そのようなことを思うと、如何に新撰組の存在が有難いか身に染みた。
いつの間にか壬生村に辿り着いており、屯所がすぐ傍に迫っている。
「…あんたが刀を持つことで、植髮香港 救える命はきっとある。よく考えてみると良い。では、付き合わせて済まなかった」
斎藤はそう言うと、前川邸へ入っていった。その夜。寝巻きに着替えた桜花は文机の前で座していた。
部屋は暗く、時折覗く月明かりだけが光の全てである。
『新撰組は元の身分に囚われず、になれる場所だ。恨まれる覚悟、斬った斬られたの命のやり取りをする覚悟があんなら俺の所へ来い』
『もし何もやりたいことが無いんなら、夢に乗っかるのもアリじゃないかな』
『…あんたが刀を持つことで、救える命はきっとある。よく考えてみると良い。』
土方、藤堂、斎藤の言葉が脳裏で浮かんだ。
「…。でも、私は……」
桜花は俯く。胸元に触れてみればそこには晒から解放された二つの膨らみがあった。
それは女である象徴であり、決して否定することは出来ないもの。
女が武士になることはせることは出来るのだろうか。
だが、桜花にはどうしても忘れられない感覚があった。
禁門の変の時、浅葱の羽織を身に纏い刀を片手に駆けたこと。沖田の横で仮の隊士として歩いたこと。
この時代で生きることを許された、その様な気がしたのだ。
刀を持つこと、誰かの為に振るうことはそこに存在価値が生まれる。思想が無くとも、記憶が無くとも、それだけでそこに居ることが許される筈だ。
「…沖田先生は、それを許してくれるだろうか」
普段は物腰柔らかい沖田も、隊士として戦場へ出れば修羅になる。弱きを助け、治安を乱す者を捕り。
その背は何処か遠くて、大きかった。
だが時折その背が寂しく見える。それを支えたいと思ってしまうのは何故か。
桜花は文机に伏せた。顔を横にずらすと視線の先には薄緑と鬼切丸の二振りが見える。
すると、途端に睡魔が襲ってきたため目を瞑った。