から、局長は生き残ると、みなさんにお話しすればよかったのです。そうですよ。そうしておけばよかったんです。いまさら、ですが」
副長のせいじゃないといいながら、ふと思いついたことを口にだしていた。いいながら、自分の馬鹿正直さというよりかは馬鹿さ加減に、反吐がでそうになった。
局長も副長も蝦夷までいっ 朱古力瘤 て戦い抜き、終戦後は敵から逃れて大陸に渡るんだ、といえばよかったのだ。そうなれば、局長もそのに従ってくれたかもしれない。そうなれば、必然的に副長も従うことになる。
それをいうなら、史実を捻じ曲げて伝えさえしていたら、井上も死なずにすんだかもしれない。永倉や原田、斎藤だって、無理矢理はなれずにすんだかもしれない。
なにゆえ、そんな簡単なことを思いつかなかったのか・・・。
「主計、いってるだろう?おまえのせいじゃない」
副長のをそむけ、そのままそれをさげて相棒をみてしまう。
相棒は、こちらをみあげている。いまは、いつものようにそっけない態度ではなく、が、おれをじっとみつめている。
内心、狼狽してしまった。
これまで、かぞえきれぬほど感じている違和感。あらためて感じると、狼狽してしまう。
「たとえおまえが嘘八百を並べ立てようと、をかえることなどできやしねぇ。それは、おまえも頭のどっかでわかってんだろう?たまに指摘されたとおり、おれに覚悟が足りないだけだ。無念だが、かっちゃんをとめることはできねぇ。あとは、おれにできることをやるしかねぇ。ということは、助命嘆願か?主計、きいてるか?」
どうしていいのか、わからなさすぎる。
その為、副長の思いやりの言葉のほとんどを、スルーしてしまっていた。
「申し訳ありません。やはり、おれの配慮が・・・」
「やめやがれっ!それはもういい。それよりも、かっちゃんが投降したあとのことだ。おれは、だれに頭をさげればいい?」
そうだ。ここでうだうだいっていても仕方がない。あとは、外部から圧力なりゆさぶりをかけたりして、できうるかぎりのことをするしかない。
それこそ、藁をもつかむしかない。
しかし、正直なところ、絶望的であることはわかっている。
だが、処刑まで二十日ほどある。それに、こちらには史実に語られていない、秘密兵器がある。
それを武器に、どうにかを覆すことができないのか。
たとえ1%でも可能性があるのなら、やるべきであろう。
「そうだよな、相棒?」をあわせたまま、相棒に問う。すると、相棒がにんまり笑ったような気がした。
「幕閣、商人をはじめ、有力な人物です。とくに、勝海舟。勝先生には、嘆願書をしたためてもらうことになります。おれがそれを、敵に届けるのです」
そして、おれはその場でとっ捕まり、牢にぶちこまれるのである。「きいたか、ぽちたま?」
副長の呼びかけで驚いてしまった。いつの間にか、双子がおれの背後にあらわれていたのである。
「局長はおやすみになるとおっしゃり、部屋にひきとられました」
俊冬は、副長に告げる。
「さきほどの件は、わたしが探ってみましょう」
振り向くと、俊冬がおれをみつめつつ応じた。もちろん、その隣の俊春もおれをみている。
「弟は、局長に同道させます」
「そりゃぁ心強い。あとは・・・」
「副長、利三郎に命じてください。本来なら、利三郎とさんが同道することになっています。ただ、村上さんは途中で引き返すようですが。利三郎と、嘆願書を届けにいって捕まるおれも、処刑されるはずのところを、局長の願いで助命されます。そして、局長の死の後、おれたちは逃げだすわけです」
村上は、という大砲役の隊士である。あまり目立つことのない、おっとりとした好青年で、刀や槍より銃や大砲の知識とスキルがある。
「わかった。利三郎にも、百年に一回くらいは危地に飛び込んでもらわねばな。まっ、宮古湾同様、あいつならうまくやりすごすであろう」
そして、副長は、「利三郎、宮古湾で死す」という史実を、かたくなにかえようとする。
だいいち、百年に一回なら、これで一回分消費してしまう。
それこそ、「一生のお願い」や「閉店セール」的に、いつでもやってるのなら話は別であるが。
「ぽち、頼むぞ」
「承知」
をうなずきつつ了承する。
結局、そのあと横になってはみたものの、眠れなかった。
副長は、嘆願書の草案を練っているんだろうなとか、双子は、あいかわらず鍛錬をしているんだろうなとか、なにゆえかどうでもいいことばっかり思い浮かんでしまったのである。
早朝より、分宿してる隊士たちが順番に呼びよせられた。
新撰組の本陣である永岡家で、双子がつくる朝食をいただくという名目である。
「勘吾、雅次郎、俊太郎。少数ずつ組をつくり、一刻もはやく
俊春は、副長の