「さぁ巡察に行った行った。斎藤,お前だけ少し残れ。」
土方の言葉に少し身構えて頷いた。
普段なら“えー斎藤さんだけ狡い!”なんてふざけた態度で居座る総司だが,腑に落ちない表情を浮かべながらも他のみんなと部屋を出た。
近藤土方山南の正面に一人残された斎藤は何でしょうと様子を窺う。顯赫植髮
「またお前の憶測が聞きたくてよぉ。」
『俺の頭ん中覗けるのかこの人は……。』
片口を上げて笑う土方に本当に根拠は無いですよと念押ししてから考えを告げた。
「多分桂は吉田よりも前から三津の近くに居たと思います。
吉田との関係が疑われた事であの色男が浮かび上がり,女将や客の証言で色男が現れたのが最近と聞いたので吉田よりも後と思っていました。ですが桂をいつ手当てしたのか時期を聞いていない。」
ただの憶測に三人は真剣に耳を傾けた。土方は面白いじゃねぇかと不敵な笑みを浮かべる。
「三津が長州者に命を狙われていた辺り桂は三津の事を一切周囲に隠していたのかもしれません。桂が目を付けていたとなれば手出しなどしないでしょう。桂は三津にも自分の正体を隠してただひたすら想っていたのでは。」
「……忍ぶ恋か。だとすれば敵ながら天晴だな。」
憶測ながら筋が通ると近藤が唸った。「もういいぞ斎藤。面白いモン聞かせてもらった。
後は桂とっ捕まえて答え合わせと行こうじゃないか。」
土方の言葉に斎藤は礼をして部屋を出た。
「……あくまで憶測だ。真に受けるな。」
そう独り言を残して自室に戻った。
「何でバレましたかねぇ。」
上手く気配は消してたつもりなのにと総司は頬を掻いた。
『もしそうなら本当に天晴ですよ。どうやったらそんなに忍ばせられるのか教示願いたい。』
未熟者の私には到底無理だと自嘲して修行でもしようかなと道場へ向かった。
一人で留守番をする三津の所へ一人の遣いがやって来た。
ごめんくださいの声に玄関へ向かうと見覚えのある一人の男。
「あぁ!この前お話した!」
そうだ店の前を掃除している時に話しかけてきたあの男。
「どうも入江九一と申します。桂さんから預って来ました。これなら大丈夫じゃないか?との事です。」
三津の右手の方へ風呂敷包みを突き出した。
「貴方も長州の方でしたか。」
全然分からなかったと笑いながら,わざわざありがとうございますと風呂敷包みを受け取った。
「左手……稔麿は知りません。」
「え?」
一瞬ぽかんとしたがすぐに理解した。三津は微笑んで分かりましたと頷いた。
「気付かれないように気をつけますね。思い詰めてまた泣いてしまったら私も調子狂いますから。私が泣かされるならまだしも。」
「稔麿が泣いた?」
「はい。……お時間あるならお茶飲んで行きます?」
お話しますよと願ってもみないお誘いに二つ返事で上がり込んだ。
「どうぞ。」
お茶は上手に淹れる事が出来て安堵の笑みを浮かべお茶を出した。
「稔麿は泣いたんですか。玄瑞も桂さんも居たのに。」
三津は頷いて焦りましたと苦笑した。
「めっちゃ責任感じてたみたいで。私が勝手に身代わりになったんで逆に申し訳ない事をしたというか……。」
迷惑かけたかなと眉尻を下げて笑った。その顔を入江は無言でじっと見つめた。
「稔麿と言い桂さんと言い土方に斎藤も。どうすればそんな人心掌握術が使えるんですか。」
「人心掌握術?何ですかそれ。忍術ですか?」
そんな物体得した覚えがないと首を捻った。