罪滅ぼしに手伝わせてくれと総

罪滅ぼしに手伝わせてくれと総司が荷車を引く役を買って出た。

護衛代わりに斎藤も横に付き厳重に連れて行かれる。

 

 

「これぐらい大丈夫ですよ。女人可以接受禿頭嗎?出現「頭頂稀疏」等現象,是女士脫髮警號! @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 :: よく寝たからかだいぶマシなんです。歩いてでも診療所まで行けますよ。」

 

 

三津は余裕の笑みを浮かべてるつもりだが痛みで歪んでいた。斎藤は三津の左腕があまり動かないのが気になっていた。

 

 

「左手はどうだ。掴めるか?」

 

 

自分の手を差し出した。三津はえへへと笑って誤魔化した。

 

 

「斎藤さんは鋭いなぁ。あんまり力入らんくて。」

 

 

「こんなにお三津ちゃんの事見てるのにホンマに旦那さんやないんですね。」

 

 

ユキの指摘にそこは触れないで欲しいと思う斎藤。

確かに自分が旦那だったら三津はこんな目に遭わなかったのにと思いながら目を伏せた。

 

 

「何故よりによって長州……。」

 

 

「すみません厄介な人に好かれて。」

 

 

『しまった心の声が……。』

 

 

口に出すつもりは無かったが漏れていたらしい。しかし本当に何故なのか。きっかけは何なのか。

 

 

『コイツが暑気中りで倒れたのを連れて帰ったのは副長。吉田が店に通いだしたのはその辺りからと言う。ならば吉田は副長の女だと思って近付いていたのか?』

 

 

でも甘味屋に足繁く通っていたのは総司であって土方は滅多に出向かない。それに女中になる以前の話。

 

 

『やはりどこかが嘘なのか?』

 

 

だけども斎藤には三津が嘘をついたなら見破れる自信があった。目が合うと三津は笑みを浮かべる。

 

 

『考えれば考える程分からん……。』「すみません肩を貸していただけますか?」

 

 

ユキの声に斎藤は思考の渦から引き戻された。

 

 

『もう着いたのか……。』

 

 

総司と斎藤が両側から肩を貸して三津を診療所の中へ連れて行った。

三津を布団に寝かせたら自分達の役目は終わりだ。

 

 

「しっかり傷を癒やして帰るんだぞ。」

 

 

「はい,ありがとうございました。沖田さんもありがとう。」

 

 

斎藤の隣で何か言いたげにしていた総司だが,

 

 

「はい,では私達はこれで。」

 

 

笑顔であっさりと立ち上がった。そして先生とユキによろしくお願いしますと頭を下げて診療所を出た。

 

 

「……本当は見舞いに来てもいいかと聞きたかったんじゃないのか?」

 

 

「やだなぁ斎藤さん。勝手に頭の中を覗かないでくれます?精一杯押し留めたんですから。」

 

 

参った参ったと笑っているがいつもの元気はどこにもない。

 

 

「まだしばらくはアイツの姿を拝めるさ。まぁ副長が監視に誰を充てるかは分からんが吉田が来るかもしれんとなると我々の誰かが交代だろう。」

 

 

間違いなく一回は当たるはず。そう落ち込むなと肩を叩く。

総司はへへっと笑った後に大きな溜息を一つ。

 

 

「まだ頭の中が整理出来ないんですよ。でも何を整理しなきゃいけないのか分からなくて。邪心だらけでお恥ずかしい……。」

 

 

総司は眉尻を下げて笑った。

それは斎藤も同じだった。

 

 

「本当に最初から最後までアイツは謎だらけだ。分かりやすい顔をする癖に掴みどころが無い。」

 

 

「今回はみんなが三津さんを信じてくれました。私も信じています。

でもまだまだ胸騒ぎがするんです。」

 

 

「副長か?」

 

 

総司は小さく頷いた。

 

 

「土方さん色男が気掛かりみたいで……。今度はその色男を捕まえる気ですかね。」

 

 

「自分より色男か確かめたいのかもな。」

 

 

