大笑いで矛を掲げた

大笑いで矛を掲げた、まさかという気持ちで一杯のところで「黒兵、残敵を蹴散らすぞ、突入!」島介が先頭になり陽擢軍へと駆けた。

 

「に、逃げろ!」

 

 大将を失い統制も取れず、肉毒桿菌素 騎兵の突撃を防げるはずもない。歩兵らは散り散りになり一目散に逃げて行く。真っすぐ城へ向かって行き、いち早く城内の軍旗を全て『島』に差し替えていく。城の住民は島では解らなかったが、まずは兵らが乱暴を働くようなことをしなかったのでほっとしている。

 

 翌日になり、陽擢に荀諶がやって来た時にようやく解放されたと喜びを露にした。楽英の部下だった兵士に帰投を呼びかける、罪を問わずに再雇用すると言う条件を示して。呼びかけを荀諶名義で行うと、即日五百人が戻ってきたのでそのまま郷土防衛に組み込んでしまった。

 

 陽擢の指揮を荀諶に任せると、島介は潁陰へと入る。案の定潁川へ侵入すると胡軫は速やかに反撃に出てきたが、無血開城をされてしまい部隊が入った城を落とすまでの用意は出来ずに、一日睨み合って引き下がって行ったらしい。

 

 潁陰の主座に腰を下ろして幕下の者らを見渡す。

 

「ふむ、孫策は行かなくて良かったのか?」

 

 魯陽に行っていぞと許可を与え、切り出しづらいと悪いのでいつ行くんだとまで聞いてやったが、そのまま潁陰についてきてしまっている。その方が安全だと言われればそうなので、判断は預けているから強くは言わない。

 

「そのうち父上が赴任して来るでしょうから、こちらで待たせて頂きます。お気遣いに感謝します」 出来た子供だなと軽く笑って好きにしろと話を切る。長社と許に行っている部将らを除き、多くがここに集まっている。各地から等距離にあるので、ここに本軍を置いて増援に出すのが一番だろう。となれば北瑠と張遼は手元に寄せておきたい。

 

甘寧、長社に行って張遼と交代して来い」

 

「なんでぇ俺じゃ役に立たないっていうのかよ」

 

「お前は陽擢できっちりと仕事をこなしている、俺はそれを認めているぞ」

 

 流言流布、荀氏の者達だけでなく鈴羽賊が共に暗躍してこその成果だ。おかげでつり出された楽英はこの世にはもういない。

 

「あいつらは金さえ手に入れば文句はいわねぇ」

 

「褒美は出すさ。それより長社だ。あそこは河南尹と陳郡との連絡路のど真ん中、諜報をしつつ連絡を断ち切るような役目は甘寧が適切だ。何せ河が走っている、そこを制圧出来るのはお前しかいない。やってくれるな」

 

 潁水が虎牢関の側から別れて南東へと走っている、地名がこうなっているのも納得だ。陳郡への連絡路、陸も水上も長社が軸になっているので、黄巾の乱の時分でもここを要塞化して官軍が使っていたのは記憶にある。

 

「確かに水の上なら負ける気がしねぇよ。わかった、俺が行って来る」

 

荀攸殿に常に相談をして動くんだ。方針や実務は甘寧が決定しろ」

 

 どちらが上かを定め、その上で実際の成否は荀攸次第という形を定めて置く。こうしておけば大きく当たることはあっても、失策など無くに等しい。近隣なのでまさかがあってもどうとでも挽回する手段もある。

 

「荀彧、各地の状況は」「許、臨潁、長社、潁陰、それに陽擢が統治下に入っております。五県で凡そ九万戸が住んでおり、八割がたを掌握可能な見込みで二十万戸余、陳留兵らを全て維持しても数千の余裕が御座います」

 

 当初の目的の一つ、騎兵の維持。正直足りるかどうか税率次第であって、荀彧が想定している六割の徴収ならば全く問題がない。酷吏と呼ばれる太守らが課す最大税率九割に比べれば、農民も子を捨てずに食べていける割合なのは認められた。