「李儒だって!? なんであいつ

李儒だって!? なんであいつがここにきているんだ、董卓派の筆頭じゃなかったのか」

 

 賈翅と李儒董卓の左右の軍師って感じだろ、その敵にあたる皇太后の宮に呼び出しを受けて応じるなんてスパイ? いや、それ以前に門前払いをされて当然か。

 

「我が君、李儒殿はやや暫く前より中央で仕えられている廷臣で御座います。どこでそのようなお話を?」

 

「そうなのか?」富途牛牛背景

 

 俺の記憶違いか? それとも同姓同名の別人? 漫画の作り話の類? よくわからん、だがただ者ではないのは感じられるぞ。こういう時は直に話してみるのが一番だろう。

 

「行くぞ」

 

 返事を待たずに真っすぐに李儒のところへと歩いていくとこちらに気づく。初対面だ、注意をしているな。拳礼をし名乗りを上げる。

 

「歩兵校尉島介です」

 

「お初にお目にかかる、私は中散大夫李儒と申します」

 

 これといった敵意や悪意は感じられんな? 俺とどっこい中年一歩手前、この時代なら三十代は中年かも知れんが、やはり四十歳が節目だろうと思ってるんだよ。

 

「人違いだと失礼になるので一つ確認を。李儒殿と同姓同名の方が宮廷に居られたりはありませんか?」

 

 何せ姓名のバリエーションが少ないんだ、幾らでも同じだってやつはいる。文字で書けばまだはっきりもするが、発音だけではそれこそ類似の山だぞ。

 

「私が知る所では居りませんが、属吏の隅まで把握しているわけでもありませんので」

 

 そりゃそうだ。だが董卓の傍仕えなら知らんことも無かろうから、俺の知ってる李儒はこいつなんだろうな。「ではきっとあなたが私の知る李儒殿なのでしょう。もし差し支えなければ、時を見計らい一献いかがでしょう」

 

「私をお誘いで? それはそれは、どうもご丁寧に。このような非才非学の徒でよろしければ、いつでもお声がけ下さいませ。しかし何故でしょう」

 

 荀彧は何も言わないが、同じく理由を聞きたそうな雰囲気をしているな。

 

李儒殿といえば文武に聡く、知恵が深いお方と聞き及んでおります。是非教えを乞いたく」

 

「この私がそのように言われるとは珍しいですな。ははははは、喜んでお付き合いいたしましょう」

 

 拱手すると畏まる。ん、あれは宦官だな、いよいよ皇太后のお出ましか。宮の中央に集まって整列して降臨を待つとしよう。

 

 仰々しいまでの衣を羽織った女性、まだ二十代か? 少帝の歳を考えてみて、この時代を鑑みれば不思議ではないくらいだ。何苗将軍と目元が似ているな。集まっている男達を見て何を思っているか、まあ少ないと焦っていたりはするかもな。

 

「そなたらに来てもらったのは他でもない、董卓が幅を利かせているのを掣肘するためじゃ。あやつは皇帝を蔑ろにし、漢の正統を乱す存在、これを外す為に働いてもらう」

 

 やる気十分だが、こちらの意図は無視ってわけか。何進何苗が居た時はそれでも良かったかもしれんが、今はそれで通用するかな。この場の官らは微妙な表情だぞ。

 

 皇太后が宦官へ片手を伸ばすと、盆を持った者がそろそろと近寄り差し出す。

 

「上手く事を運んだものは列侯へと封じるよう手筈を整えてやろう」 盆から取ったのは印璽、いくつかの地域の侯印か。官職についているよりも実益が大きい、これならば従うものだっているだろうさ。一歩進み出る奴がいる、誰だ?

 

「都船令栄信で御座います。船上であれば司空の護衛も少数、視察を行うことになればそこで」

 

「ふむ、都船令の案を実行出来る者は無いか」

 

 董卓のスケジュールに影響を与えられるやつってことだよな。もうひとり進み出るやつがいる、李儒だぞ。