女に関しては事欠いたことがなく、百戦錬磨の自負もある。今回は完全に私事に付き合わせるため、上手い褒め言葉の一つや二つ言ってやろうと考えていたのだが、それすら忘れてしまった。
初めて母親以外の女を見た童のように、すっかり固まる。
「……そうです。変でしょうか……」 子宮腺肌症治療
恥じらって俯く姿すら愛らしく見えてしまい、土方は狼狽えた。大きく鳴り響く自身の胸元を掴むと、歯を食いしばる。
顔を前に戻すと、一度小さく呼吸をした。副長としての威厳が形無しになってしまうのは避けたかった。
「変ってこたぁねえ。……行くぞ」
恐らく赤くなっているであろう、自身の顔を見られぬように、早足で店を出る。
「副長……!ま、待って下さい」
袴とは違い、着物は歩幅も短い上に歩きづらい。呼び掛けに応じて立ち止まった土方は振り向くと、桜司郎の目線に屈む。
「良いか、その副長ってのは無しだ。今から俺のことは歳三様と呼ぶように。分かったか?」
「は……はい。と、と、しぞ……様」
気圧されながら、桜司郎は土方の言う通りにした。苗字や役職では無く、名前を呼ぶだけでも特別な感覚がして赤面する。早速この役を引き受けたことを内心後悔し始めていた。
──こんな恥ずかしいことだとは思っていなかった。刀が無いことも不安だし、早く脱ぎたい!
「ん……どうかしたのか。不都合があれば言うんだぞ」
加えて、土方はこれまでに無い程優しい。怒鳴られている方が余程気が楽だった。
「わ、分かりました」
土方の見立てが余程良いのか、すれ違う人々からの目線が先程の何倍にも増える。俯きながら、離れないようにその背を必死に追った。 一方で、屯所にて。沖田は欄干に手を掛けて佇んでいた。
散った桜の花びらを箒で掻き集めている隊士の姿を横目に見ていると、総司と高らかな声が聞こえる。
「近藤先生。これから黒谷ですか?」
近藤は黒の紋付袴に着替えており、奥に小姓が控えていた。このような装いをしている時は決まって会津からの呼び出しを受けている。
近藤は柔和な笑みを浮かべて頷いた。
「ああ。定例登城のようなものだよ。隊の分裂の件も報告せねばなるまいしな」
「確かに。お気を付けて行ってきて下さいね。今日は土方さんは一緒では無いのです?」
その問いに近藤は顎に手を当てて小首を傾げる。
「そうなんだ。どうしても外せぬ用があると、めかしこんでさっさと出て行ったよ。あいつも忙しいからな、たまには良いさ」
「へえ……。珍しいですね」
普段から身なりに気を付けている男ではあるが、近藤がめかしこんでいるとまで言うのは、京に来てからは殆ど聞いたことが無かった。
好い人でも出来たのかな、と口角を上げる。
「お前も出掛けるのか?今日は久々の非番だろう?一番組には負担を多く掛けて申し訳ないな……」
「隊の大事ですから、仕方ないですよ……。私ももう少ししたら、飴屋さんに行こうと思います」
その返答に、相変わらず色気が無いなと近藤は微笑んだ。それがこの弟分らしさでもある。
「ほう?何処のだ?」
「少し距離はあるのですが、清水の方に。よく賑わっていますから直ぐに分かります。色々種類があってね、見ていると楽しいですよ」
「そうか。気を付けて行ってくるんだぞ」
よしよしと大きな手が沖田の頭を撫でた。まるで兄弟のようなやり取りである。
「はい。近藤先生も」
笑みを返して別れると、沖田は自室へと戻った。
すると、後ろ手で障子を閉めるなり口元を抑えて咳き込み始める。
痰が絡み、懐から懐紙を取り出してその上へ吐き出した。それには鮮やかな血が混じっている。
沖田は眉を下げて顔を歪めると、その場にズルズルと座り込んだ。
──明らかに