にでも行こうと思って

にでも行こうと思って。宜しければお付き合い頂けませんか」

 

 

 桜花は甘い物と聞いて自然と表情が明るくなる。それを見た沖田は、その分かりやすさに口元を緩めた。

 

 

「決まりですね。藥性子宮環 貴方は表情がよく変わって面白い。まるで百面相だ」

 

 沖田はくすくすと笑うと、桜花の手から竹箒を取り上げ、門に立てかけると歩き出す。

 

 

「百面相って……」

 

 

 それほど表情に出していたつもりは無かったのだ。気恥ずかしさを感じながら、沖田の後を追う。

 

 

 

 

 二人は四条河原町にある茶屋へやってきた。沖田は手際よく二人分の茶と団子を注文する。

 

 茶屋はそれほど繁盛しておらず、客と言えば二人の他に浅く笠を被った男が一人居ただけだった。

 

 並んで長椅子へ腰掛け、団子と茶が届いたところで、に沖田が立ち上がる。

 

 

「──桜花さん、すみません。知人が居たので少し話して来てもよろしいでしょうか。お団子は食べていて下さい」

 

「大丈夫ですよ。私のことはお気になさらず」

 

 

 それを聞くとすぐ戻ります、ともう一人の客の横に向かった。

 

 桜花は届けられた団子を口に運びながら、それを横目で見る。

 

 

 知り合いと言う割には、沖田と男はさほど親密そうな様子ではなかった。笑みを交わす訳でも無ければ、穏やかな雰囲気でもない。それどころか、真剣さすら感じた。偶然出会った友人ならば、もう少し再会を喜ぶものではないか。

 

 

 二人は斜め向かいにある一つの商家を見ていた。

 

 

 桜花もそれに視線を移す。そこにはという暖簾があった。

 

 友人というより、仕事に関連した知り合いなのだろうと桜花は視線を空に移す。

「──沖田センセ、あれがや」

 

 声を潜めながら沖田へ話し掛ける客の正体は、監察方として活動中の山崎である。

もの間、ずっと手分けして張り込みをしていた。その結果として

 命を受けてからこのくこの桝屋を突き止めたのである。

 

 

 沖田がこうして茶屋に出向いたのは甘味が食べたかったのではない。山崎から文が届き、偶然非番だったからだ。ただ男が一人で甘味屋へ向かうことで、怪しまれる可能性が無いとも言いきれない。そこで土方より桜花を連れていくようにと言われたのだ。

 

 

 桝屋からは丁度、宮部鼎蔵なる尊攘派の肥後熊本藩士が下僕のを連れて出てくる。沖田は宮部の顔を記憶するように見た。

 

 黒の紋付袴を着こなすその姿には何処か威厳を感じる。忠蔵は額に傷があり、すり足気味に歩いていた。

 

 

「…………あれが。よく掴みましたね」

 

「金は天下の回りものっちゅうことですわ」

 

 苦労はしたものの、山崎の天性とも言える人の懐に入る上手さと金を握らせることで、周囲の町人から情報を得たのである。

 

 極めつけは、会津藩小鉄というが桝屋の裏の長屋に住んでおり、そこから出入りする浪士の名を提供してもらったことが大きかった。

 

 

 さり気なく桝屋を見ていると、周囲を気にするような素振りの浪士達が出入りをしている。

 

 

「あれでは……何かあると言っているようなものですね。後日御用改めになると思います。山崎君は屯所へ戻って報告をお願いします」

 

 

 沖田は表情を変えることなくそう言うと立ち上がった。そして桜花の横へと戻る。

 

 

「すみません、お待たせしました」

 

「いえ、大丈夫ですよ」