のようだった。

のようだった。

 

 

「私が京を出る際に、貴女を探す猶予として七日頂きました。ですが、実際は二日で見付けることが出来たのです」

 

 何処か回りくどく、避孕方法 | 誤信可樂洗私處 的を得ないその言葉に桜司郎は小さく頷きながらも小首を傾げる。

 

 沖田は更に笑みを深くした。

 

「つ、ま、り……。今日一日くらい羽を伸ばしても問題無いという事です。宜しければ、少し回り道をしてから帰途に着きませんか」

 

 

 その提案に、桜司郎は驚きの表情を浮かべるが直ぐに微笑んだ。

 

「はい!是非!」

 

 その弾んだ声を聞きながら、沖田は不意に立ち止まる。それに釣られて足を止めた桜司郎を見ながら、ふと真剣味を帯びた表情になった。

 

 

「……その、誰も見ていないですし。の格好をしてみませんか」

 

 沖田からの提案に、桜司郎は目を丸くする。その真意を探るような視線を向ければ、沖田は憂いを帯びて切なげに笑った。

 

「単なる私のワガママですよ。……帰ったら、見合いをしなければならなくて」

 

「え……。お見合い……ですか」

 

「ええ。天然理心流を継ぐ者は嫁を取らなければならないとのことです。私は近藤先生の背を見て育ったようなものだから。嫌とは言えません」

 

 

 桜司郎は自身の胸の奥が嫌な感情で満たされる心地に、視線を彷徨わせる。向こうの空は青く澄んでいるのに、自分の周りだけ黒雲が立ち込めたかのような感覚がした。

 

「……ですから、生涯に一度くらいは。私の意志でと連れ立ってみたくて」

 

 その相手が自分で良いのかと不安な気持ちがあったが、桜司郎は小さく頷く。他でもない沖田の切なる願いを叶えたかった。へ行くと、女物の着物を貸してもらう。沖田は着物を買うつもりでいたが、隊へ持って帰ることが出来ないからと桜司郎が断った。

 

 近くの髪結屋へ桜司郎が行っている間に、沖田は席を外す。辺りを見渡すと、通行人へ話し掛けた。

 

「あの、小間物屋はこの辺りにありませんか」

 

「小間物屋……なら、あそこに」

 

 男が指差す店を見やると、沖田は頷く。

 

「分かりました。どうも有難う」

 

 そしてその小間物屋の暖簾を潜ると、やらと豊富な品揃えが沖田を出迎えた。

 

 人通りの少ない街道だが、店の中には女が数人おり、沖田は気分が悪くなる。だが、深呼吸を何度かしてから品物を眺めた。

は近付くだけでも気分が悪くなるのか。

 

 ぼんやりと考えていたところへ、歳の取った店主が近付いてくる。

 

「お侍さん、贈り物かい?」

 

「あ……、ええ。そんな所です」

 

 店主は沖田をジロジロと見た。そして僅かに口角を上げると、近くにあった簪を指差す。

 

「男にとっちゃ女への贈り物ってェのは大勝負じゃけえ。これくらい華やかなものでもええと思うが」

 

 銀細工に赤の蜻蛉玉が付いているそれを沖田は手に取る。近藤から貰った金にも未だ手を付けていない上に、物欲の無い沖田は給金をほとんど残していた。多少奮発しても懐は全く痛まないほどに。

 

──喜んでくれるだろうか。

 

 

「では、これを。後はそこの紅も包んで下さい」

 

 簪を送る意味を沖田は知らない訳では無かった。最近という嫁を取った原田が、彼女を振り向かせるために小間物屋で頭を抱える姿を見ていた。その時の会話が脳裏に浮かぶ。

 

『なァ、総司。知ってるか?櫛は苦死とも書けるから、女に渡す時は注意しなきゃなんねえ。苦労も死も共に乗り越える覚悟を持って渡すんだ。つまり婚姻を結ぶ時だな。全く先人は粋なことを考えるよ』

 

『へえ……。なら、簪はどうなのですか』

 

『簪か?似たようなもんだが、櫛よりは重くないな。それはなァ──』

 

 

 沖田は暖簾を潜り、外へ出た。雲のひとつもない青々とした空を眩しそうに見上げる。