沖田の言葉に桜花の瞳は揺

沖田の言葉に桜花の瞳は揺れる。それを沖田は見逃さなかった。

 

 

新撰組に入りたいと言うなら、その覚悟は必要です。悪意を斬ることが出来なかったら、己の身どころか、仲間すら守れませんからね」

 

「…正直、まだ人を葬る覚悟は出来ていません。ですが、人を守る覚悟はあります。武士は、の民を護るためのものでしょう?」

 

そのように返されると、沖田は何も言えなくなる。

確かに人を殺すために武士に生まれてくる赤子はいない。弱き人を守れ、身を立てろと言われて育つものだ。

 

そう思えば、

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新撰組は異常だった。

武士の真似事をしているのにも関わらず、最初から殺す事をれと教わる。

 

 

「そうですね。その通りです。ですが……」

 

沖田は口ごもった。土方や藤堂らが相手であればもっとスラスラと遠慮のない論議の言葉が出てくるのに、どうしても桜花の前では言葉を選んでしまう為につっかえてしまう。

 

 

桜花は、何とかして沖田が自身を諦めさせようとしていることは察していた。それは源之丞もまさも同じだろう。

まさはしきりにを強調していたが、既に自分は真っ当な女子ではないことを自覚していた。

 

心の何処かでちくちくと燻る何かがあることを知っているため、きっと女子らしい感情は残っているのだろう。

それでも桜花にとって、の女子はそうなのだろうが、いくら未来の記憶がないとはいえ、この時代で育った記憶が無いのも事実である。

 

記憶が無いならば、この少ない鮮やかな記憶を精一杯咲かせてみたかった。

それが失った記憶への手向けになるだろう、そう信じている。

 

 

「沖田先生はお優しいです。私の為に悩んで下さっているのですね。ですが、私は私の意志でこの道を選びました。もしこれで何があっても、後悔はしません」

 

 

そう言い切る桜花の瞳はもう揺れていなかった。凛としていて、野辺に咲く力強い花を彷彿とさせる芯の強さを感じる。

 

沖田は木槌で頭を殴られたような衝撃を受けた。脈がどくどくと速くなり、一種の興奮すら覚える。

 

女子は、力無き者は守るものだとずっと教えられてきた。何時の間にか、私はこの人のことを弱い女子だと一緒くたに決め付けてしまっていたんだ。

この様にも強い精神力と腕を持っているというのに。

 

女子が怖い私が、唯一話せる女子を守ることで、自己満足してきたのか…。

はたまた、彼女から想い人を奪う結果となったことを後ろめたいのか。

沢山の人を殺してきた私が今更そのようなことを思うなんて、この人の覚悟を手折ろうとするなんて、何と図々しく汚いのか。

 

どうしてこの様に、私は浅ましいのだ──

 

沖田はそう思うと空を見上げた。

 

 

「…ええ、農民が武士になれる時代ですし。戦う女子がいても良いかも知れませんね…」

 

そして観念したようにそう呟く。

桜花は嬉しそうに微笑むと、一礼した。

 

今夜にでも桜花は土方を訪ねるだろう。そうすれば早ければ明日には上司と部下の関係性になる。

それは近くて遠い存在になるということだ。

 

何処か寂しさを覚えながら、沖田は桜花へ笑みを返す。その夜。沖田の予想通りに桜花は副長室の前に居た。

 

まさか隊士になるなど、此処に連れてこられた時は思いもしなかっただろう。

 

障子を前に緊張していると、中から低い声で入れと聞こえた。

うろうろとしている影が見えていたのだろう。

 

「し、失礼します」

 

桜花は障子をそっと開けた。すると部屋の主は文机の前から首だけを向ける。

そして少しだけ驚いたような表情を浮かべた。

 

 

「珍しいな、お

さんが俺を訪ねて来るなんざ」

 

手招きをされ、それに釣られるがまま土方の前に座る。正座をすると緊張した面持ちのまま土方を見据えた。

 

土方は手にしていた筆を置くと、腕を組みながら桜花の方を向く。

仄かに揺れる行灯の火が部屋の中を薄暗くし、整った顔立ちを精悍に見せた。

 

「で…どうしたんだ」

 

その問い掛けに小さく深呼吸をすると、口を開く。

 

「…何時ぞやの夜。土方副長は"新撰組は元の身分に囚われず、や鈴虫の鳴き声が小さく聞こえる。