を逃れただけはございます。九名ともに、腕も才覚もそこそこにあるようで・・・。ただ、どの輩も、金目当て。倒幕、攘夷、かような心意気は、微塵もござりませぬ」
全員、なるほどとソッコーうなづく。
「今宵、襲ってまいります。浪士どもは、囮。新撰組が、それを迎え撃っている間に、忍びが上様の寝所に忍び込み・・・」
俊冬は、言葉をとめる。肺癌成因 無言のまま、手刀で自分の頸を斬るジェスチャーをする。
「忍びは、弟からきいているままの老人の姿でしたゆえ、誠の姿はわからぬままです。が、化けておるのは間違いありませぬ。おそらく、五十路かと。忍びは、弟が・・・。よろしいですかな、副長?」
「ああ、俊冬。その雑魚どもは、おれたちに任せておけ」
「ほう・・・。忍び対決か。講談にでてくる、児雷也の蝦蟇とかがみれるのかな、なぁ歳?」
子どものように、を輝かせている局長。
ふと、「ナOト」を思いだしてしまう。大好きな漫画である。
口寄せの術であんな馬鹿でかい蝦蟇があらわれたら、将軍はちがう意味で死んでしまうだろう。「なにいってんだ、かっちゃん?ありゃぁ清の国に大昔いた義賊の創作だろうが」
副長が、呆れかえったように叫ぶ。
「そうか・・・。面白そうだと思ったのだが」
しょげる局長。
「局長は、かようなど派手な遣り合いがお好みで?主計、おぬしのところでは、忍びはどのように伝わっている」
「忍びですか、俊冬殿。誠の忍びは、諜報活動などをおこなったと。ですが、講談のような創作では、忍術を駆使し、暗殺などかなりど派手に暴れてますね」
「きいたか、弟よ?此度は、局長がいらっしゃる。ど派手に暴れてやれ」
え?マジで?
「承知いたしました、兄上。それで、生死は?いかがいたしますか?」
そして、生殺与奪についてしれっと問う俊春。
「二度と、だいそれたことができぬようにするだけでいい。ほかの連中にしても、同様。下手に殺れば、それがきっかけになりかねん。おそらく、連中は、それもみこしてやがる。おまえらも、わかってるな」
副長は、双子だけでなく、おれたち全員に命じる。
「承知」
全員がいっせいに応じる。
打ち合わせがおわり、茶をすすっているときである。
「そういえば主計、おまえ、よく創作と申すが、わたしたちのことも創作のなかにでてくるのか?」
斎藤が、さわやかな笑みとともに尋ねてくる。
「え?」
いきなりの攻撃に、思わず茶が口の端からだらーっと漏れてしまう。
「おっ、だったら、おれは?おれはそのなかにでてくるか?」
原田は、期待満々である。
副長と、があう。
「ふっ」
頭上にあらわれた吹きだしに、その文字が浮かぶ。
はいはい、言葉にださずとも、自信満々なのがわかりますよ、副長。
「わたしは、わたしはどうだ?」
これは、局長。
「おれだっているぞ」
そして、永倉。
島田の、つぶらな ・・・。
「ご心配なく。赤穂浪士とおなじくらいに、それはもういろんな話があふれかえっています。 は兎も角、新撰組の話は、日本人のおおくにウケてますし、大好きです」
「おおっ」
みな、うれしそうである。
「たとえば、いかなるものか?」
物語系の好きな局長が問う。
「昔、といっても、いまから百年ほどあとでしょうか?そのくらいの時期には、正統派、史実に忠実にそい、描かれています。たとえば、「池田屋」での御用改めです。局長、永倉先生、沖田先生と藤堂先生の四名が、討ち入るという話・・・」
そういえば、「池田屋」で、階段落ちなるものが描かれていた。
階段上で斬られた志士が、ごろごろと階段を転げ落ちる、というやつ。
そんなわけはない。実際の「池田屋」の階段は、それほどのゆるやかさではなく、ながくもない。
それに、沖田の喀血。あれも、脚色の可能性がたかい。労咳における喀血は、症状がもっと経ってからでるもの。かれの死んだ時期からかんがえると、到底、はやすぎる。
どちらも、いうまでもなく、ドラマチックである。
プッと、だれかがふいた。
局長と永倉である。