「あぁ!それは納得ですね!土方さん自分大好きですから色男って言葉には敏感ですしね!」

 

 

今はこんな他愛も無い話が救いになる。この胸騒ぎが勘違いで済めばいいと願った。

 

 

 

 

 

 

 

三津が診療所に移った。それはすぐに桂の耳に入った。

 

 

『思ったより早かったね。疑いが晴れたのか。それとも何かの作戦かな?土方君しつこいからね。

どっちにしろ今度はもう離さないよ。絶対に。』

呼吸は浅く時折痛そうに顔を歪める

呼吸は浅く時折痛そうに顔を歪める。だけど蔵から助け出した時よりはマシに思えた。

 

 

斎藤はそのまま三津の傍らで胡座をかいたまま仮眠を取ろうとするが,やはり土方が訪ねて来ていた事が気になる。

 

 

『少し冷静になって気付いたのだろうか。easycorp 自分が間者への拷問としてコイツに手を上げたのか。それとも嫉妬からの行動なのか。いずれにせよ副長は三津を手放す気はないだろう。』

 

 

平穏な暮らし戻してやりたいが,ここまで深く関わりを持ってしまった。そんな暮らしに戻れるだろうか。

 

 

『副長の事だ。しばらくは様子を見てまた吉田が会いに来た所でコイツ諸共捕まえるに違いない。いや,もう間者として捕まえなくていいようにここで繋ぎ留めておく気かもしれん。』

 

 

次に二人が会うとすれば,もう長州者とは知らなかったが通用しない。

 

 

『主人と女将は気が気じゃないないだろうな。』

 

 

心配の余りきっと三津を迎えに来るのではないか。斎藤はそんな気がしていた。翌日,斎藤の予想通り功助とトキが屯所までやって来た。

全てを包み隠さず伝えて三津に会わすべきか決め兼ねていると,

 

 

「アイツが本当の事言わなくていいっつってんだろ。言う必要はねぇさ,今日はお帰りいただく。」

 

 

そう告げて土方が対応に出た。

門の前で足止めされていた功助とトキは土方の姿を見て深々と頭を下げた。

土方も二人の前まで来ると深く頭を下げた。

 

 

「旦那に女将,わざわざ足を運んでいただいたんだがまだアイツに会わす訳にはいかないんです。これはお二人も長州と何ら関わりの無い事を証明する期間でもある。

もうしばらく預ったらお返し致します。」

 

 

「一目会うのも叶いませんか……。」

 

 

門前払いも覚悟の上で来たつもりだが,もしかしたらと淡い期待も持って壬生までやって来た。功助は手を合わせお願いですと何度も何度も繰り返した。

 

 

土方は首を横に振るばかり。トキはポロポロ涙を零して懇願したが叶わなかった。

とぼとぼ引き返して行く二人の背中を見えなくなるまで見つめていると,

 

 

「本当に鬼ですね。」

 

 

総司がひょっこり現れた。

 

 

「長州に関わるとこうなるっていい見せしめにもなったろ。恨むなら俺らじゃなく吉田を恨むこったな。」

 

 

鬼だ人斬りだと蔑まれどんな悪名がつこうとも,誰に何と思われようとも平気だったが今回は何とも後味が悪い。

 

 

「お二人が吉田を恨むとは思えませんね。吉田は三津さんを好きで通っているお客。我々は何も知らなかった三津さんを捕まえて帰さない悪い奴ら。」

 

 

損な役回りだなぁと寂しそうに笑った。

 

 

「俺はまだ気になる事があんだよ。」

 

 

吉田の件はもういい。気になるのは色男。何だか釈然としないのだ。

 

 

「色男ですか?もしかしたらまた三津さんに会いに来るんじゃないですか?」

 

 

「あぁそうだな。」

 

 

その為には早く三津を甘味屋に返さなければならない。

ここで初めて三津に重傷を負わせた事を後悔した。

 

 

『何処の誰だか分からねぇその色男,しかと拝んでやるまで気が済まねぇな。』

 

 

