をがっしりつかむ

をがっしりつかむ。それこそ、原田の腕の骨が、悲鳴をあげそうなほど強く。

 

「ああ、わかってる。わかってるよ、新八・・・」

 

 永倉に、共感を示す原田。斎藤とともに、原田が永倉をなだめる言葉を無言できく。

 

 そのとき、玄関のあたりで蟻通と島田の声が・・・。

 

 一瞬、忍びでも潜入したのか、肺癌早期 とはっとする。

 

「副長、まってくれ。人払いされてるんですよ」

「副長、落ち着いてください」

 

 副長だ・・・。

 ある意味、忍びよりやっかいである。いや、ずっとずっとヤバい。

 

 どうする?

 四人で打ち合せる間など、あるわけもない。

 

 副長が、廊下をこちらへと向かってくる。

 鬼の形相でも、イケメンにかわりはない。ゆえに、かえって怖ろしい。

 

 おれもふくめ、やってきた副長の殺気にあてられ、廊下でただ呆然と突っ立ち、その形相を眺める。

 

「副長が、急に戻る、と。俊冬に局長を送らせ、わたしたちだけさきに戻ってきた」

 

 島田が、事情をささやく。いつもより声量を落としているのであろう。が、そのささやきは、耳にうるさいくらいである。

 

 副長の か?なにかを察し、戻ってきたにちがいない。

 

「すまない。ここで見張りについていた一人が、副長にいらぬことを・・・。とめようにもとめられぬ」

 

 蟻通が、目顔とささやきとでしらせてくる。

 

「勘吾、ゆけ。島田、警戒を怠るな。いって、この周囲を巡回せよ」

 

 副長が、低くうなるような声で命じるも、島田も蟻通もかたまってしまっている。

 

「なにをしている。はやくゆけっ」

「しょ、承知・・・」

 

 再度、命じられ、それでやっと二人は動く。

 逃げるように去ってゆく二人・・・。

 

「左之、どけっ」

 

 こちらに向き直り、次の間へ向かおうとする副長。そのまえに、原田が立ちはだかる。

 

「土方さん、頭を冷やしたほうがいい。こっからでよう。このくそったれの任務は、今宵かぎりでやめればいい」

「どけといってるのが、きこえんのか?」

「あんたがやろうとしているのは、あの二人のすべてを否定することだ。おれは、あんたにそんなことしてほしくない」

「どけっ!」

 

 副長は、右掌を伸ばすと原田の胸元をつかむ。シャツが破けそうなほどの勢いでひっぱり、自分の にひきよせる。「おまえ、気づいていたな、左之?」

「ああ、しってた。しってても、おれにはとめることはできぬ。あいつらにはあいつらの、やり方ってもんがある。あいつらは、 「おまえ、気づいていたな、左之?」

「ああ、しってた。しってても、おれにはとめることはできぬ。あいつらにはあいつらの、やり方ってもんがある。あいつらは、 を傷つけることを怖れてる。まるで、餓鬼みたいなやつらだ。そして、が傷ついたり、を傷つけることを、場合によってはやむをえぬって考えだ。それぞれが、それぞれのやり方で目的地に到達してるだけ。どっちがいいも悪いもない。進む道が、ちがってるってことだ。あいつらが身をていしてやってることを、おれたちが否定できるのか?あいつらを、認められぬというのか?」

 

 原田の言葉が、この場にいる全員に重くのしかかる。「そうか。おまえのいい分はわかった。だが、おれの預かりしらぬところで、仲間が慰みものになっているのを、容認するつもりも許すつもりもねぇ。佐之、そこをどけっ」

 

 副長は、シャツをつかむ掌で原田を手荒に押す。原田の長身がぐらつく。原田も必死である。すぐに態勢を整えなおし、副長の肩をつかむ。

 

「いかせんぞ、土方さん。これ以上、あいつらを否定させん」

「なら、力づくで通る」

 

 拳を振り上げる副長。

 

 あまりの展開のはやさに、永倉や斎藤もとめに入る間もない。 力いっぱい振り下ろされる拳。いままさに、原田の にヒットする瞬間、「おやめください」、という静止とともに、三本しか指のない掌が副長の拳を受け止める。

 

 俊春・・・。

 いつの間にか、次の間の障子があいている。

 

「副長、どうか・・・」

 

 俊春の消え入りそうな声。小柄な体を震わせ、けっしてをあげようとしない。

 

 三本しか指のない掌が、副長の拳を開放する。のにおい・・・。

 

 この場にいる全員が、それを嗅ぎとっている。

 

 とるものもとりあえず、でてきたのであろう。シャツのボタンが、第二ボタンまであいている。そこから、連日の地獄レベルの鍛錬による傷や痣が、のぞいている。

 

 そして、頸には、さきほどはなかった指の痕が・・・。

 

 それにも、この場にいる全員がきづいている。

 

 刹那のことである。解放された副長の掌が、俊春の二の腕をつかむ。副長は、そのまま有無をいわさず、あゆみだす。

 

 将軍のいる本間ではなく、玄関のほうへ向かっている。

 

「土方さんっ」

「副長っ」

 

 副長は、沸点越えしている。どんな行動にでるか、わかったものではない。

 

 慌てて追いかける。