桜司郎が出した答えは

桜司郎が出した答えは、黙秘を貫くことだった。元々嘘を吐くことには長けていない。その上、その道の専門である監察方を欺くのは不可能だろうと思ったのだ。

 

「籠……」

 

「そうや。ちゃうか?」

 

 

 その問いに、顯赫植髮 桜司郎は自身の着物の端をきゅっと掴む。別れ際の高杉の表情や言葉が脳裏に浮かび、その時の悲しさに再び襲われた。

 

「……すみません。今は、何も思い出したくありません」

 

 今にも泣き出しそうな表情をする桜司郎を見た山崎は、ぎょっと慌てると沖田を一瞥する。すると沖田は小さく首を横に振った。これ以上の追求は無用とのことだろう。

 

「ええと、怪我はどうや?」

 

「もう傷は「ええと……知りたいですか」

 

「はい。知りたいです」

 

 桜司郎は沖田からの問いに即答する。沖田は僅かな沈黙の後に、腹を括ると視線を合わせた。

 

「貴女の夢を見ました。……居ない間、見ない日は無い程に」

 

 ゆらりと行灯の火が揺れる。意味ありげなその言葉に、桜司郎は不意をつかれたように心臓を高鳴らせた。

 

「ゆめ……?」

 

「ええ。発つ前に見た夢と同じことが起こってしまったのなら、きっとその夢も同じだろうと思ったのです。……信じて良かった」

 

 

 沖田はニコリと微笑み、目を細める。あまりにも優しく、慈しむように笑うためか桜司郎もつられて口角が上がった。

 

 夢で見たことが現実に起こるなど、この世の誰が信じるだろうか。偶然か、狂言と言われるのがオチだろう。だが、それよりも非現実的なことを体験している桜司郎は、相手が沖田ということもあり無条件で信じた。

 

 

「沖田先生、私もね。先生の夢を見ました。熱で魘されている時に、もう一度会わなきゃって思って。だから、きっと頑張れたのだと思います」

 

 桜司郎はそう言うと、沖田の手をそっと取る。この存在に何度生かされているのだろうかと思うと、胸の奥が暖かくなった。

 

 沖田はその様子を黙って見詰める。着物の裾から覗く桜司郎の手首は依然よりも細くなっていた。心做しか、顔周りもより締まっている。刀傷や銃弾による熱は痛みも伴うため、余計に辛いものだ。それを一人で耐えたのかと思うと、哀れに思える。

 

 

「生きていてくれて、良かった。山崎君から、貴女のボロボロの着物が送られて来た時は生きた心地がしなかったんですよ」

 

「着物が……?」

 

「ええ。背中がバッサリ斬られていて、あと二箇所被弾した痕がありましたね」

 

 

 その言葉を聞いた桜司郎はみるみる顔色が悪くなった。後ろ傷は武士の恥であり、新撰組では切腹となるのだ。

 

「私、背中に……。士道不覚悟ですか」

 

 その問いの意味を察した沖田は首を横に振る。

 

「貴女は逃げて斬られた訳ではないでしょう。むしろその逆で、近藤先生を御守りした結果な訳ですから、咎めなど有り得ません」

 

「そうですか……。良かった」

 

 安堵の息を吐く桜司郎とは反対に、沖田は眉を下げて何処かそわそわとしていた。

 

「……傷、痛みますか」

 

「触れば痛みますね。毎日軟膏を塗り込めて貰っていたのですが、それが一番地獄を見ます」

 

 桜司郎の脳裏には、袖捲りをしたおうのが容赦なく刷り込んできたことを思い出す。

 

「そうですか……。今日はもう手当は済んだのですか?」

 

「今日……。いえ、まだですが。大きな鏡でも無いと自分では塗れなくて」

 

 そう返せば、沖田は真剣な表情になった。