「謝るなら三津さんに謝り。

「謝るなら三津さんに謝り。多分悪いのは自分って絶対高杉さんを責めたりせんけぇ。」

 

 

「分かった謝ってくるわ。」

 

 

文にそう言われすぐ様出て行こうとする高杉を待て待て待てと全員で引き止めた。

 

 

「お前本当に馬鹿やな。せっかく二人きりになっちょるんやけぇ邪魔すんなや。」

 

 

「相変わらず空気読めんのね。馬鹿やわ。」

 

 

「高杉はんが黙っとったら多分問題起きひんのちゃう?自ら引き起こすとか阿呆やん。」

 

 

入江と文と幾松は順番に高杉を罵ってお前は絶対動くなと叱りつけた。

 

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「三津!三津!待って!」

 

 

広間を出てそのまま阿弥陀寺も飛び出した三津の後を桂が距離を保ちながら追いかけた。

手を掴んでまた“触らんとって”と突き放されるのが怖くて近付けないでいた。

 

 

「海眺めたら帰るんで小五郎さんはしっかり食べといてください……。」

 

 

「一人にしたくない。三津は一人になりたいかもしれんが……。」

 

 

「だって小五郎さんに傍におってもらう資格私にはない……。こんな大変な時に癒やしの一つもあげられへん……。」

 

 

三津は悔しくて涙した。泣きだしてしまった三津を抱きしめていいものか桂は周りでおろおろしてしまった。

 

 

「ごめん……何で泣いてるの?」

 

 

情けないがそれも聞かないと分からない。

 

 

「悔しいし自分が情けなくて……。自分は留守番ばっかで頼られてないなんて思ってたけど小五郎さんがホンマに私に求めてた物を全然分かってなくて情けない……。」

 

 

「そんな事ないよ……。そう思わせたのは私なんだから……。」

 

 

抱きしめてもいいだろうかと何度も手を伸ばしたり引っ込めたりした。

 

 

「小五郎さんの傍には居たいです……でも割り切る自信ない……私の知らんとこで知らん人としてた事考えたら気がおかしくなる……。

私と出逢う前の過去の事なら割り切れたのにっ。」

 

 

三津はしゃがみ込んで泣き始めた。

 

 

「もっと私を責めてくれて構わない。本当に打ち砕いてくれて構わない。私が馬鹿だった。君を傷付けたとばかり思ってたが傷付けるどころか壊してたなんて……。」

 

 

桂もしゃがみ込んで三津の背中をそっと擦った。

 

 

「私はどんなに壊されてもまた君を愛する自信がある。だからいっぱい傷付けてくれ。もっと三津の痛みを私は知るべきなんだ。本当にすまなかった……。一人にしてごめん……。」

 

 

桂は泣いて震える体を抱き寄せた。飲み込まれそうな暗闇と三津の啜り泣く声をかき消す波の音。月明かりだけが水面を照らして今この世には二人だけと錯覚させる。

 

 

三津と二人だけの世界ならいいのにと桂が考えていると,

 

 

「頭冷やすのに海に飛び込んでいいですかね……。」

 

 

何とも恐ろしい一言が飛び出した。この暗闇で海に飛び込む?

 

 

「駄目!絶対駄目!絶対沈んで浮いてこない。」

 

 

三津なら本当に死ぬ気で飛び込みそうだから桂は行かせまいとその体を抱きしめた。三津は腕の中で大人しくしていた。

 

 

「自分勝手で申し訳ないがこのまま離したくない……。疲れが全部落ちるんだ……。」

 

 

「ふふっ温泉みたいですね。」

 

 

「あぁそうだね。身も心も解れるんだ。その癒やしに浸かってたいけど,それよりもまた三津を温泉に浸からせてあげたいから今度は私が温泉を巡る旅に連れて行くよ。」

 

 

「それは楽しみにしておきます。」

 

 

いつになるのか分かりませんけどと嫌味を添えるのは忘れなかったが,桂は必ず連れて行くと豪語した。約束の一つも守れない男でいたくないと。

 

 

「そろそろ戻りましょうか。せっかくの夕餉やったのにみんな気まずい思いで食べたんやろなぁ……。」

 

 

「大丈夫,文ちゃん居るからどうにかなってるよ。」

 

 

文への信頼感は本当に厚い。三津の心配も他所に桂の言う通り広間は何故か大盛り上がりで気まずい空気など一切なかった。それもそのはず,

 

 

「幾松……君は何をしてるんだ?」

 

 

「あらお帰りー。白石はんがちゃんと払うもん払うって言うから。」

 

 

着物はそのままだがしっかりと化粧をして芸妓風に姿を変えた幾松がみんなにお酌をし舞まで見せていた。

 

 

「やっぱ京の芸妓さんは綺麗ねぇ。」

 

 

文が胸の前で腕を組み満足気に頷いていた。

 

 

「文ちゃんの案かな?」