疑われた事であの色男が浮かび上がり,女将や客の証言で色男が現れたのが最近と聞いたので吉田よりも後と思っていました。ですが桂をいつ手当てしたのか時期を聞いていない。」

 

 

ただの憶測に三人は真剣に耳を傾けた。土方は面白いじゃねぇかと不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「三津が長州者に命を狙われていた辺り桂は三津の事を一切周囲に隠していたのかもしれません。桂が目を付けていたとなれば手出しなどしないでしょう。桂は三津にも自分の正体を隠してただひたすら想っていたのでは。」

 

 

「……忍ぶ恋か。だとすれば敵ながら天晴だな。」

 

 

憶測ながら筋が通ると近藤が唸った。「もういいぞ斎藤。面白いモン聞かせてもらった。

後は桂とっ捕まえて答え合わせと行こうじゃないか。」

 

 

土方の言葉に斎藤は礼をして部屋を出た。

 

 

「……あくまで憶測だ。真に受けるな。」

 

 

そう独り言を残して自室に戻った。

 

 

「何でバレましたかねぇ。」

 

 

上手く気配は消してたつもりなのにと総司は頬を掻いた。

 

 

『もしそうなら本当に天晴ですよ。どうやったらそんなに忍ばせられるのか教示願いたい。』

 

 

未熟者の私には到底無理だと自嘲して修行でもしようかなと道場へ向かった。

 

 

 

 

 

 

一人で留守番をする三津の所へ一人の遣いがやって来た。

ごめんくださいの声に玄関へ向かうと見覚えのある一人の男。

 

 

「あぁ!この前お話した!」

 

 

そうだ店の前を掃除している時に話しかけてきたあの男。

 

 

「どうも入江九一と申します。桂さんから預って来ました。これなら大丈夫じゃないか?との事です。」

 

 

三津の右手の方へ風呂敷包みを突き出した。

 

 

「貴方も長州の方でしたか。」

 

 

全然分からなかったと笑いながら,わざわざありがとうございますと風呂敷包みを受け取った。

 

 

「左手……稔麿は知りません。」

 

 

「え?」

 

 

一瞬ぽかんとしたがすぐに理解した。三津は微笑んで分かりましたと頷いた。

 

 

「気付かれないように気をつけますね。思い詰めてまた泣いてしまったら私も調子狂いますから。私が泣かされるならまだしも。」

 

 

「稔麿が泣いた?」

 

 

「はい。……お時間あるならお茶飲んで行きます?」

 

 

お話しますよと願ってもみないお誘いに二つ返事で上がり込んだ。

 

 

「どうぞ。」

 

 

お茶は上手に淹れる事が出来て安堵の笑みを浮かべお茶を出した。

 

 

「稔麿は泣いたんですか。玄瑞も桂さんも居たのに。」

 

 

三津は頷いて焦りましたと苦笑した。

 

 

「めっちゃ責任感じてたみたいで。私が勝手に身代わりになったんで逆に申し訳ない事をしたというか……。」

 

 

迷惑かけたかなと眉尻を下げて笑った。その顔を入江は無言でじっと見つめた。

 

 

「稔麿と言い桂さんと言い土方に斎藤も。どうすればそんな人心掌握術が使えるんですか。」

 

 

「人心掌握術?何ですかそれ。忍術ですか?」

 

 

そんな物体得した覚えがないと首を捻った。