気取りででかい面

気取りででかい面をする恥知らずではない」

 

 今井の逆ギレがつづく。

を合わせようとはせず、副長に嫌味をぶちかますというへたれぶりである。

 

 虚勢をはるというのも、子宮內膜異位症 なかなか大変なことである。

 

 今井は、副長とフランス軍士官たちにガンをたれるなり、踵を返して立ち去ってしまった。

 

「かまわぬ。ほうっておけ。相手にするだけときの無駄というものだ」

 

 俊冬が目線で副長に指示を求めると、寛大な副長が隣人愛っぷりを発揮した。

 

 だが、面白くないのはフランス軍士官たちも同様である。口々になにかいいはじめた。ブリュネがなだめるも、ますますヒートアップしてゆく。

 

「なんといっている?」

「いまのやつに腹をきらせろ、と。それがサムライだろう、と」

 

 副長の問いに、俊冬が応じた。

 

 いまもむかしも、異国人の間でハラキリは有名らしい。

 

「すまぬ。どうかこの場はおさえてくれぬだろうか」

 

 そのとき、古屋が頭をさげて謝罪した。

 

 止める間もなかった。

 

 つまり、部下の不手際の尻拭いをしたわけである。

 

 なんていいボスなんだ……。どっかのイケメンボスとは天と地ほどちがう。

 

 古屋にたいして感動した瞬間、イケメンボスににらまれた。

 

 俊冬がすぐにトランスレイトし、さらに説得を試みるも、士官たちのヒートアップぶりはおさまりそうにない。

 

「この連中も、しょせん今井と目糞鼻糞のようです。ただの暇つぶしみたいなものです。面白いことを望んでいるだけのようです」

 

 俊冬は、を左右に振りながら古屋にちかづき、その両肩に掌をおいて頭をあげさせた。

 

「よもや今井のことはどうでもよくなっています。かれらはわれわれのことを馬鹿にし、蔑んでいます。常日頃からそう思っているからです。明日の出陣も、かれらにとっては戦というよりかは暇つぶし、つまり物見遊山というわけです。きっかけは今井ですが、この際、どちらが上であるのか、しらしめておいたほうがいいかと」

 

 声量をかぎりなく落とし、俊冬が副長や榎本らに説明した。

 

仏蘭西軍とわれわれのどちらが強いか、さらには根性があるかを、力でもってわからせるというわけだな」

 

 さすがは副長である。こういうバイオレンス的な案件は、すぐにのっかってくる。

 

 俊冬は、無言でうなずいた。

 

将兵には、今宵の宴に花を添えるため、とすればいいかと」

「たま、面白いじゃないか。だったら、おれか?」

「副長。副長がやったら、チート野郎ってことがバレるだけですよ。せっかく人気急上昇中、いいねが増加中なのに、大炎上してしまいます」

 

 思わずツッコんでしまった。

 

「主計、この野郎っ!わけのわからぬことをほざくんじゃない」

 

 また叱られた。

 

「では、宣戦布告とまいりましょうか」

 

 俊冬の副長似のイケメンに、不敵な笑みが浮かんだ。

 

「主計、きみがやるかい?」

「すごい、主計さん。あんなにおっきい異人さんを相手にするって勇気があるよね?」

「主計さん、がんばって。応援するよ」

 

 子どもらがムダに声援を送ってきた。

 

「じゃんけんとかにらめっことか?じゃんけんはだめだな。ここぞというとき、ぜったいに負けてしまう。なら、にらめっこだ。変顔結構得意だし」

「あー、ヘンガオってなにかな?」

「島田先生、変なをすることです」

「ならば、いちいち表情をつくるまでもなかろう?」

「勘吾さんの申すとおり。そのままでいけるではないか」

 

 おれが島田に変顔について教えてやると、ソッコーで蟻通と尾関がいってきた。

 

 ちなみに、尾関もめっちゃイケメンである。新撰組の旗役として、先頭を任されるくらいのイケメンなのだ。

 

 しかも、俊冬とは「そんな。イケメンは、なんの面白みもありませんよ。やはりここは、おもろいをつくらないと」

「きみ、マジでポジティブすぎないか?それに、きみの素顔でフランス人たちを笑わせたところで、ますます馬鹿にされるだけだよ」

「うるさいよ、たま。なら、どうするんだ?刀で?それとも銃で?」

「どちらでも。ほら、フランス軍士官はサーベルを携帯しているからね。どちらでもOKだと思うよ」

 

 俊冬の言葉で、士官たちの腰をみた。

 

 じゃっかん反り返っていて細身の刀身のフランス式のサーベルが、ぶら下がっている。

 

 そういえば、大鳥やかれの片腕の本多も同様のサーベルを帯びていることを思いだした。

 

 もっとも、大鳥や本多のサーベルは飾りであるらしい。実際は太刀も所持していて、いざというときはついつい太刀に頼ってしまうという。

 

 しかし、サーベルってどんな攻撃をしてくるんだ?フェンシングみたいなの?それとも、フツーに振りまわすんだろうか。

 

 ってか、なにゆえおれがフランス軍士官にヤキをいれなきゃならないんだ?

 ってか、あっちのなかにはムダにでかい士官が幾人かいる。

 

 ヤキをいれられるのは、どうかんがえたっておれじゃないのか?

 

 銃にしろサーベルにしろ、勝てる気が全然しない。

 

「せっかくきみがヒーローになるチャンスだったのに」

 

 俊冬が懐をおびやかし、