浪人風の着物の懐か

浪人風の着物の懐からでてきたものは、ちいさな紙風船である。

 

「まさか、胡椒爆弾?」

 

 例の胡椒爆弾である。

 これで俊春にイタイ目にあわされているというのに、そのあと改良に改良を重ねたんだ。

 

 副長。そのガッツを、女性生髮藥 是非とも剣術のほうにまわしていただきたい。

 

 この場にいるだれもがそう思っているにちがいない。

 

 それは兎も角、『土方歳三が逃げる従者の背を斬り捨て、それをみた仲間は奮起し、見事宇都宮城を攻略した』という土方歳三の厳しい一面を語るエピソードは、ずいぶんとコメディタッチになりはててしまったようだ。

 

 おれだけでなく、永倉も原田も利三郎も、「さすがは土方さん」、「さすがは副長」と、ビミョーな感心の仕方である。

 

「いまのどこをほめてくれてるのかはわからんが、宇都宮城攻略法、それから間者が潜入しているだろうから、身辺に気をつけるよう教えてくれたのは、俊冬だ。あいつがいなくなった深更、忠助に文を預けていてな。そこにびっしり記していてくれてたってわけだ。なぁそうだろう、俊春?おまえらが、宇都宮城を物見し、策を練ってくれたんだろう?」

 

 副長の島田がふいた。副長の脚許にいる相棒も、けんけん笑いをしている。

 

「これだよこれ。改良に改良を重ね、完璧の代物だ。新八、まえにおまえがいってた勝負に、おれも参加でするぞ。実証済みだしな」

 

 編み笠の下で、副長のニヒルな笑みがひらめいた。に、やわらかい笑みが浮かぶ。

 俊春は、はにかんだ笑みの浮かぶを上下させ、それに応じる。

 

 できた双子ってどころの騒ぎじゃない。

 できたなんてレベルなど通りこし、神がかり的にすごすぎる。

 

「俊春」

 

 おつぎは、永倉の番である。野村とおれ同様、かれは腕を俊春の頸にまわすと、ぐいぐいしめつけている。

 

 原田のセクハラ行為につづき、おつぎは永倉の暴力である。

 

 俊春もほとほと気の毒である。

 

「さぁっ、つぎはおまえらだ」

 

 いや、俊春だけではなかった。原田は、野村とおれにたいしても、セクハラ行為をしたいらしい。

 

 かれは腕をひろげ、いかにも「カモンッ ベイビィ」って感じでまちかまえている。

 

 ドキドキしながら、原田にちかづいてゆく。 原田にギュッと抱きしめられた。

 

 背のたかいかれに抱きしめられると、自分がちっちゃな女の子になったような気がする。

 

 俊春みたいに、堪能するまで抱きしめられたらどうしよう・・・・・・。

 

 ときめいて、いやいや、いろんな意味で緊張してしまう。

 

 が、原田はあっさりとはなれてしまった。つづけざまに、野村をハグしている。

 

 おいおい、原田よ。このハグの持続時間の差はなんだ?

 

 野村とおれは、俊春の百分の一程度の時間だったぞ。

 

 永倉も、俊春を解放している。

 

「それで、人の褌で相撲をとったのに、これみよがしに自慢しまくる副長の話は、この際どうでもいいんです」

 

 原田のあつかいにショックを受けつつ、副長にツッコんでみた。

 

「おま・・・・・・。主計、ちょっとの間だってのに、ずいぶんと成長したじゃないか」

「新八の申すとおりだ。副長大好きのおまえが、かようなことをいうようになるとは・・・・・・」

 

 その永倉と原田の指摘は、逆におれを驚かせた。

 

 いまのツッコみが、なにゆえおれの成長や副長の好き度にかかわりがあるっていうんだ?

 

「ああ、気がついたか。おまえら組長がいなくなってからだ。成長だぁ?そりゃぁ態度がって意味なら、超絶成長してやがる。おれをどんだけ傷つけてることか。わかるか、新八、左之?」

 

 おれにかわって応じたのは、副長である。

 

「ええ?おれは、以前とおなじですよ。副長を尊敬し、敬い奉り、下僕のごとく仕えています。それなのに、なにゆえいいがかりなどおっしゃるんですか?」

 

 副長がちいさく笑いだした。すると、永倉と原田と島田も笑いだす。もちろん、野村と俊春も。

 

 往来は、人どころかネズミやイタチの気配すらない。だからとはいえ、で馬鹿笑いなどすれば、占領軍の治安部隊が飛んできかねない。

 

「主計。おまえ、気がついていないのか?俊冬のことに気がいきすいぎていて、土方さんのことをぼろかすにいってるぞ」

 

 永倉は上半身を折り、身をよじって笑っている。それでも、笑い声はかなりおさえているが。

 

「やっぱ、