「好きな男と一緒なら死んだ方がマシか?それで幸せなのか?」
『何かの為に命をかけるならまだしも,ただ好きな奴を追って死ぬなんざ単なる犬死にじゃねぇか。
女ってのは浅はかな生き物だな。何かにすがりつかないと生きていけないってのか。』
土方は三津の言葉を鼻で笑うと,三津は視線を落として呟いた。
「好きな人に置いて逝かれる方が苦しい…。会われへんし触れられもせんのに,忘れる事も出来へん。」
新平に会いたい気持ちが湧き上がる。
もう一度触れたい,
https://ventsmagazine.com/2023/12/13/navigating-menstrual-pain-practical-tips-for-a-comfortable-cycle あの手で触れて欲しい。
声が聞きたい。また名前を呼んで欲しい。
「守られたはずやのに…こんなに苦しい思いをするなら私だって一緒に死にたかった…。」
守りたかったのは二人の時間。そこに一人残されたって仕方ない。
心だけがずっと痛い。
『今…何て言った?』
一緒に死にたかった?誰が,誰と?
三津の肩を掴もうと手を伸ばしたと同時に,三津はすり抜けていった。
急に掴みどころのない女になってしまった。三津は覚束ない足取りで,酔いつぶれた隊士たちに用意した薄手の布団を掛けて回った。
お猪口二杯で千鳥足。
あっちこっちに転がった隊士の足に躓いては派手に転んだ。
「痛い…。」
痛い思いをしたのにみんなに指を差されて笑われた。
ほんのり赤く染まった顔で何がおかしいんだと口を尖らす。
「口調がちょっと土方さんに似てきたんじゃねぇか?」
永倉が拗ねた顔も可愛いぞなんて囁きながら三津の頭をよしよしと撫でた。
尖らせた口はすぐに緩み嬉しそうに頭を差し出した。
「土方さんに似てきたなんて冗談じゃないです。お酒のせいですね?」
総司はこれ以上永倉に触らせてなるものかと三津の頭から図々しいその手を払いのけた。
「土方さんですね?三津さんにお酒呑ませたの。」
広間の隅で片膝を立てて,その様子を愉しげに見ていた土方を一瞥した。
頭を撫でてくれる手が無くなり三津は顔を上げて小首を傾げた。
正面に総司がいるのを確認して今度は総司に頭を差し出した。
「あの…三津さん?」
これは撫でてくれと言う事か?
三津を犬のように扱うなんて気が引ける。でも撫でたい。
申し訳ない気がしながらも,そっと撫でてみた。
すると三津は満足げに目を細めた。
『酔ってるとは言えこの顔は反則ですよ。』
甘えたような顔は初めて見る。
どうせなら二人きりの時に見たかった。
強い独占欲が総司の心を支配した。
「お三津,俺も触ってやるよ。」
原田が下心丸出しの笑みと手つきで三津に近寄ろうとするもんだから総司は殺気を身に纏う。
『楽しそうなこった。』
もっと派手に暴れちまえと密かに野次を飛ばす土方の隣りに山南が腰を下ろした。
「思ったより取り乱さなかったね。気丈に振る舞ってただけかな?」
「ガキに注意が逸れたからな。」
勇之助の怪我は想定外だった。芹沢が逃げ込んだ部屋に居たとは。
顔を見られてないのがせめてもの救いだった。
更に為三郎が三津を引っ張って来たのも予期してなかったが,そのお陰で三津の見えなかった部分が垣間見えた。
「なぁ,山南さん。あんたの言う通りあいつは過去にあった何かでっかいモンを隠してやがる。」
今,目の前に居る三津は顔を赤らめ無邪気に笑っている。
『そうやって笑ってろ。分かり易くなきゃお前じゃねぇよ。
難しい女になんてなってくれるな。』三津の目の前で繰り広げられているのは朝稽古。
…のはずだったのだがいつもと趣旨が違う。
一本先取制の試合で勝者には褒美があると言う。