とおんなじだ」
副長の屁理屈に、襲撃者たちはあきらかに気勢をそがれている。
副長の屁理屈は、あながち的外れではないだろう。かれらは、何者かに雇われているのか。あるいは、何者かに嘘八百を吹き込まれたり信じ込まされたりして、ムダに正義感を燃え立たせているのかもしれない。
「だ、だ、だまれっ!江戸の、肺癌早期 江戸の町のため、し、死んでもらうぞ」
おおっ!やるじゃないか。なけなしの勇気をふりしぼったようである。どもり、噛みまくったが、キメた。
時代劇の王道である。襲撃者たちは、それぞれの得物をいっせいに構える。
「なんてこった」
永倉の歓喜の声。さすがは『トラブル』、『デンジャラス』、『ピンチ』、カモーンの永倉だけのことはある。めっちゃうれしそう。正眼の構えから、愉しんでやろうというオーラがでまくっている。
「ちぇっ、槍をもってくりゃよかった。まぁいっか。でも、よゆーだわな」
原田もうれしそうである。
「副長、殺っていいのでしょうか?それとも、死んだほうがマシという程度にとどめておきましょうか?」
ははは・・・。斎藤もさすがである。サイコパス的なことを、さわやかな笑みをたたえて尋ねる。
「撃てっ!なにをしている」
グループをせっつく。自分たちのまえへまえへと、心太のように押しだそうとする。
をもつ五名は、おれたちのまえに並ぶ。いや、並ばされた。
おずおずとかまえる。夜のに、カタカタと小気味よい音がきこえるのは、五名が震えるその共振音である。
「おめぇら。闇討ちに明かりを持参してくるってところで、すでにおわってんだよ。撃つなら、しっかり狙えよ。おめぇらが拳銃と刀を向けてるのは、虎だ。それから、お粗末なおめぇらのを狙ってるのが、狼だ」
そのタイミングで、月がまたその姿をあらわす。まぶしいくらいの月光が、地上の生きとし生けるものにひとしく降り注ぐ。
そこでやっと、襲撃者たちは気がついた。
自分たちの頭上に、二頭の狼がいることに・・・。
対峙するをみおろす、気高き狼。頭上の月の光を浴び、獣の王、いや、獣の神が静かに佇んでいる。
ファンタジーをこえ、神憑り的なものすら感じられる。
左側の民家の屋根上には俊冬が、右側には俊春が、あらゆる気も気配もさせずにをみおろしている。
そっと仲間へを向ける。永倉も原田も斎藤も、夢でもみているかのようなぽーっとしたで、屋根上の双子をみつめている。
そして、副長は・・・。
・・・。誇らしさと慈愛が、ないまぜになったような。たとえていうなら、りっぱに成長したわが子をみるような、そんなをまのあたりにし、ショックを受けてしまう。を落とすこともあるまい?だれもおぬしらの成果に期待などしておらぬ。なぜなら、おぬしらがへまをすることがわかっているからだ」
俊冬は、屋根の上から地上へと言葉を落とす。その声は、耳に心地いい。まるで、子守唄でもきいているかのようである。
襲撃者たちも、ドラマチックにあらわれた双子を、声もなくみあげている。
また月が雲に隠れ、地上が闇におおわれた。必然的に、視力が奪われてしまう。
どこかでくぐもった音がしたような気が・・・。それもすぐに止み、無音状態になる。
そしてまた、月がでてきた。
屋根の上へとを向ける。さきほどとちがうのは、俊冬の横に俊春が立っていて、二人ともなにかをもっていることである。
「スミス・アンド・ウエッソン。六発の回転式拳銃だな。をもっていた五名は、すでにつかいものにならぬ」
はっとしてをもっていた五名は、すでにつかいものにならぬ」
はっとしてを奪って俊冬のもとへ?
俊春、どんだけすばやいんだ?
俊冬は、両掌にあるを西部劇にでてくるガンマンのごとく、クルクル回転させている。
じつは西部劇も大好きで、ガンプレイなるものに憧れていた。警察学校時代、もちろん、実弾入りではないで、ひそかにクルクルまわしたことがある。が、リボルバー式ではさまにならない。しかも、クルクルというほどもまわせない。
きけば、試した同期はすくなくなかった。
満足げな
刀グループが、を両掌に握っている。かれもできるにちがいない。
「われらは、十間(約18m)さきにおいた輪切りの大根を、菊に飾り撃ちすることができる。ぎりぎり、扇の形にもできるであろう」
飾り切りならぬ、飾り撃ち?
そもそも、そんなことを試す必要などあるのか?
「いえ、そんなの無駄遣い。無意味ですよね?」
お笑い隊士としては、そう突っ込まずにはいられない。