が、イタイだけな

が、イタイだけなのかもしれない。

 

 一歩、また一歩と勝へとちかづく俊冬。軍靴のままである。畳が傷んでしまっているだろう。

 

「案ずるな。奥方は関係がない。奥方に危害を加えるようなことはせぬ」

 

 凄みのある笑み。避孕 俊冬の頬の傷が、よりいっそう迫力をあたえる。

 

 俊冬が歩をすすめるごとに、勝は、後ろ手で尻をずらして逃れようとする。

 

「もういい、俊冬。勝先生がどうなろうがしったこっちゃねぇが、つまらねぇことでおまえの掌や二つ名を穢す必要はねぇ。勝先生、おれの気がかわらねぇうちに、とっとと嘆願書を記してもらいましょうか」

 

 そのとき、副長が立ち上がり、俊冬と勝の間に割って入った。

 

 勝をみおろし、上から目線でいう。

 

 俊冬が口を開きかけた。本来なら、「よろしいのですか?」とか、「ここで見逃せば、あとでどうなるかわかりませんよ」とか、いうところだろう。

 

 しかし、かれはそんなベタなことはしない。そのかわりに、じつに優雅で自然に、副長の脚許に片膝ついて神妙にを垂れる。

 

「おおせのままに」

 

 そして、従順な執事のごとく了承の意を示す。

 

「わ、わかった。すぐに書く。すぐに書くから、とっととでていってくれ」

 

 勝は、副長まで気がかわられてはたまらないとばかりに、ソッコー準備し、嘆願書を書いてくれた。

 

 おれが受け取り、筆をもったまま呆けている勝に背を向ける。

 

 縁側にでると、相棒とがあった。すると、相棒はすっとそれをそらすと、おれごしに勝をみ、口唇をあげてうなり声をあげる。

 

「ひいいいっ!はやく、でてゆきやがれ」

 

 勝の悲鳴と懇願が、背にあたった。

 

 笑うところではないが、笑ってしまった。

 

 勝は、誠に犬が怖いんだ。

 

 そして、おれたちは勝の屋敷をあとにした。

 

 勝の家をで、脚ばやに坂をのぼり、あるきつづける。俊冬を先頭に、無言のままついてゆく。胸ポケットから懐中時計をとりだし、時間をみると、12時前だったので驚いた。

 

 人どおりはまばらである。神社のあたりは、参詣客であろうか。じゃっかん人出がおおいように思えるが、そこをすぎるとだれかとすれちがうこともない。

 

 人々も、数日後に迫る江戸城受け渡しをひかえ、外出を自粛しているのであろうか。

 

 俊冬は、あるきつづける。

 

 念のため、つけてきている者がいないかを確認するためである。

 

 もっとも、俊冬自身と相棒の鼻がある。つけてきていれば、すぐに察知する。

 それでもなお、警戒する必要があるということだ。

 

 しばらくうろうろし、完全に大丈夫だろうというタイミングで、医学所へ向かった。

 

 暗くなってから、今戸へ向かう予定である。

 

 島田が、舟で流山から潜入し、合流する予定なのである。

 

 双子が、あらかじめ今戸に隠れ家を準備してくれている。おれの話をきき、手配をしてくれたらしい。

 

 やはり、できた男たちである。

 医学所の門をくぐり、庭にはいったところにある木の手前で、副長がまえをゆく俊冬を呼びとめた。

 

 もちろん、俊冬は歩をとめ、うしろを振り向く。頭上にある太陽が、かれの頬の傷を白く浮かびあがらせている。

 

 松本のいうとおり、じっとみてみると、たしかに日本刀やのような鋭利な傷ではない。もっとこう、なんというかギザギザの刃のような、たとえば、軍用のナイフとかフランベルジュとか、そういった刃の傷痕のようにみえなくもない。

があった。いつもだったら、戯言か揶揄いをいってくるはずが、じっとこちらをみつめたままなにもいってこない。

 

 二人でみつめあっているのに気がついたのか、副長もこちらを振り向いた。

 

 マジか・・・。があった。いつもだったら、戯言か揶揄いをいってくるはずが、じっとこちらをみつめたままなにもいってこない。

 

 二人でみつめあっているのに気がついたのか、副長もこちらを振り向いた。

 

 マジか・・・。

 

 ずっと思ってはいる。たしかに、ずっとそう思ってはいるのだが、こうして二人で並んでいるのをあらためてみると、あまりに似すぎている。や雰囲気ってやつではない。ドッペルゲンガーといったようなものでも。

 

 なにかこう、根っこのところというか、遺伝子レベルっていうところか、兎に角、なんとも表現のできぬ似方である。を戻したが、まともにみることが苦痛でしかない。

 

 正直、気味が悪い。体全体に悪寒がはしり、額に冷や汗が浮かぶ。

 

「主計。たしかに、わたしは

 

 左脚許をみおろすと、相棒がみあげている。やはり、そっくりだ。もはや、

 

 ずっと思ってはいる。たしかに、ずっとそう思ってはいるのだが、こうして二人で並んでいるのをあらためてみると、あまりに似すぎている。

 俊冬と