色男と言うだけで気に入らないと言うのに三津を着飾らせて連れ出そうとしたのも気に入らない。そう全てが気に入らない。

土方はこれからの事を頭に描きながら自室に戻り,総司は三津の元へ向かった。「三津さん具合はどうですか?」

 

 

部屋を覗くと近藤と山南が居た。

二人は何の用?と三津の傍らに腰を下ろした。

 

 

「大丈夫,元気!おじちゃんとおばちゃん来てたんやってね。」

 

 

会いたかったけどこんな姿は見せられへんわと戯けた。

 

 

「すみません早く帰してあげたいんですけど……。」

 

 

「もうすぐ先生達が来るからね色々と相談してみようね。」

 

 

山南はもう少し辛抱してくれと優しく三津の頭を撫でた。

 

 

しばらくして先生とユキがやって来てそのまま三津を引き取ると言った。

三津は荷車に乗せられ診療所へ運ばれる事になった。

 

 

「痛いと思うけどごめんね。」

 

 

「なるべくそっと引きますから。」

三津はえへへと笑いながら頬を掻いた

三津はえへへと笑いながら頬を掻いた。

でもすぐにもしかしたら悪い噂かもと眉間にシワを寄せた。

 

 

「副長が今日からゆっくり寝れると欠伸でもしてるんだろ。気にする事はない。」

 

 

「えー…いつもぐっすり寝てはるけど…。」顯赫植髮

 

 

朝起きれば,布団を目深に被っている土方を揺り起こすのが日課なんだけど,と首を傾げた。

 

 

『無自覚と言うのは恐ろしいな…。』

 

 

この際だから教えてやろう。

斎藤は咳払いをしてから三津の寝言について話し始めた。

 

 

「お前も目の下にクマを作って随分とやつれているが,ここ最近副長も寝不足だ。

クマが出来たせいでより人相が悪くなってる。」

 

 

「斎藤さん以外と口が悪いんですね。」

 

 

二人が同時に足を止め,顔を見合わせた。妙な沈黙がしばし流れた。

 

 

「…話の腰を折るな。その寝不足の原因を教えてやろう。紛れもなくお前だ。

毎晩毎晩悲鳴を上げられ,衝立一つ挟んだだけの至近距離で寝ている副長が起きない訳なかろう。」

 

 

言ってやったぞと腕組みをして胸を張った。

 

 

三津は呆気に取られて口を半開きにしたまんま斎藤を見つめた。

 

 

「じゃあ私が十日も休暇になったのは土方さんの安眠の為ですか?」

 

 

「それもあるがやっぱりお前には分かって欲しいんだろ。自分達の立場や役目を。」

 

 

それには三津も押し黙る。

やっぱり自分が考えを改めなければならないらしい。

 

 

「斎藤さん,ここでいいや。一人で帰らないとまだ道覚えてないんか!って怒られてまう。」

 

 

三津は冗談っぽく笑って斎藤より一歩前に出た。

 

 

「では十日後の今ぐらいの時刻にまた迎えに来る。」

 

 

「はぁい!」

 

 

三津の緊張感の無い返事に小さく息を吐く。

今は道案内ではなく,護衛も兼ねてある。

 

 

「一人で帰って来ようとするんじゃないぞ。」

 

 

「分かってますよ!待ってますね,旦那様。」

 

 

茶化してるつもりでも,斎藤には通じなかった。

 

 

「何も考えないのも一つの手だ。ゆっくり休め。」

 

 

にっと笑ってみせる三津の頭にそっと手を乗せた。

それから優しく背中を押して甘味屋へと歩かせた。

 

 

三津はこくりと頷いた後,小さく手を振って店の暖簾の奥に吸い込まれていった。「ただいまぁー!おばちゃん大福三つ頂戴っ!」

 

 

三津の威勢のいい声が店内に響いた。

店内に居た客達は目を輝かせて熱い視線を注いだ。

 

 

看板娘の帰宅に誰もが目尻を下げてお帰りお帰りと声をかけた。

三津もそれに笑顔で応える。

自分を甘やかしてくれる空気が心地いい。

 

 

功助とトキは目を丸くして顔を見合わせた。

それから頷き合って,大福を三つ包んだ。

 

