「私は……新選組のみんなに顔がバレて

「私は……新選組のみんなに顔がバレてるので私が行けば小五郎さんが居ると知らせてるようなもんですからね……。」

 

 

「すまない。」

 

 

桂は三津の物分りの良さに少しほっとしつつも,自分に執着していないようで寂しくもあった。

 

 

「向こうに着いたら必ず便りを出す。待っていてくれる?」

 

 

三津は何度も頷いた。ようやく顔を合わせられるようになったのにまた離れ離れだ。流石に聞き分けのいい三津でもそれは辛い。

涙で言葉も詰まり頷くしか出来なかった。顯赫植髮

 

 

「道中……お気をつけて……。」

 

 

それを言うのがやっとで桂の顔も見れなかった。

 

 

「三津,必ず迎えに来るから。私の妻になれるのは君しかいないんだ。」

 

 

桂は三津の髪や耳や頬に触れ,その全てが愛おしいと抱きしめた。次の再会がいつになるかも分からない。会える保証もない。でもずっとこうしてもいられない。

 

 

「愛してるよ,三津。」

 

 

甘い言葉と口づけを最後に二人は別れた。

桂の言葉が吉田の最期と重なって三津は一晩中泣き続けた。桂が京を発って三津は度々河原町辺りに足を運んだ。功助とトキを見つけたのだ。二人の元を訪れては新たな生活の手助けをしていた。

 

 

「三津,そんな頻繁に来て大丈夫か?」

 

 

功助は元気な姿で三津が現れて喜んだが,それよりも新選組に見つかることを恐れた。

 

 

「大丈夫,そんな長居せんから。それに吉田さんが守ってくれてるし。」

 

 

三津の背中には常に脇差が背負われている。それだけで心強いんだと笑った。

 

 

「ホンマにあんた強くなったなぁ……。」

 

 

トキは以前より涙脆くなっていた。三津の前でも簡単に泣いた。

 

 

「向こうでいっぱい教えてもらったことあるねん。だからそれを無駄にせんように頑張らんと。」

 

 

「功助はんおトキはん!あっち壬生狼来とる!みっちゃんはよ帰り!」

 

 

相変わらず近所のみんなも三津の味方だ。だから尚更ここに居たいし,頻繁に来ても大丈夫と思っていた。

 

 

「ありがとう!そしたらまたね!」

 

 

三津はすたこら逃げ帰る。それを毎日繰り返していた。だから意外と今の生活に苦は感じていなかった。苦を感じない理由はもう一つ。

 

 

「あっおかえりなさーい!」

 

 

「ただいま戻りました。」

 

 

定期的にサヤとアヤメが家に来てくれているのだ。最初に二人が訪ねて来た時には二人が無事だった事を泣いて喜んだ。そして二人から何故訪ねて来たかの理由を聞いて更に泣いた。

 

 

“一人じゃ寂しいだろうからたまに一緒にご飯を食べてあげてくれないか”

 

 

桂にそう頼まれたと言う。子供じゃないんだから一人でご飯くらい食べられるよと笑ったが,やっぱり一人じゃない方が良かった。

 

 

それともしこの家がバレても,ここはサヤの家で三津はそこに転がり込んでいると装う為でもあった。

そうやって支えられて三津は生活する事が出来た。

 

 

たまに桂から文が届く。元気にやっていると状況報告だけだ。居場所が知られるとまずいからどこに居るかの詳細が分からない。だから三津が返事を出す事は出来ないが,桂が無事でいるだけで良かった。

 

 

 

 

 

 

「桂は本当に生きてるんでしょうか?」

 

 

総司は焼けた町の復興を手伝いながら斎藤に問いかけた。

 

 

「分からん……。御所のとある場所で奴の鉢金が落ちていたと言う者もいるが……桂はあぁ見えてどちらかと言うと何事にも慎重派だ。あの場に居たとは思えん。」

 

 

「じゃあ……三津さん連れて逃げたんですかね……。三津さん無事かなぁ……。」

 

 

総司も斎藤も桂の行方よりも三津の行方の方が気になった。「もし三津さん見つけたら捕縛ですかね?」

 

 

「あぁ,捕まえろ。桂の居場所知ってやがるかも知れねぇからな。」

 

 

「土方さん,何故焼けた家の撤去の手伝いに来てるのにそんなに小綺麗な恰好なんでしょう?」

 

 

自分や斎藤は煤と汗と土に塗れていると言うのに。汚れてないし汗一つもかいてない涼しい顔した土方に笑顔で嫌味を言い放った。