余裕の笑みを浮かべた島は

 余裕の笑みを浮かべた島は、肯定も否定もせずに問いかける。どこかで名を聞いたことがあれば、そいつはそれなりの経歴があるのと同義、武官ならば戦で生き残った証拠でもある。勝っても負けても経験は経験だ。勝ち続けた将よりも、負けを知る者の方が貴重だろう。

 

「戦は兵力規模とみるならば牛輔、戦略謀略とみるならば胡軫、戦闘能力とみるならば徐栄でしょうか。個人の武力ならば呂布、知略ならば賈翅とみております」

 

 どこまで正確に読み取っているか、cash plus 今のところは誰にもわからない。あてずっぽうで評価をしているわけでもないだろうから、これを参考に今後を占うことにした。

 

「現状の詳細を把握しておくことにするか」

 

「御意。董卓は司隷、併州、雍州、涼州を影響下に置き、兵力は十万、献帝を頂き官軍としての御旗を得ております。一方で我が君は、陳留小黄県を事実上の支配下に置き、兵力は精鋭二千五百、幕下は我等の他に、潁川へ向かった友若殿や公達殿の他、陳紀殿の一派からの支持も得ております」

 

 比べるまでもなく勝負にならない。それを知っておくのは悪いことではないが、どうやって対抗すべきかため息が出そうになるほどだった。「戦いと言うのは頭でやるものだ、そうだろ? 荀彧、董卓のこれからの行動を想定するとどうなる」

 

 一番の腕利きがそんなことをいうものだから、その場の皆が苦笑した。とはいえ殴り合いは一方的に出来るし、最後の手段であるとの認識は正しい。

 

「そうで御座いますね、董卓であらば――」

 

 

 河南尹洛陽、宮廷の奥深くにある部屋で、董卓は少数の側近と密談を行っていた。担当卿らの意見をきくつもりなど元よりなく、いかにして支配を盤石にすべきかのみを求めていた。

 

「そうか袁紹の奴は渤海太守の印を受け取ったか」

 

 小さく頷いて一つ収まる所に収まったとほっとしている。今や飛ぶ鳥を落とす勢いの董卓であっても、常に強気で居られているわけではない。少なくともそのように振舞ってはいるが、いつ全てが崩れ落ちるかとハラハラしているのだ。

 

「王匡は河内太守、韓馥は冀州牧、鮑信は済北相、劉岱は冤州刺史、張超は広陵太守と、多くが素直に官につきました」

 

 吏部掾周筆が人事についての現状を報告する。これらは全て董卓が上奏をして認めさせた地方の責任者で、これを受けるならば従え、少なくとも黙って見て居ろといった感覚で割り振って行ったものだった。清流派の士大夫らの精神として、付き合うつもりがないならば贈り物を受け取ることはしないで拒否する。逆に受け取ったならば付き合うのが常識だった。

 

「だが兄貴、良かったのか。そいつらきっと裏切って牙を剥くぞ」 董卓を兄貴と呼ぶのは唯一、左将軍董旻だけだ。政権の次席には遠いが、派閥の二番手としては地位を確立している。左将軍だった皇甫嵩は今は無冠で牢獄に落とされている。董卓を誅殺すべきだと声を上げたのが理由だ、遅すぎた行動は果たして褒められるべきだろうか。

 

「董旻様、それならばそれでしめたもの。恩を仇で返そうとする不埒者として糾弾が可能になりますので」

 

「はっ、賈翅の言う通りだ。奴らとて打算くらいは出来るはずだ、俺と争うよりも黙っている方が良いとな!」

 

 四十路の男、賈翅。涼州に居る時から常に董卓の側近として助言をしてきた生え抜きの部下であり、今まで一度も失策を責められたことが無かった。