 

「早よ帰って来ぃ。」

 

 

包みをそっと手渡しながらトキが囁いた。

三津は口角を上げながら頷いた。

 

 

「で,この荷物は部屋にお願いっ!じゃっ!」

 

 

風呂敷包みをトキに押し付けて三津はすぐに店を飛び出した。

 

 

「あ!ちょっと三津!」

 

 

トキの呼び止める声に後ろ手を振った。

 

 

「帰って来たら問い詰めたるんやから…。」

 

 

先日土方達が訪ねて来てからずっと気がかりだった。

だけど,どうやら思ってたより三津は元気みたいだ。

それには安堵の息をついた。

 

 

『何だもう出て来たのか…。』

 

 

帰って早々に何処へ行く気なのか。

少し離れた位置から店を見張っていた斎藤は,気取られないように三津の後をつけた。

 

 

三津の足は迷う事なく進んで行く。

次第に人気の無い方へと向かっているのが気になる所だが,静かに様子を見守った。

 

 

とある場所で三津の足が止まった。

辿り着いた神社の石段。三津はそこに腰を下ろした。

 

 

『随分と歩いたから疲れたのか。』

 

 

こんなに歩いて帰り道は分かってるんだろうか。

石段に座ったまま,ぼーっと遠くを見つめる姿に少々の不安を感じた。

「それでおじちゃんとおばちゃ

「それでおじちゃんとおばちゃんは全部話したん?」

 

 

総司が黙って頷くと,三津は困ったような笑顔を見せた。

 

 

「もぉ,お喋りやねんから。帰ったらお説教やな。」

 

 

「気分は良くないですよね…。【頭皮濕疹】如何治療頭皮濕疹及遺傳性的永久脫髮? @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 ::

昔の事を知らない所で勝手に話されてたら。」

 

 

しかも三津にとって凄く凄く辛い事。

でも三津は静かに首を横に振った。

 

 

「それより私が毎晩魘されてたの何で沖田さんが知ってるん?」

 

 

そっちの方がびっくりだってやっぱり笑ってみせた。

それを見て総司の方が複雑な表情を浮かべた。

 

 

「みんな知ってます。三津さん毎晩悲鳴を上げるから。」

 

 

「え!?そうなん!?早よ言ってよ,全然気付かんかったし!」

 

 

嫌な夢だとは思っていたけど,毎晩見せられるその辛さが,まさか悲鳴となって口から出ていたなんて。

 

 

「それだけ辛い思いをされたんでしょ?」

 

 

だから人が斬られる事に人一倍敏感で,血を見るのが怖い。

きっと刀を振るう人が許せないはず。

 

 

「…そうやね,残される側は辛いなぁ。」

 

 

『また笑った…。』

 

 

心から笑ってない,貼り付けたような笑顔。こんなの三津じゃない。

 

 

「そんな笑顔…三津さんらしくない…。どうして無理してまで笑うんです?」

 

 

辛い時は甘えればいいのに,弱音を吐かなければ,頼ってもくれない。

 

 

「約束したから…。じゃないと怒られてまうし。」

 

 

冗談っぽく言いながら,三津は肩をすくめて見せる。

どんな時も笑顔を作る癖をつけた。

勝手に顔が笑うのだからこれが普通なんだ。

 

 

すると意を決した総司が三津へと手を伸ばした。伸びてくる手を三津は避けなかった。

何をするのだろうかと不思議そうに総司を見ていた。

 

 

「この顔はお面ですか?」

 

 

総司の両手は三津の顔を挟み,頬を揉みほぐした。

ぽかんとする顔のギリギリまで近付いた。

 

 

「全然感情がない。笑ってるふりしてるだけだ。

お面をつけて全て隠してるだけじゃないですか!

約束ってなんです?無理して笑う事ですか?

