や綿入れを丁寧に折りたたん

や綿入れを丁寧に折りたたんではを取り出しては並べた。

 

 

「これ全部干しましょうか。今日良いお天気だし」

 

 

 その提案にマサが頷いたのを見ると、桜花はそれらを集めて立ち上がる。

 

 

「あっ、これ。藥性子宮環副作用 懐かしいわァ」

 

 

 そこへ弾んだ声が聞こえて、振り返った。その手元には、淡い藍の布地に朝顔が描かれた浴衣があった。

 

 

「可愛いですね。おマサさんのですか?」

 

「せや。うちが娘の頃に着とったものや。嫁入りの時に持ってきたのんを忘れとった」

 

 

 マサは懐かしそうに笑みを浮かべる。そして何かを思い付いたかのように手招きした。

 

 そして周りに隊士が居ないことを確認すると、コッソリと耳打ちする。

 

 

「……これ、桜花はんにあげるわ。まだ綺麗やから着れると思うんやけど。うちはもうこないな可愛らしいのは着れへんし、かと言って葛籠の肥やしにするのも忍びないし。……ええと、他にもあった気が…………」

 

 

 そう言うと未開封の葛籠をどんどん開け、十代の頃に着ていた鮮やかな物だったり、可愛らしいものだったりといった着物や浴衣を取り出していった。そしてそれら数着を全て譲るという。

 

 

「こ、こんなに……良いんですか?古着屋に売ればお金になりますよ」

 

「ええのええの。いつも家のこと手伝ってもろて、ほんまに感謝しとるんよ」

 

「おマサさん…………」

 

 

 その好意が嬉しいと、桜花は目を細めた。それを見たマサは、ニヤリと何かを企むような笑みを浮かべる。

 

 

「……こないだの殿方。随分と切ない目ェで桜花はんを見てはったなァ……。どないな知り合いなん?」

 

「そ、それは…………。前に……助けて頂いたことがあって…………」

 

 

 流石に痣のことや、吉田が長州の者であることは言えない。それを除いて彼のことを説明しようとするが、何と言えば良いのか分からずに口ごもった。

 

 

「ふうん、へえ〜?」

 

 

 それが照れているように見えたのか、マサはますます笑みを深くする。

 

 

「上背もあって、涼し気な色男やったねェ。桜花はんは、あないな人が好きなんや」

 

 

 揶揄うような言葉に、みるみるうちに桜花の頬と耳は熱を持った。狼狽えるように視線を彷徨わせるなり、立ち上がる。

 

 

「わッ、私……!これ干してきますッ!」

 

 

 帷子を両手いっぱいに担いでは、逃げるように縁側へ向かっていった。

 

 その背を見ながら、マサはくすくすと笑う。

 

 

「そないに逃げんでも。……でも、良かったなァ………」

 

 

 桜花の歳は、まさににとって一番綺麗な時期である。それをこのような場所で過ごさせていることを、気の毒に思っていた。器量は良いのだから、記憶を失うという不運な境遇にさえ居なければ、今頃は良縁に恵まれていたのではないか。

 

 

「桜花はーん、それ干し終わったらこれ全部部屋へ持ってってやァ〜」

 

 

 マサは桜花に譲る衣類を全て葛籠に詰めた。

 桜花は貰った葛籠を二階の自室へ運ぶと、中から先程の浴衣を取り出しては眼前へ広げた。

 

 

「本当に可愛い…………」

 

 

 いつも男物の着物を纏っているからか、余計にそれが輝いて見える。きっと、記憶を失くす前も可愛いものや綺麗なものを見て、心を躍らせていたのではないだろうか。

 

 まだ女としての感覚が残っていることに、安堵の息を吐いた。

 

 

『その時は……女子の姿が見てみたい……』

 

 

 ふと吉田の言葉が脳裏へと浮かぶ。

 

 

──これなら、吉田さんとの約束が守れる。

 

 

「…………喜んでくれる、かな」

 

 

 浴衣を両手で握りしめながらそのように呟いた後、ハッと顔を上げた。

 

 

──喜んでくれるって何?別に好きとか言われた訳じゃないのに。

 

 

 けれども、抱き締められた時の温もりと感覚が未だに身体に残っている。あの行動の意味は分からないが、少なくとも嫌われてはいないのだろう。今はその事実だけで十分だった。

 

 

 

 火照り始めた頬を触りながら、一階へと降りる。今日のところは夕餉までやる事がないと言われたが、手持ち無沙汰であったため、表で箒を掃くこ とにした。

 

 そこへ鼻唄と共に足音が聞こえてくる。顔を上げると、沖田がこちらへと向かってきていた。目が合うと人懐こい笑みを浮かべ、ひらひらと手を振る。

 

 

「──やあ、桜花さん。精が出ますね。子どもたちは?」

 

「こんにちは、沖田先生。今日は手習いへ行っていますよ」

 

 

 その返答に、沖田は思案顔になった。

 

「そうでしたか……。そうだ、貴方は今空いています?非番なので、