の言葉だ。

の言葉だ。

 

それを悟った瞬間、形容しがたい感情が腹の底から湧き出ては止まらない。

 

 

「おれが…お前を…殺すのか」

 

土方はそう言うと、經痛 原因 山南の胸ぐらを掴んだまま項垂れた。

 

「違いますよ。私が自分で選んだのです…。土方君は何一つ悪くない。貴方はいつもそうやって、自分で何でも背追い込もうとする。悪い癖ですよ」

 

「何が違うってんだよ…。何でお前はいつもそうなんだ。綺麗で居ようとしやがるんだ。恨み言でも何でも言いゃあ良いじゃねえか…ッ」

 

 

山南は慈しむような視線を土方へ向ける。そしてその背へ手を伸ばすと、母が子をあやす様に摩った。

 

 

「恨み言なんてありませんよ、むしろ…感謝しています。…私はね、岩城升屋で死んだのですよ。武士の命である、刀を振るうことが出来なくなった」

 

過去を思い出すように目を細め、左手の拳を握る。

 

「それでも、新撰組は私を必要としてくれた。貴方は私を生かそうとしてくれた…。それにどれだけ救われたか」

 

 

そう言いながら、山南は泣き笑いのような表情になった。心からの感謝の言葉なのだろう。

 

 

「だから、せめて最期は新撰組の為に死にたいのです。武士として生かしてくれたこの場所で、武士として逝きたい」

 

「そんなの…お前を必要とするなんて、当たり前のことだろうが…ッ。お前は、馬鹿だ…!大馬鹿者だ!」

 

 

気鬱になろうとも、意見が衝突しようとも、山南は最後まで新撰組のことを考えていたのだ。江戸から上ってきた時と同じように、土方と同じ道を見ていたのだ。

「そうかも知れませんね…。けれど、土方君なら私の死を無駄にはしないと信じていますから」

 

それは最大の信頼の言葉であり、土方は胸がいっぱいになる。

山南が戻ってくるまで、裏切られたのだという気持ちが心のどこかにあった。だが、それは違うのだと、全て山南の最期の策略のうちだったのだと分かった。

このまま山南を失うくらいなら、裏切られていた方がマシな筈なのに。何処か満たされたような気持ちになる自分に土方は気付いた。

 

このままでは恥も外聞も無く泣いてしまいそうだと、土方は小さく息を吐く。

 

 

「…俺ァ、お前のそういう綺麗な所が嫌いだったぜ。どれだけ泥臭ェことをしても、お前は澄ましててよ…」

 

土方の精一杯の強がりに、山南はくすりと笑みを浮かべた。

嫌いと言っているのに、その表情は何処か泣き出してしまいそうな物で。

 

「私は、土方君……いや、"歳さん"の強情な所も、勝つ為には手段を選ばない所も…」

 

 

嫌いだと言いたいのか、と土方は顔を上げて山南を睨む。山南は目を細めて優しく口角を上げた。

 

 

「嫌いじゃなかったですよ」

 

 

その言葉に土方は再度胸を詰まらせる。山南の胸ぐらから力無く手を放した。

 

「そういう、所だって…言ってんだよ」

 

唇がわなわなと震え、息が苦しい。腹に力を入れていないと座っていられない。

 

言いたいことはあるのに、言わなければならないことは山ほどあるのに、言葉として出て来なかった。

 

──本当は逃げて欲しい。今からでも、俺を殴ってでも逃げろと叫びたかった。お前にはまだ未来がある。明里はどうなる、お前を慕う者の心はどうなる。そうみっともなく大声で言いたかった。

 

だが、それは山南の覚悟を踏み躙ることになる。それこそ一生赦して貰えないだろう。

 

 

「山南、さん…」

 

「はい」

 

「……今まで、済まなかった。俺ァ、お前の、優しさに甘えちまってたんだ」

 

 

絞り出すようにして出た声は驚く程に震えていた。きっと情けない顔もしているのだろう。

 

「…私の方こそ、貴方だけを修羅にさせてしまい済みませんでした。どうか、新撰組を…よろしくお願いします」

 

 

山南は今までで一番といって良い程の穏やかな笑みを土方に見せた。

 

「おう、俺ァ死ぬまでこの新撰組で生きてみせるさ。何処までも進んでやる」

 

土方も目頭が熱くなるのをグッと堪え、笑みを浮かべる。

それは誓いだった。山南は満足気に深く頷く。

 

 

土方はそれを見ると、腰を浮かせて立ち上がった。そして部屋を出て行く。