「御大将、それはなりませんぞ。宮に出向いては命を差し出すようなもの、危険すぎます!」
袁紹の言はもっともだ。敵の巣窟に迷い込むようなことは褒められん。自身で拒否したら角が立つが、こうやって周りに止められたとなれば、まあ聞こえも違うか。そういう意味では本人の返答が何であれ結果は左右できる、こういうのが宮廷のやり取りなんだろうさ。
「俺にはなんらやましいところがない。成立公司 流石に宦官共も宮で手出しはしてこんだろうよ」
おっと、何進は行くつもりだったか。これは……歴史ってやつだな。止めることは出来ないのが運命、ならばだ。
「もし行かれるならば、せめて屈強な護衛を連れていかれては?」
色々な意見から選べるようにするのも周りの務めだ、叱責されても痛くもかゆくもない俺が拾っておこう。護衛も丸腰間違いないが、それでも危険度は下げることが出来るからな。
「私は断固として反対します。大将軍、決して行ってはなりません」
「袁、曹、両者の言う通りです。兄上、これは宦官の罠です!」
荀彧をチラっとみるが、真剣な表情をしている。先は読めているだろうが、口出しするわけにもいかないんだろう。苦虫を噛んだような顔とはこれだろうか、困り果てているな。
「はぁ、わかったわかった、そうまで言うならば行かぬ。陛下には後日改めて伺うと伝えよ」
「承知致しました」
使者は使者としての権限しかない、言葉を受け取り帰って行った。まわりの諫言を容れたか、では騒乱はもう少し先になるんだな。
「俺は疲れたから休むぞ」
隣室に消えて行った何進。だが直ぐにお開きにはならずに、この場で皆が視線を交わす。「車騎殿、ゆゆしき事態ですぞ」
「ああ司隷校尉の見立てではどうだ」
「面従腹背は宦官の得意とするところ。何食わぬ顔で命を狙い続けるでしょう」
それは俺も同感だ。武力は防げても寝技は防げんだろう、魔窟で生き延びるには何進の注意力は低そうだ。
「驍騎校尉はどうだ」
「奴らが生きている限り解決などしないでしょう」
官職をはぎ取り追放したとしても、どこかでツラっと復帰しているだろうな。何せ後宮の専決権限というのがある、とやかく口を挟むことが出来ないはずだからな。
「俺もそう思う。だが兄上の許可なく勝手にやるわけにもいかぬ……」
困るのはお互い様ではあるが、総大将は何進だからな。そこを蔑ろにするのは確かにいかんぞ。とはいえこの分だと遅かれ早かれ失策をしてしまうだろう。
「司隷校尉よ、どうか兄上の警護をして欲しい。側近である貴官を頼らせて欲しい」
袁紹の奴、まんざらでもない顔をしているな。そういや名族ってことで自尊心が高い奴だったか、目上に頼まれるのはさぞかし気分が良いんだろうな。
「それはお任せを。しかしこのままというわけにも、なあ孟徳」
名案が浮かばないのか、曹操に話を振ったか。だが俺だってこれといったのは解らんからな、ここは三国志の主人公である曹操の知恵を拝借ってやつだ。
「褒められたものではないが、やはり宦官は切って捨てるのが一番だ。どれだけ策を弄しようとも、身体から首が離れてはどうにもなるまい」
いやまったくだ。で、それをどうするかってことだぞ。皆も黙って続きを促すかのような表情をしている。「こちらから仕掛けるのはダメでも、あちらからなら良いというのを逆手に取る」
「……後の先を取ると言うことだろうか?」
何苗のいう後の先ってのは、次手出しをされたら速攻で反撃を加えて勝ち抜くってことだよな。情報が上手くつかめればギリギリなんとか出来るのかどうかの世界だぞ。あの曹操がそんな危なっかしいことを勧めるもんか。
「何も本当に襲撃されてから報復をすることもないでしょう。下手人を予め用意しておいて、襲われたと喧伝してこちらが先に攻め入ってしまえば有耶無耶に出来る」
「うむ!」
ははは、さすが曹操だな、こいつらしいよ。なんて思ってたらあいつ、こちらを見てニヤリと笑ったぞ。これぞ乱世の姦雄ってやつか。
「どうでしょう袁紹殿」
「孟徳の策ならば上手くいくだろう。弟の袁術にも動員を出来るように報せる」
虎賁中郎将は近衛だな、最低でも中立だ、皇帝を守るためだけしか動かなければそれで構わん。
「島殿の部隊も計算に入れるが良いな?」