誰とそんな約束したんです?それも三津さんを苦しめてる要因の一つじゃないんですか?」

 

 

息継ぎも忘れて言いたい事を一気にぶつけた。

三津の顔を押さえる手に震えが走る。

 

 

「嫌やなぁ,無理なんてしてへんから。

沖田さんの早口が凄くてびっくりしたし。」

 

 

クスクス笑って総司の手をそっと掴んで外そうとしたが,

 

 

「そうやって話を反らすのも許しませんよ?」

 

 

逆に総司が三津の手首を取り,痛くない程度に力を入れた。

 

 

「私とも約束して下さい。無理して笑わないと。

辛い時は辛いと言って,泣きたい時には泣いて下さい。私の胸なら貸しますから…。」

 

 

真っすぐに三津の目を見て伝えるつもりだったのに,最後の方になると自分でも恥ずかしくなってきて目を伏せてしまった。

 

 

「そんな甘やかすような事言ったら土方さんに怒られますよ?

おじちゃん達の所でも散々甘えてたんやし…。

それに,沖田さんが思う程弱い子ちゃうし。」

 

 

三津はにっと笑って総司の顔を覗き込んだ。

急に顔を寄せられ,総司がのけぞり手が緩んだ隙に三津は拘束から逃れた。

 

 

「でもそう言ってもらえて嬉しい。ありがとう。

もしそんな時は胸貸してね!」

 

 

じゃあ!と片手を上げて部屋からも逃げ出した。

 

 

「あ!」

 

 

まんまとはぐらかされてしまった。

四つん這いになってがっくりとうなだれた。

 

 

「何やってるんだ私は…。」

 

 

力になるどころか三津の本心さえ引き出せない。

三津を呪縛から解放してあげたかったのに。

 

 

『私がどうにかなりそうだ…。あの“ありがとう”はズルい…。』

 

 

最後の最後で本物の笑顔を見せた。

三津に触れただけでおかしくなった心臓が余計に早鐘を打つ。

 

 

のそのそ体を起こし,胡座をかいて三津に触れた両手を見つめた。

 

 

「三津さんにべったり触っちゃった…。」

 

 

三津の頬の温もりと柔らかな肌の感覚がまだある。

 

 

『やっぱり三津さんの特別なイイ人になりたいよ…。』

三津は顔だけが急激に熱くなる

三津は顔だけが急激に熱くなるのを感じ俯いたまま目を泳がせた。

 

 

 

「なっ何で斬られたんですか? 顯赫植髮 誰にやられたんです?」

 

 

 

反応に困ってあわあわしながら質問を投げかけてみたが男は黙り込んで苦笑いを浮かべた。

 

 

そのまましばしの沈黙の後,ただ苦笑いを浮かべていた男が口を開いた。

 

 

「壬生浪士に出会ってね。」

 

 

壬生浪士…。

京の町では人斬り集団として名を馳せている浪士組だ。

 

 

「いきなり斬られたんですか?」

 

 

この人も志士狩りに遭ったのか。

 

 

自分の住む町の治安の悪さに顔をしかめていると男は話を続けた。

 

 

「酒を飲み交わした帰りだったんだけど…。

彼らは私の事が相当嫌いみたいだね。だいぶしつこく追い回されたよ。危うく狩られるところだったね。」

 

 

男はさも他人事のように言ってのけ苦笑いから一転,何だか余裕の笑みまで浮かべている。

 

 

「……少し狩られてますけど?」

 

 

手当てをし終えた左腕を指差しながら込み上げてくる笑いに耐えた。

 

 

男は少し恥ずかしそうに

 

 

「…そうだね。」

 

 

と呟いて頭を掻いた。

 

 

和やかに二人で笑い合った。

 

 

「…って笑ってる場合ちゃいますよ!そんな人らに追われてて家まで帰れるんですか?」

 

 

何て暢気な人なんだ…。自分の命が危ないと言うのに…。

 

 

三津の方が頭を抱えて唸り声を上げた。

 

 

男からすれば何故見ず知らずの自分の身を案じ,世話をしてくれるのか不思議で仕方ない。

 

 

「大丈夫,彼らもねぐらに戻る頃だろう。」

 

 

心配そうな眼差しを向けてくる三津を安心させようと優しく頭を撫でてみた。

 

 

「もし見つかったら?」

 

 

不安げに三津が問うと

 

 

「逃げるのは得意だよ。」

 

 

と男は自信たっぷりに胸を張った。

 

 

『逃げ切れんかったから斬られたんじゃ……。』

 

 

なんて野暮な事は胸にしまい,頭に被さった温かみのある手の感触に目を細めた。そんな三津の肩を,聞いて聞いてとたえが揺さぶる。

 

 

「お三津ちゃんが家に帰ってる間ね,ずーっと私を“三津!”って呼びはったんやで?

