言ってしまえば一枚の分

 言ってしまえば一枚の分厚い石壁がずどんと存在し、真ん中に門が作られている。その幅はと言うと、城壁の上部で二十メートルほどもあり、下部ではもっと広かった。東側には凸凹のギザギザが付けられていて、胸壁とよばれる盾代わりの工夫がなされていた。

 

「ふむ、お前でもそう思うか、避孕方法 これは良いことだな」

 

 張遼だけでなく北瑠までもが意味が解らずに互いに目を合わせた。

 

「どういう意味だ?」

 

「俺はその昔、断崖絶壁を騎馬して駆ける羌族と共に戦ったことがある。西羌騎兵に出来て北狄騎兵に出来ない道理はない。そうだろ北瑠」

 

 挑戦的な笑みと共にとんでも内容を明かして来る。この暗闇でそのようなことが出来たら神業と呼ばれても良い。

 

「島長官がそうしろと言われるならば!」

 

 誰かには出来て自分にはちょっと無理……そのような男は決して騎兵団の長になどなりはしない。

 

「城壁の上は充分幅があり騎兵でも戦える。俺が先頭に立つ、必死について来いよ二人とも」

 

 信じられない作戦を耳にし、張遼と北瑠は真剣な面持ちで全てを受け入れた。この人には敵わない、そう心底感じた瞬間だったろう。

 

「荀彧は劉備と共にあって、連合軍との情報共有を行うんだ。あの雰囲気じゃきっと外されるからな」

 

「畏まりました。我が君の思し召しのままに」

 

 三皇山の調査で繋がりを得た地元の猟師から山道を聞き出すことに成功していた。なるほど情報が武器になる、しかもこれほど求めている時に利用できるとは、荀彧は胸の内にある何かを再確認し騎兵団を見送る。 月明かりだけを頼りに二千の騎兵が山を登っていく、馬には足元が感じられているようで躓くようなことは無かった。城壁を登るための兵士が準備されたようで、遠くで争いの声が上がったのが聞こえてくる。深夜の二時過ぎころだろうか、季節と場所が相まり底冷えしてしまう。

 

 黒兵の防寒準備は滞りなく行われている、心配なのは馬だけだ。牛と違い体温が低いので、途中で凍えてしまう恐れがあった。少し駆けさせればそれは解決するので、途中広い場所でそうさせることにした。更に一時間かけて山を九十九折りのように進んでいくと、頂きの傍から虎牢関が見下ろせる位置へとやって来ることが出来た。

 

「ほう、やっているな」

 

 城壁の上で松明を持って蠢いている奴らが山のように居る。上から下ならまだしも城壁の上で夜に弓矢は使えなかった、何せ味方にあたってしまうから。そうなれば近接戦闘での力比べが殆どになり、あの五人が地力を発揮している。

 

 手前の城壁の一部を占拠して胸壁に縄梯子を括りつけて下へ垂らしている。とはいえ一気に登れば縄が切れるので、一人二人が間を空けていくのが精一杯だった。このペースでは夜が明けて城壁から追い落とされるのが目に見えている。

 

 あまりの角度にまるで崖から飛び降りるかのような斜面、高度もあり恐怖心が首をもたげる。

 

張遼、警笛を鳴らせ。味方の来襲、要警戒だ」

 

「解った」

 

 連絡用に笛での符丁が決められていた、それを思い切り吹く。同じ連絡を五回、途中に十秒程間を置いてだ。そうすると歩兵部隊からも、受諾、の符丁で三度返事が山に響く。