をはばかることなく

をはばかることなく号泣している。その両肩を、容赦なく「局長バンバン」する局長。もちろん、五名の隊士たちも、その洗礼の対象であることはいうまでもない。

 

 そして、安富は、局長だけでなく花子親仔との別れも、大号泣でおこなった。

 

 正直、みなひいている。

 

 そこまで泣けるものなのか?

 

 とはいえ、意外懷孕 だれも笑ったり揶揄ったりしない。ただ、遠巻きにみまもっている。

 

 局長は局長で、江戸にきてから行動をともにしてきた二代目「豊玉」と、心ゆくまで別れをすませたようだ。

 

 馬は、繊細である。そして、動物の勘というのは、「ナOョジオ」で紹介されそうなほど、すごいものである。

 

「豊玉」は、離れたがらない。かれは、局長と二度と会えぬことを、局長が死ぬことを、感じているのだ。

 

 前脚を踏み鳴らし、頭部を激しく振って嫌がる「豊玉」。その悲痛な鳴き声は、きいているこちらまで、悲哀を感じさせる。

 

 花子親仔と別れをすませた安富のいうこともきかない。ついには、双子がなだめなければならなかった。

 

 そして、安富らと馬たちは、会津へと旅立っていった。

 

 

 市村と田村のまわりに、村の子どもたちがあつまっている。すっかり仲良くなったらしく、別れもつらいのだろう。

 

 じつは、金子から打診されたらしい。「二人とも、金子家で養育する」、と。   

 

 なにも下働きとか小者としてではない。養子に迎え、ちゃんとした生活の保障はいうにおよばず、のぞめば寺子屋や剣術道場など、教育やスポーツ、文化活動もさせてくれる、と。

 

 だが、二人ともソッコーことわったらしい。

 

 それは、日野でも同様であった。副長の実家やお姉さんの嫁ぎ先の佐藤家、泰助の井上家、井上源三郎の実家の井上家から「ぜひとも」、と。

 

 それもまた、彼らはソッコーことわっている。

 

 もったいない話である。

 だが、それが二人の判断なのだとしたら、で、応じてくる。

 

「久方ぶりに、髷でも結おうかなと思っておる」

 

 そのまともすぎる回答に、面喰らったのはいうまでもない。しかも、ツッコミどころ満載である。

 たとえば、なんでこのタイミングで?しかも髷を結う?なんでスキンヘッドでもポニーテールでもパンチパーマでもなく、髷なのか?

 

 が、かれのマジなオーラが、ツッコむのを躊躇わせたのである。

 

 このとき、ツッコんでおけばよかった。のちに、そう後悔することになる。

 

 

 ここのところ曇天つづきであったが、この日は快晴、おれたち二百二十七名は流山へ。安富と五名の隊士たちは会津へと向かう。

 

 会津組には、甲府の戦で死ぬはずであった加賀爪と上原も入っている。

 

 朝一番に周知され、朝食は静かにおわった。

 

「才輔。その選別は、局長からの心づけだ。しっかり礼をいっておけ」

 

 俊冬から袱紗を受け取った安富に、副長が声をかける。

 

 安富と五名の隊士にとって、局長とはこれで今生の別れとなる。

 

「すまぬな、急なことで。なれど、才輔の乗馬の腕前は、会津藩士たちのおおくをうならせるもの。わたしの分まで、しっかり頼むぞ」

「局長・・・。わたしの腕前など、ぽちたまに及ぶべくもなく・・・。なれど、新撰組馬術師範として、しっかりやります」

 

 安富は、周囲の「副長。明日、流山へ移ってしまえば、別れのときはすぐにでもまいりましょう。あなたは、ここでは決めていらっしゃるようですが・・・」

 

 俊冬は副長の懐を脅かすと、四本しか指のないほうの掌で副長の右側頭部をやさしくなでる。

 

「ですが、ここではまだ覚悟をされていらっしゃらない。否、たりていないと申したほうが適切でしょうか」

 

 俊冬のおなじ掌が、つぎは副長のシャツの胸元をなぞる。

 

「われらは、玄人です。一夜あれば、すべてをすますことができます」

 

 かれの声や口調は、いつもとちがう。

 

 一夜あれば、暗殺、偽装など、すべてをすませることができる・・・。

 そのように伝えているのである。