事ある毎に“おい三津!”とか“三津お茶!”とか。」

 

 

「…失礼な人ですね。」

 

 

自分で帰しておいて,しかも自分よりも長く勤めてるたえの名を呼び違えただと?

 

 

腕を組み,頬を膨らませてけしからんと腹を立てた。

 

 

「お三津ちゃん,そうやなくて…。」

 

 

たえは苦笑して首を横に振った。

 

 

「それだけ間違えるってのはずっとお三津ちゃんの事考えてたからやと思わへん?

きっとお三津ちゃんで頭の中がいっぱいやったんちゃう?」

 

 

 

 

“君の事しか頭にないんだ。”

 

 

 

桂に言われた言葉がふっとよぎった。

それだけで体が熱を帯びる。

にやけそうになるのを堪えて,両手で頬を押さえた。

 

 

「あ,まだこんな所に居やがったか。」

 

 

「噂をすれば…。」

 

 

たえはくすっと笑って肘で三津をつついた。

 

 

「噂?」

 

 

土方さんは眉間にシワを刻んで三津を睨みつけた。

 

 

「何でもありません!医者なら明日必ず行きますから!」

 

 

『あぁ駄目だ…。桂さんを思い出したら顔がにやける…。

でもアカンアカン,知られる訳にはいかへん!』

 

 

三津は両手で顔を押さえて首をふるふる振った。

 

 

「やっぱ熱あんじゃねぇか?」

 

 

土方の手が三津の額に触れる。

 

 

「熱はねぇか…。だが,油断すんじゃねぇぞ。しっかり体温めやがれ。」

 

 

 

“しっかり体温めなさい。”

 

 

 

どくん…と心臓が脈打つ。

土方の言葉にさえ桂を重ねてしまう。

 

 

「あ…。あの大丈夫ですから!仕事に支障はないようにしますから!」

 

 

相手は土方なのに目が見れない。

三津は頬を赤らめて足早に逃げ出した。

 

 

「…何だあいつ。」

 

 

「さぁ?あ,お茶飲みたかったんちゃいます?お三津ちゃんの淹れたやつ。」

 

 

棘のある言い方に虫の居所が悪くなった。

完全にこの三日間の無礼を根に持たれてしまった。

 

 

「さっきのは照れてるんちゃいますか?

お三津ちゃんも十八やし,男の人を意識してもおかしい事ないと思いますけど。」

 

 

確かに三津の動揺っぷりは変だと思った。

今まで顔を寄せようが押し倒そうが全く動じなかったのに。

 

 

『体調不良でも,頭がおかしくなった訳でもねぇのか…。』

 

 

あの三津が,恥じらいを覚えた。

残った本能は我が儘で

残った本能は我が儘で,今すぐ振り返って彼の顔を見たいと言う。早く振り向けと急かす。

 

 

でもどんな顔して振り向けばいい?何を話せばいい?

 

 

新選組に居るって聞いて驚いたよ。」

 

 

三津はぎくりとした。

優しい声の裏にある感情が分からなかった。

 

 

「…ごめんなさい。」

 

 

「どうして謝るんだい?」【女性生髮藥】女性可否服用保康絲?對生bb有影響? @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 ::

 

 

三津は口を噤んだ。どうして?と言われても,そうとしか言いようが無かった。

 

 

「君は君の正しいと思う選択をして新選組に行った。そこで私の情報を彼らに密告したりはしてないんだろ?

