三津は口を半開きにしてなるほど

三津は口を半開きにしてなるほどと感心していた。

 

 

「小五郎さん剣術凄いんですか?」

 

 

「えぇ,勝負を挑んでも私は勝てる気はしませんね。」 植髮香港

 

 

『本当に桂さんの事何も知らないのか?まぁ自分の事をひけらかす様な人でも無いのは分かるが何も知らなさ過ぎるのも不憫だな。』

 

 

「そんな凄いんですか!今日帰って来て疲れてなさそうならお話聞かせてもらおかな。」

 

 

目の前の三津は知らない一面を知れたと嬉しそうだった。

 

 

「何で桂さんを選んだんですか?」

 

 

勝手ながら吉田の方がお似合いだと思ってしまう。

 

 

「それは……私が前を向けるように助けてくれたからですかね。

気付いたらいつも近くにいて,いつの間にか支えられてて好きになってて。

小五郎さんの事何も知らなくても小五郎さんが長州藩士の桂小五郎と言う事実だけで私には充分なんやと思います。」

 

 

「ここぞとばかりに惚気けますね。やだなぁこっちが恥ずかしい。」

 

 

入江はにやにやしながら真っ赤になってく三津を眺めた。三津はそっちが聞いてきたのにと口を尖らせた。

 

 

「いや,思ってたより三津さんがしっかりした事を言ったので。

話に聞いてる三津さんは常に迷子で危なっかしい印象なんで。」

 

 

「常に迷子……。まぁ……道にも人生にも迷ってますよ間違いない……。」

 

 

がっくり項垂れる三津は優しい視線には気付かない。

 

 

「ほら,今私は三津さんを違う角度から見れましたよ?稔麿や桂さんは三津さんが危なっかしいと思っているが私は愛する人の為に真剣に向き合う誠実な方だと思いました。」

 

 

「入江先生は私の事褒める天才ですね。お茶のおかわり淹れてきます!」

 

 

鼻歌交じりに台所へ行った三津が先生!先生!と手招きで入江を呼んだ。

 

 

「どうしました?」

 

 

「あれ,たわんけぇ取って?」

 

 

棚の上の茶筒を指差した。

 

 

『……本当に人心掌握術に長けた人だ。』

 

 

入江は茶筒を取ると三津に手渡した。三津は上手に言えてた?と無邪気に笑う。

 

 

「えぇとっても上手ですよ。」

 

 

『こうやって狂わされていったんだなあの二人は。』

 

 

「私はその手には乗りませんよ?」

 

 

「え?何の話?」

 

 

おっとうっかり声に出してしまった。入江はこっちの話と意味深に笑った。

 

 

流石に会合では真面目な話をするからそれに集中出来て何とか終わらす事が出来たが,

 

 

「三津のせいで疲れが倍だ。」

 

 

げんなりする吉田に桂も久坂も深く頷いた。

 

 

「でもまだ九一から聞き出す事は山程あるからね。」

 

 

二人で何を話したのか問い詰めなくてはと藩邸に戻り入江を探したがまだ戻っていなかった。

 

 

「まさかあいつまだ入り浸ってんの?変な気起こしてないよね?」

 

 

「三津さんとの時間が相当楽しいんだな。」

 

 

久坂の意地の悪い笑みに桂と吉田の目が釣り上がる。

そこへふらりと入江が帰って来た。

 

 

「何を揉めてる?」

 

 

「九一こそ入り浸って三津と何してたの。」

 

 

嫉妬の塊に入江はふっと笑みを浮かべた。

 

 

「萩での話を少々。松陰先生の話と暴れ牛の話と。あとは三津さんの握り飯をいただいて帰って来た。楽しかった。」

 

 

入江の満足感に満ち溢れた顔に吉田の苛立ちが沸々と。

 

 

「何ちゃっかり三津の握り飯食ってんだ。」

 

 

「上手に握ってた。」

 

 

作ってもらっておいて何を偉そうにと食ってかかる吉田を尻目に桂と久坂は顔を見合わせた。

 

 

「そうか,九一助かったよ。三津には余計な事吹き込まなかっただろうね?」

 

 

「余計な事……。何も。」

 

 

自分では余計な事だと思わないので否定しといた。

 

 

「ただ桂さんに余計な事を言わせていただくとしたら,もう少し三津さんとお話されては如何でしょう?」

 

 

少し驚いた顔で入江を見つめたが一つ息を吐いて口角を上げた。

 

 

「それは三津が愚痴として溢したのかい?」

 

 

「いいえ,三津さんは惚気てましたよ。桂さんの事を何も知らなくとも貴方が長州藩士の桂小五郎だと言う事実だけで充分だと。