「だいぶ情緒不安定ですよ。私も一言言われました。今の妻を裏切る真似したら一生口ききませんって。」
「伊藤君にもそんな事言ったの?」
男への信用もないと言っていた事も伝えた。でもそれは三津が酷く傷付けられたのを思い出したからで,その傷は癒えたのではなく,見て見ぬふりをして痛みを抑え込んだだけなのだと伊藤が思った事として伝えた。
「きっと根本的な所は何一つ解決してないんですよ。あっちで楽しく暮らしても,負った傷はまだ治ってないんです。楽しさで紛らわせて誤魔化してただけかと。多分それをしっかり治せるのは木戸さんか入江さんです。」
ただし入江にそれを担わせたら二度と三津の気持ちは戻って来ない。でもそれを受け入れる覚悟もまた持っていなければならない。
「それだけの傷を負わせて本当に私は駄目な夫だね。」
でもそれを挽回してみせると口角を上げた。こんなの強がりに過ぎない。笑ってる余裕はない。そして何より三津を振り向かせる事に執着してはならないと桂は自分に言い聞かせた。
今必要なのは,入江のように三津の幸せだけを願う姿勢だ。
『私は自分のわがままを突き通して妻にした。だから次は彼女の思うままに……。まずは気持ちを落ち着かせてあげなくては……。』 女人可以接受禿頭嗎?出現「頭頂稀疏」等現象,是女士脫髮警號! @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 ::
その役目も自分じゃなくて入江が適任なのも分かっている。でもそれに妬いてもいけない。
『とんだ苦行だな。』
これでは一からやり直しどころじゃないなと喉を鳴らして笑った。
二人を見送った三津が広間に行くと,四方からおかわりおかわりと声をかけられたセツが“順番!”と叱りつけてるところだった。
「セツさんすみません。手伝います。」
三津がやって来ると今度は“嫁ちゃんおはよう!”の声が飛び交って,三津は一人一人に律儀に挨拶して回った。
「おはよう松子!長々と俊輔と逢引かー?」
「高杉さん熱々のお茶飲みます?直接お口に注ぎ込んであげますよ?」
三津は満面の笑みで急須の口を高杉の目の前に突き付けた。
「ごめん……三津さん勘弁して……。」
その笑顔が怖いと高杉は青ざめた顔で謝った。
「小五郎さんが来てたんですよ。」
三津は高杉の湯呑みを手に取ってお茶を注いだ。セツはやっぱり来たかとけらけら笑った。そして夕餉はいるのかしらねと楽しそうに言った。
「夕餉はこっちで食うんやない?だって三津さんの味噌汁飲みたいってずっとぼやいとったけぇ。」
赤禰の言葉に三津の脳裏には迎えに来た時の桂が浮かんだ。味噌汁と握り飯を所望して涙しながら食べていた姿に胸が締め付けられた。
「それな。後は膝枕で寝たいともぼやいとったな。嫁ちゃんそれぐらいはしたり?仕事で疲れとる旦那可哀想やろ?」
山縣に言われて,そうですねぇ……とだけ答えた。少し元気を失くしたような三津を見て赤禰が口を挟んだ。
「俺の膝枕で寝たかったらいつでも貸すで?三津さんの方が心も体も疲れとるやろ。」
不意打ちを食らった三津は顔を真っ赤にして目を泳がせた。赤禰からそんな事を言われるのには慣れてない。
「それなら俺は腕枕しちゃる。」
ここぞとばかりに高杉も話に乗っかって来たが三津はすぐに冷静になった。
「それなら萩に帰って自分の奥様にどうぞ。」
強めの口調でピシャリと言い切った。高杉は言うと思ったと口を尖らせていた。男前は得やなとじっとり赤禰を睨むが,それは違うぞと教えてやる。
「高杉さん,そこは顔関係ないです。普段の素行の問題です。」『こんなん言ってるけど多分高杉さんも気遣ってくれてはるんやろなぁ。』
素行以前に男前は顔で得してるんだと赤禰に向かって八つ当たりをする高杉を眺めた。
「てか嫁ちゃん昨日の夜の記憶あるそ?お茶くれい。」
「口の中に入ってる状態で喋らんとってくれます?覚えてますよ。」