もしそうだったら,彼らに捕まって屯所で再会してただろうしね。」

 

 

桂はくすりと笑った。

そんな再会のしかたならまっぴら御免だよ,って。

 

 

「彼らに私の事を話さなかったように,私も彼らの情報を君から聞き出すつもりは全くないよ。

君に求めているのはそんなモノじゃない。」自分を抱き締める腕に,暴れまくる鼓動が伝わってるかもしれない。

 

 

桂の言葉が体に響く度に心臓の音が激しさを増す。

だけど,嬉しくて仕方ない。

 

 

会いたいと思ってくれていた。

探してくれていた。

三津って名前を呼んでくれた。

 

 

「お…怒ってません?桂さんの敵の女中なんかやってるんですよ?」

 

 

嬉しいけど,手放しに喜んでいいものかとも思ってしまう。

嫌われたくないが故の不安。

 

 

「彼らは私の敵でも三津は違う。

でも土方歳三の女が君だと噂で聞いた時は少々腹が立ったね。」

 

 

土方歳三に対して。

三津に出逢ったのは自分の方が先だと言うのに,易々と三津を屯所に連れて行った。

しかも自分のモノにしたとなれば黙っちゃいられない。

 

 

「すみません…。」

 

 

でも誤解なんです。

言い訳したいのに言葉が続かない。

 

 

『やっぱり怒ってはった…。』

 

 

そう思ったら息をするのも苦しいぐらいで,三津は情けなく眉を垂れ下げて俯いた。

 

 

「腹が立ったのは三津に対してじゃないよ。

それに事実は違ったじゃないか。」

 

 

幾松から報告を受けた時は年甲斐もなく喜んだ。

もちろん心の中でだけ。顔はいつものようにすましていた。

 

 

「じゃあ何で腹が立ったんですか?それに何で幾松さんに壬生まで来させたんです?」

 

 

「彼が三津を独占してると思うと落ち着いていられなくてね。自分の目と耳で真意を確かめたかったけど,幾松に止められてしまったよ。

私が行くときかなくてね,だから彼女に任せたんだ。」

 

 

三津には桂が困ったように笑ってるのが,背中を向けていても分かった。

 

 

「そりゃ止められますよ…。」

 

 

そんな噂の真意を確かめる為に桂を壬生に出向かせるなんて事があっていい訳ない。

 

 

「幾松さんに心配かけちゃ駄目ですよ…。今もこんな事してる場合じゃ…。」

 

 

言い終わる前に三津の視界が変わった。目の前には桂の顔。

 

 

肩は左腕に抱かれたまま,右手が顎を固定して,唇には柔らかく温かい感触があった。

 

 

唇を離すと桂は両手で三津の顔を包んだ。

穏やかな瞳は以前と変わらず,あの時のままだ。

 

 

「私が三津に求めるモノは三津自身だ。」

 

 

三津の額に口付けを落とした。熱を帯びた三津の体は再び桂の腕の中。

 

 

「い…言ってる意味が分かりません…。」

 

 

いや,本当は分かる。

分かっているけど,素直になれない。「誰か見てるかもしれませんから!」

 

 

人の話し声や足にやたらと敏感になる。

まともに桂を見れなくて,目を伏せて桂の胸を押した。

 

 

「じゃあこれならいい?」

 

 

三津の落とした傘を拾い,それで姿を隠した。

片手は三津の腰に回したまま,離す気はない。

 

 

「駄目です!私は新選組の女中で土方さんの小姓なんです。

私の近くにいれば,桂さんは危険なんですよ?」

 

 

誰が見てるとかそんな小さい事はどうでもいい。

桂の命が危険に晒されてしまう方が問題。

 

 

『近くに居る人が死ぬのは嫌や…。』

 

 

それが土方や沖田の手によってなされてしまったら,きっと耐えられない。

 

 

「桂さんには幾松さんが居てはるやないですか。

こんな子供をからかうやなんて酷いです。

お願いですから離して下さい…お願いします…。」

「好きな男と一緒なら死んだ方がマシか?

