なにをいってるんだ

なにをいってるんだ、おれ?いまのおれは、土地をもってるどころか根無し草なのに。しかも、時代までさかのぼっている。貯えといっても、雀っていうか蚊の涙ほど。それを、家賃収入で片手団扇で暮らそうってか?

 

 現代だったら、年末ジャンボとサマージャンボに当選でもすれば、それを元手にいろんな資産運用でもして、働かずに喰っていけるだろうか。

 

 そんなごうつくばりで愚かなドリ 子宮環 ームは兎も角、永岡家から継いだ秋元家は、現代にもつづいている。屋敷じたいは解体されているものの、床の間の柱や、局長や副長が戦勝祈願をしたという祠など、ちゃんと残してくれている。

 

 副長は、その祠のまえにいた。

 

 稲荷大明神を祀る祠である。ちなみに、この稲荷大明神は、の時代に、京都伏見稲荷大社より分社建立されたらしい。

 

 京で活躍し、その名を日本中に轟かせた新撰組が、つかの間ながら滞在する。

 これもまた、ある意味なのであろう。

 

 史実では、局長や副長が戦勝祈願をしたということになっている。

 うなずける話である。

 

 って、それは、未来に伝えられていることである。いまの時点では、副長は、ついさきほどたまたまみつけたんだろうし、局長にいたってはその存在すらしらないかもしれない。

 

 兎に角、そこへちかづいてみる。

 

 副長は、祠のまえでぼーっと立っている。その背は、哀愁が漂っているというよりかは、カッコつけてる感が半端ないって気がするのは、思いすごしだろう。

 

 つまり、おれは親友に拒否られた、かわいそうな男なんだぞ、的な。

 

 たぶん、おれがイケメンにたいしてやっかんでるから、そう感じられるんだろう。

 

 そんなおれの複雑な心境をよそに、相棒はとっとと副長のすぐうしろまで駆けよると、その左脚許にお座りしてしまった。

 

 この辺には、灯火的なものはいっさい設置されてはいない。が、暗さになれた双眸(め)には、月明かりだけで充分みてとれる。

 

「おおっ、兼定か」

 

 涙声でも怒りをふくんでいるわけでもない、副長のいつもの声。手タレのごときすらりとした左掌を伸ばすと、相棒の頭をがしがしなでる。

 

 垣間見える左半面は、月の光を受けて蠱惑的ですらある。

 

 誤解があってはならない。いまの表現は、あくまでも女性目線のものである。男性のからすれば、「なにすかしてんねん、われ?」であろうか?

 

「それと、いつから放逐されてもおかしくない、主計か」

 

 ジーザス・クライス・・・。

 

 いまのがおれのあたらしい二つ名、なのか?

 

『いつ放逐されてもおかしくない主計』

 

 完璧、ヤバしでしょう?

 

「副長、いくらなんでもひどすぎやしませんか?まさか、放逐するって話があるんですか?」

 

 相棒をなでるのをやめて、こちらへ振り返った副長のイケメンのは、やっぱりイケメンである。しかし、いろんな感情がないまぜになっているのか、翳りとも疲弊しているともいえぬ、表現のしようのない、ビミョーなになっている。

 

「おれを追うよう、かっちゃんが命じたのか?」

 

 副長は、おれの進退についてはスルーし、局長について問う。

 

 まぁ、当然のことといえば当然か。

 

「ええ、そうです。あの、副長、大丈夫ですか・・・」

「大丈夫なわけがねぇじゃねぇか、ええ?これが、大丈夫にみえるか?」

 

 おれの心からのいたわりを、ソッコー嫌味でかえされてしまった。

 

 どうやら、大丈夫みたいだ。「副長、局長のさきほどの・・・」

「わかってる。おまえにいわれずとも、わかってるんだよ」

 

 かぶせるどころか、いいたいことをいわせてもらえない。

 

 大阪人よりせっかちだ。

 

「では、なにゆえすねたみたいに・・・」

「すねてねぇ。ああでもしなきゃ、かっちゃんがおさまりがつかねぇだろうが。がんばって演じてるのによ」

 

 もしもし、副長?最後までいわせてくださいよ。

 

「やはり、副長も気づいて・・・」

「ったりめぇだっ。だいたい、かっちゃんは、昔っから嘘つくのが下手くそなんだよ。くそっ・・・。苦手な嘘をついてまで、おれたちになにもしてもらいたくねぇってこった。助かりたくねぇってことなんだよ」

 

 またしても、最後まで話せなかったのは別にしても、副長のいうことに同意せざるをえないだろう。

 

 もうこれで、おれたちにできることはない。説得も懇願もききいれてもらえないし、秘密裏に動くことだってできない。

 

 チェックメイト。を受け入れる局長を、見守るしかないのである。

 

「副長・・・。あなたは、せいいっぱいできうるかぎりのことをされています。そのことは、永倉先生や原田先生、斎藤先生、島田先生、蟻通先生、ぽちたま先生、もちろんおれも、よくわかっています。なにより、局長が一番よく理解されてらっしゃいます。その局長が、それでもなお、望まれていらっしゃるのです。あなたのせいでは、けっしてありません」

 

 そこで一息いれる。酸欠になりそうだ。

 

「おれのせいです。誠の史実は、おれしかしらない。