には、当惑がありありと浮かんでいる。
聴覚をうしなっているかれは、おれの声ではなく心をよんだり口の形をみて反応しているのである。
「意外?わたしには、泰國生髮藥 それらがおかしいとでも申すのか?」
「おかしい、というのはちょっとちがいますね。あなたは、兄とか仲間とか、そういう身内や仲間への愛や愛情がパネェって気がします。ゆえに、だれにでもわけへだてなく愛や愛情をそそげるというのが、意外なだけです。でも、料理が愛情ってところは、おれも同意しますよ」
「そうか・・・・・・。わたしは、を向けてきた。そのかっこかわいいにたいして憎悪しかしておらぬように感じられるのだな」
「なにゆえ、そんな極端な表現になるんです?いっておきますが、あなたには、そんなものちっとも感じられませんよ」
なにゆえ、カツ丼のカツの衣がサクッとしててうまいってところから、こんな無限ループ的な内容になってしまうんだ。
「そうか。それはよかった」
その俊春の答え方は、あまりにもサラッとしすぎていた。だから、思わず嫌味をいわれたのかと思った。ゆえに、思いっきりにらみつけてしまった。
しかし、かれのには、心底ホッとしているというような安堵感が静かにひろがっている。
そのの意味とかれの気持ちは、正直はかりかねてしまう。
気がつけば、副長たちのいる部屋にもどってきていた。『第一回幕末杯大喰〇選手権』、舞台は江戸にある薩摩藩の蔵屋敷。カツ丼をどれだけ喰うことができるか、で競われます。
ってな勢いである。室内はふたたび、緊張とカツ丼のにおいに満たされた。
新撰組の代表である永倉と島田のカツ丼をかっ込む勢いは、一杯目とさしてかわることはない。一方、薩摩藩代表の海江田もまた、一杯目同様二杯目もマイペースな超神速でかっ込んでいる。
「やったぁっ!完食っ」
三杯目を一番に喰いおわった永倉が、丼鉢を膳の上におきつつ、つい叫んでしまった。
永倉は叫んでしまってから、体をわずかに硬直させた。
「おおっと。腹がいっぱい、かも。否。八分目だ。もう充分。あとはまた、明朝にするさ。なぁ、魁?」
「いえ、組長。わたしはまだまだ喰い足りませぬ。あと二杯はほしいところ・・・・・・。いたっ!」
永倉にふられた島田が、胸の内を素直に吐露している最中に、永倉がその分厚い胸に肘鉄を喰らわせた。
そして、島田もまたそれに気がついた。
「わ、わたしも腹がふくらんできたかも」
島田はそうつぶやいてから、がははと笑ってごまかす。
二人は、副長が鬼の形相にらみつけていることに気がついたのである。
そんなの謎の攻防中、海江田も喰いおわったようだ。かれは膳の上に丼鉢を置くと、軍服の胸ポケットからムダに真っ白すぎる布切れをとりだし、丁寧に口許をぬぐった。それから、それを胸のポケットにしまうと、掌をあわせて「ごちそうさま」をした。
そのは、めっちゃ満足そうである。
「喰うたことんなか料理やったが、わっぜうまかった」
海江田は、お膳を回収している俊春にソプラノボイスで告げる。
あからさまに色目をつかっている。
これは、西郷への挑戦なのだろうか?それとも、にたいしてだろうか。
「おそれいります、海江田先生」
俊春は、如才なく応じる。
「おっとそうだ。海江田さん、そいつに剣術の指南でもしてやくれまいか?」
そのとき、副長が提案した。
あいかわらず、とんでもないアイデアをだしてくる。
「小者兼料理人といえど、これからはで度胸が試される。だが、そいつは才がないようでな。いくら教えてもできんのです」
副長は、自分自身のことを俊春になぞらえている。
って、思った瞬間、副長にめっちゃにらまれてしまった。
ったく、剣術はイマイチどころかイマヒャク以上なのに、の心をよむっていう、どうでもいいような才能だけは開花させるんだから。
都合のいいときだけきこえる、お年寄りの耳とおんなじだ。
って、思った瞬間、副長が拳を振り上げた。
「そんたよか。示現流だけでなっ、薬丸自顕流ん達人でもあっ海江田さぁなら、教ゆっとにうってつけやろう」
半次郎ちゃんが拳で太腿をパンとうち、副長のアイデアに賛同した。
めっちゃニヤニヤしている。あきらかこのあとの展開を期待しているのがバレバレである。
「おっ?それはうらやましい。ぽちなど、海江田先生の教えはもったいなさすぎよう。ならば、おれも胸をお借りしたい」
そして、のっかってくる剣術馬鹿の永倉。
「あっでは、おれも」
その永倉ににらまれたので、おれものっかることにした。
正直、ウィキだけでは海江田の誠の腕前ははかりかねる。だが、半次郎ちゃんよりすごいってことはないだろう。
ということは、永倉なら海江田の上をいっているはず。
ということは、おれなら海江田の下をさまよっているはず・・・・・・。
まっ、おれは薩摩兵児のタイプじゃないらしいし、ビシバシやられることはあっても、ビシバシ