「好きな男と一緒なら死んだ方がマシか?それで幸せなのか?」

 

 

『何かの為に命をかけるならまだしも,ただ好きな奴を追って死ぬなんざ単なる犬死にじゃねぇか。

女ってのは浅はかな生き物だな。何かにすがりつかないと生きていけないってのか。』

 

 

土方は三津の言葉を鼻で笑うと,三津は視線を落として呟いた。

 

 

「好きな人に置いて逝かれる方が苦しい…。会われへんし触れられもせんのに,忘れる事も出来へん。」

 

 

新平に会いたい気持ちが湧き上がる。

もう一度触れたい,

https://ventsmagazine.com/2023/12/13/navigating-menstrual-pain-practical-tips-for-a-comfortable-cycle あの手で触れて欲しい。

声が聞きたい。また名前を呼んで欲しい。

 

 

「守られたはずやのに…こんなに苦しい思いをするなら私だって一緒に死にたかった…。」

 

 

守りたかったのは二人の時間。そこに一人残されたって仕方ない。

心だけがずっと痛い。

 

 

『今…何て言った?』

 

 

一緒に死にたかった?誰が,誰と?

 

 

三津の肩を掴もうと手を伸ばしたと同時に,三津はすり抜けていった。

急に掴みどころのない女になってしまった。三津は覚束ない足取りで,酔いつぶれた隊士たちに用意した薄手の布団を掛けて回った。

 

 

お猪口二杯で千鳥足。

あっちこっちに転がった隊士の足に躓いては派手に転んだ。

 

 

「痛い…。」

 

 

痛い思いをしたのにみんなに指を差されて笑われた。

ほんのり赤く染まった顔で何がおかしいんだと口を尖らす。

 

 

「口調がちょっと土方さんに似てきたんじゃねぇか?」

 

 

永倉が拗ねた顔も可愛いぞなんて囁きながら三津の頭をよしよしと撫でた。

 

 

尖らせた口はすぐに緩み嬉しそうに頭を差し出した。

 

 

「土方さんに似てきたなんて冗談じゃないです。お酒のせいですね?」

 

 

総司はこれ以上永倉に触らせてなるものかと三津の頭から図々しいその手を払いのけた。

 

 

「土方さんですね?三津さんにお酒呑ませたの。」

 

 

広間の隅で片膝を立てて,その様子を愉しげに見ていた土方を一瞥した。

 

 

頭を撫でてくれる手が無くなり三津は顔を上げて小首を傾げた。

正面に総司がいるのを確認して今度は総司に頭を差し出した。

 

 

「あの…三津さん?」

 

 

これは撫でてくれと言う事か?

三津を犬のように扱うなんて気が引ける。でも撫でたい。

申し訳ない気がしながらも,そっと撫でてみた。

 

 

すると三津は満足げに目を細めた。

 

 

『酔ってるとは言えこの顔は反則ですよ。』

 

 

甘えたような顔は初めて見る。

どうせなら二人きりの時に見たかった。

強い独占欲が総司の心を支配した。

 

 

「お三津,俺も触ってやるよ。」

 

 

原田が下心丸出しの笑みと手つきで三津に近寄ろうとするもんだから総司は殺気を身に纏う。

 

 

『楽しそうなこった。』

 

 

もっと派手に暴れちまえと密かに野次を飛ばす土方の隣りに山南が腰を下ろした。

 

 

「思ったより取り乱さなかったね。気丈に振る舞ってただけかな?」

 

 

「ガキに注意が逸れたからな。」

 

 

勇之助の怪我は想定外だった。芹沢が逃げ込んだ部屋に居たとは。

顔を見られてないのがせめてもの救いだった。

 

 

更に為三郎が三津を引っ張って来たのも予期してなかったが,そのお陰で三津の見えなかった部分が垣間見えた。

 

 

「なぁ,山南さん。あんたの言う通りあいつは過去にあった何かでっかいモンを隠してやがる。」

 

 

今,目の前に居る三津は顔を赤らめ無邪気に笑っている。

 

 

『そうやって笑ってろ。分かり易くなきゃお前じゃねぇよ。

難しい女になんてなってくれるな。』三津の目の前で繰り広げられているのは朝稽古。

…のはずだったのだがいつもと趣旨が違う。

一本先取制の試合で勝者には褒美があると言う。