「だって……覚えてない……。」

「だって……覚えてない……。」

 

 

三津は泣きそうになりながら小刻みに震えた。

 

 

「何?お三津ちゃん何か失敗したそ?まぁお酒の席やしそれぐらい大丈夫やけぇ気にせん気にせん!」

 

 

セツはそう言うがそれで済まされる事ではない。

 

 

「ねー酔うと多少はみんな何かやらかしちょるけぇ。ちなみに私も今まだ酔っちょるそ。」

 

 

入江は三津の腰に腕を巻きつけて自分に引き寄せて密着させた。植髮香港

 

 

「もぉ若いのは朝から元気やなぁ。そんなんおばちゃんに見せつけんと部屋でして部屋で。」

 

 

「いいの?そしたらしばらく誰も来させんでね。」

 

 

入江はにんまり笑ってご馳走様と湯呑みをセツに渡した。セツも分かってる分かってると笑って簡単に三津を売った。

三津は泣く泣く相部屋まで連行された。

 

 

「とりあえずそこに座り。昨日何したか一から説明しちゃるけ。」

 

 

部屋に放り込まれぴしゃりと戸を閉められた。三津はびくびくしながら畳んだ布団の脇に正座した。

 

 

「なんにも覚えちょらんそ?」

 

 

「楽しかったのは覚えてます……。」

 

 

酒の席はそんなに好きではないが昨日は楽しかったとそこは記憶している。「武人さん口説いたのも覚えとらんそ?」

 

 

「え!?そんな失態を!?」

 

 

三津は両手で口元を覆って愕然とした。会ってまだ二日の殿方に酒の力で迫っただなんて。

 

 

「後で謝り。問題はそこやないそっちゃ。私にした事,思い出させてあげんとね。」

 

 

背筋が凍るほどの笑みがこっちを見ている。三津はぶるぶる首を横に振った。

 

 

「ごめんなさい!もうしません!呑みません!」

 

 

だから許してと涙目で訴えると入江は笑顔のまま三津に迫り両手首をしっかり掴んで捕まえた。

 

 

「もうしない?違う。次は三津さんの意思でちゃんと記憶がある時にやって?こうやって……。」

 

 

入江は昨日三津にされた事をそのまんまお返しした。

 

 

「全部鮮明に思い出せるように。」

 

 

三津は目を開いたまま気絶しそうだった。失態も失態。大失態だ。入江にこんな事をする程自分を開放的にさせるなんてお酒とはなんと恐ろしい液体なんだ。

 

 

「私にはこんな失態いくらでもしていいけど他の奴らにしちゃいけんよ?」

 

 

入江は三津の肩に顔を埋めて腕は体を抱きしめた。

 

 

「したくもないしするつもりも無いんで……。」

 

 

距離を下さいと腕の中で身を捩るが一層きつく締めつけられてしまった。

 

 

「三津さん……。」

 

 

「はい?」

 

 

「私も名前で呼んで。名前がいい。」

 

 

「九……九一さん……。」

 

 

「ふふっ幸せだ……。稔麿,玄瑞ごめん……。」

 

 

その呟きに三津は息が詰まりそうだった。三津は入江の幸せだの言葉に救われてきたのに,入江にとって幸せは二人への罪悪感そのものだったに違いない。

 

 

「九一さん……。いいんです。二人は絶対九一さんの幸せを望んでます。だから謝らないで。後ろめたい事なんて何一つない……。大丈夫やから……。少し休みましょ?膝使っていいですから。」

 

 

三津は入江に膝枕をして横にさせた。これ以上不安にさせないようにしっかり手も握った。

 

 

入江の寝息が聞こえて安心した所で廊下からごにょごにょ喋る声がした。

 

 

「おい!押すなや!」

 

 

「……高杉さん静かにしてもらえます?」

 

 

じっとりした目で戸を見ていると静かにゆっくりと開かれて高杉が顔を覗かせた。

 

 

「あ?九一寝ちょるん?」

 

 

「はい,だから静かにお願いします。」

 

 

「なんやつまらん。」

 

 

そう言って高杉が中に踏み込むと,それに続いてぞろぞろと山縣に白石,伊藤と赤禰まで入って来た。四畳半にこの人数は多過ぎる。「青白い顔して,入江にしちゃ珍しく酔ったんやな。」

 

 

三津の信頼を勝ち取った男,赤禰が小声で入江の体調を心配して寝顔を覗き込んだ。

 

 

「武人さん……昨日はご迷惑を……。」

 

 

「いや?俺も三津さんが楽しそうやけぇつい呑ませてもてすまんかった。体調は大丈夫なん?」