二人が、おたがいを

二人が、おたがいを想ったり想像しあうなんて・・・。だいいち、めっちゃBLチックですよ、それ」

 

 俊冬をみると、とくになんのリアクションもない。に浮かぶ表情は、なんの感情もこもっていないようにみえる。

 

 そんなにさみしいのか?經痛 そんなに力がでないのか?

 

 日頃、いじられいびられいばられまくっているおれは、よほどいろんなものがたまっていたらしい。つまり、調子こいている。

 

 まだまだツッコミつづけたい。

 

「でも、意外ですよね。おとなしくって控えめなぽちでしたらわからないでもないですが、たまがそこまでさみしがり屋さんだったなんて。どちらかといえば、手のかかる弟が側にいないので、いまのうちに女遊びするぞって感じにみえるのに。いやー、弟に兄貴面するだけでなく、足腰が立たなくなるまで痛めつけたり傷つけたりするたまが、一人ではなんにもできないなんて、マジ、笑えますよ」

 

 ツッコミをこえ、さらに調子こいてしまう。どこまで調子にのれるか、試してみたい。

 

 ってか、なんて気持ちいいんだ。

 

「くーん」を感じたのか、その鼻面がおれのほうへ向けられる。

 

 相棒は、鬼か悪魔か、いや、この世界で一番極悪非道なおこないをしでかした

 

 相棒の甘えた鳴き声で、はっとわれにかえった。理想の世界から現実世界へとたたき落されたように、引き戻されてしまった。になっている。しかも、すっくと立ちあがり、こちらへあるきだそうと・・・。

 

 マジ、殺られるかも・・・。

 

 唾を呑み込む音が、耳に響き渡る。

 

「いいのだ、兼定。わたしは、こういう誹謗中傷には慣れておるゆえ」

「ちょっ・・・。たま、誹謗中傷って、そんなつもりでは。すみません、調子にのって、思ってもいないことばかり口走ってしまいました」

 

 自分で「それは嘘や」ってツッコミつつ、とりあえず謝りまくる。

 

「いいのだ、主計。いちいちもっともなこと。わたしがひどいということは、自身、よく心得ておる。最悪最低、地獄か奈落の底にでも落ちやがれといわれても、詮無きこと」

 

 ホワット・ザ・ヘル・・・。

 

 いったい、かれになにが起こったのか?

 この眼前にいる神妙でよい子なかれは、誠に俊冬なのか?

 

 勝の屋敷でのかれより、よほど不気味である。

 

「それで、主計。このあと、副長はどうされるのだ?」

 

 が、突然の方向転換。

 これは、いつものかれである。

 

 もしかして、おれを油断させておいてブスリ、なんてことはないよな?

 ってか、俊冬なら、おれが油断しようが厳重警戒態勢の監視下にいようが、蚊を掌でぱんとたたいてぺっちゃんこにしてしまうよりもたやすく、刺し殺すなり突き殺すなり斬り殺せるだろうけど。

 

「あの・・・。誠に申し訳ございません。つい、調子にのってしまったのです。さっきのことのほとんどが、そうですね。きっとちがう世界に住んでるおれが、おれを困らせるためにいったことにちがいない」

 

 言葉がでるに任せているが、きょうび幼稚園児でももっとまともないいわけをするだろう。

 

 いいわけの発想の貧弱さに、自分でも呆れてしまう。

 

で一つうなずく。

 

 うわー・・・。不気味もだが、これじゃぁ第三者からしたら、一方的におれがひどいやつにみえるだろう。

 

 負けた。完敗だ。もうどうにでもしてくれ。

 

「副長はこのあと、幕府の逃亡兵たちとともに会津へ向かうのですが、宇都宮城での戦いで脚を負傷され、今市というところへくだります。もっとも、その翌日にはまた会津へ向かいはじめますが。そのまた翌日、局長が・・・」

 

 おれが俊冬にどうされようと自業自得であるが、いまは局長や副長のことが優先である。きりかえ、そう説明する。

 

「そのことを副長に伝えなかったのは、さすがだな」

 

 俊冬には、わかっているらしい。

 

「さすがに、学習しましたので。あとは、副長ご自身で行動されるでしょう」

 

 すると、俊冬はちいさな吐息をもらし、北西の方角を仰ぎみる。

 

 その方角に、板橋があるのだ。

 

「たま。おれがいない間、相棒を頼めますか?」

 

 相棒のことを頼んでみる。いまここで頼む必要もないのだが、かれの様子があまりにもおかしいので、なにかいわねばと思ったのである。

 

「すまぬな、主計。じつは明日、おぬしが板橋に向かうころに、わたしもしばし別行動するつもりだ」

 

 北西の方角から、こちらへを戻す。

 

「ええ?いったいどこに?ってか、相棒は兎も角、副長はあなたがいらっしゃらなければ、心細いはずです」

「おいおい、おつぎはなんだ?さきほどの埋め合わせに、一つ二つわたしがよろこぶようなことを申しておこうとでも?」

「ち、ちがいますよ。よいしょじゃありません。もちろん、社交辞令でも。あなた方が考えている以上に、副長はあなた方を頼りにしているんです。とくに、永倉先生、原田先生、斎藤先生がいらっしゃらないいま、副長が頼れるのはあなた方だけなのです」

「主計、かいかぶりすぎだ。それに、われらはおぬしがいま申したような存在ではない。自身のためにも、あまりわれらを信用するな。あとで、悔やむことになる」

「どういう意味なんです?裏切るってことですか?」

 

 今日のかれは、おかしすぎる。かれの近間に入るギリのところまでちかより、声を落として言葉を投げつける。

 

「裏切る?そういう意味ではない。副長やおぬしを落胆させたくない、という意味だ。いや、落胆ではなく、絶望させることになるであろう。そして、恨まれ軽蔑されることになる。真意を申すと、わたしはそれがつらいのだ」