僕にはやる事があるけえ

僕にはやる事があるけえ、無責任な事は言えん。

 

 

 本当は直ぐにでも新撰組から離れて欲しかった。何に巻き込まれるか知れぬからだ。

 

 ついこの前にうっかり口から出た、"嫁に"という言葉は嘘では無い。惚れた女を嫁に貰いたいと思うのは、經痛|月經不規律、嚴重M痛 兩種婦科病徵兆 | am730 男であれば至極真っ当なことだ。だが、それには段取りがいる。

 

 何処ぞの誰かに養女として引き受けて貰い、通行手形を作るのだ。それからへ連れていく必要がある。流石に新撰組に顔が割れた彼女を、この京で匿うのは無理だった。それならば、今のを終えた頃合を図るしかない。

 

 それに何よりも桜花の気持ちが肝要である。ついぞ最近、嫌がる自分の肌を見てきた男の嫁になぞなってくれるだろうか。

 

 

 

 そのような事を考えていると、何かを言いたげに大きな瞳がこちらを見ていることに気付いた。物を考え込むと周りが見えなくなるのが吉田の悪い癖なのだ。

 

 

「どうした?」

 

「……吉田さん、こんな私を許してくれますか」

 

 

 その言葉に何故か胸の奥がつきんと痛む。どうも思っていない相手であれば、許しを乞う必要など無いだろう。少なくとも吉田はそう思っていた。故に理由が知りたくなる。

 

 

「……なして、僕に許して貰いたいの?」

 

 

 僅かな意地悪心を交えつつそう問えば、桜花は困惑したように視線を彷徨わせた。

 

 

「…………吉田さんに嫌われたくない、から……です」

 

 

 返ってきた言葉が思ったよりも嬉しいもので、顔に熱が集まる感覚に眉を寄せる。

 

 

──自分で聞いておきながら照れるとは、僕はなんて未熟なんじゃ。

 

 

「……嫌うことなぞ……出来ん。もしも君が僕を裏切っちょったら、今頃此処には居られん。じゃけえ、桜花さん……。君を信じる」

 

「吉田さん……」

 

「むしろ、此度の件は……より君を知る良い機会となったと思うちょる。雨降って地固まる、と言うじゃろう」

 

 

 そのように返せば、桜花は花が綻ぶような笑みを浮かべた。 その後、二人は再び歩き出した。ほんの少しだが先程よりも距離が近く、互いを見る視線が暖かい。

 

 

「……ねえ、吉田さん。お忙しいとは思いますが、いつか二人で出掛けませんか」

 

 

 この情勢ではそのがいつ来るのかとは言えないのは分かっていた。京の街に少しずつ不穏な空気が漂っていることには何となく気付いている。それの中心が、"不逞浪士"と一括りにされる吉田ら長州の者ということにも。

 

 

 だが、それでも次の約束が欲しかった。

 

 

──危ないことはこの人にしないで欲しい。

 

 

 吉田の色んな一面を見る度に嬉しくなり、もっと知りたくなる。

 蓋をしたはずの自身の胸の奥に芽生えている温かさが、隠しようもないくらいに大きくなり始めたことに気付いてしまった。このような感情は、きっと失くした記憶の中にも無いだろう。

 

 

 

「……うん、出掛けよう。僕も京はそこまで長くは無いけえ、案内は出来んが……」

 

 

 その返答に、桜花は嬉しそうに笑った。

 

 

──これじゃ、この笑顔が好きじゃ。慕情を自覚させられた今は、こねえにもこの人が愛おしいと思える。

 

 

 それを見た吉田は込み上げる愛しさを感じながら、目を細めて微笑む。

 

 

「……そうじゃ。京は夏になったら、祇園祭という由緒ある大きい祭りがあるらしい」

 

「お祭りかぁ……、行ってみたいです」

 

 

 藤堂らと稽古をしている時に、江戸の祭りの良さについて延々と語られたことを思い出した。屋台に神輿、そして花火。建物が密集している京で花火は現実的では無いだろうが、きっと吉田と一緒なら何でも楽しいはずだ。

 

 それを想像するだけで、頬が緩んでしまう。

 

 

「では、それも共に行かんか?その時は……女子の姿が見てみたい……」

 

 

 吉田は勇気を全身から振り絞ってそう言った。何処かから久坂のよくやったという声が聞こえてきそうな気がする。

 

 夕陽のせいなのかは分からないが、吉田の顔は上気したように赤くなり、瞳は真っ直ぐに桜花を射抜いた。

 

 

「……あ…………」

 

 

 桜花は目を伏せ、恥ずかしそうにしながらも頷く。