「先生、話にきまっ

「先生、話にきまってるじゃないですか」

 

 なんだかんだいいながら、島田がさきに部屋にはいってしまった。

 

「さきに申しておくが、わたしは柔術もたしょうできる。相撲にいたっては、林先生と五分だ」

 

 林先生とは、島田とおなじ伍長で、避孕藥 十番組でそこの組長である原田を支えていた柔術の遣い手である。相撲もかなりのもので、子どもらの先生であった。

 

 京から大坂へ退く途中に重傷を負い、沖田や藤堂のいる丹波に山崎とともに逃れたのである。

 

「わかっていますってば。襲うようなことはいたしません。ってか、柔術や相撲どころか、剣術だってかないっこありませんから」

「はは、またまた謙遜を。かなり遣えるではないか」

 

 島田・・・・・・。

 

 やっぱり周囲をよくみていて、しかも

 俊春が自分の右はいっさいのくもりがなく、公正明大にして寛容な判断をくだせる、いい男だ。

 

「之定」は、とりあえず部屋のすみ、掌の届く範囲に置いておく。島田も同様に、太腿のすぐ横ではなく、すこしはなれたところに置いている。

 

「それ、ですよね?」

「よくしっているな。ああ、そうか。まさか・・・・・・」

「ええ。先生のその刀、ずっとにまで遺っているんでる」

「そうか・・・・・・。すごいな。これは、日野にいったとき、井上先生のご実家を通じて局長より賜ったんだ」

「そうでしたか。それはよかったですね。大切にしてくださいよ、未来のためにも」

「ああ、そうしよう」

 

 島田はその脇差を鞘ごと抜き、いとおしそうになでてから、左太腿のそばにおいた。

 

 京の戦で亡くなった井上源三郎の遺志が、こもっているかもしれない。

 

 そういえば、その井上源三郎にとどめをさしたのが俊冬だ。

 ふと、あのときのかれを思いだした。

 

 あのときも、かなりまいっていた様子だった。いや、いまも気に病んでいるだろう。

 

「俊冬も無論そうであるが、副長のことが案じてならない」

 

 島田もおれも、「たま」なんて呼ぶ気になど、とてもならない。

 ふたたび、そのように呼べるようになりたい。

 

「そうですよね。局長のことにくわえ、俊冬殿まではなれてしまったら、副長は・・・・・・」

 

 やっかみなどではない。

 

 島田は、副長の精神面を支えている。副長の話をきき、副長がなにかを決定したり選択したりするのに、勇気を、あるいはあとおしをする感じだろうか。

 

 俊冬は、その決定や選択をする元を調べ、準備する。

 

 副長にとって、この二人はなくてはならない存在であろう。

 

 もちろん、俊春も。こちらは、その決定や選択を、忠実かつ確実に実行する。

 

 副長にとっては、兄貴よりおとなしくてある意味やさしすぎる俊春は、片腕というよりかは弟みたいな存在なのかもしれない。

 

「主計、あの二人のことをしっていたのではないのか?」

 

 そんなことをかんがえていたので、島田の質問をきき逃してしまうところであった。

 

「はい?」

「おぬし、また眠っていたのではないのか?」

「島田先生、このおれの睫毛バツッのぱっちりお目々は、これ以上にないほどみひらかれていましたよ。眠っているわけがないじゃないですか」

 

 向かいあって胡坐をかいているおれたちの距離は、島田のリーチなら「藤原正宗」でおれの胸板を充分刺し貫ける距離である。

 瞼が開いているくらい、くっきりはっきりみえているはず。

 

 それとも、瞼を開いたまま白目状態で眠っているようにみえたのか?

 そんなの、ゾンビだ。

 

バツッとは、どういう意味だ?それがながいという意味なのなら、笑えるぞ。ちっともながくないではないか。ながいというのは、こういうことを申すのだ」

 

 島田は、指輪とは縁のなさそうな節くれだったぶっとい人差し指で、自分のを指さす。

 

 みえん。視力は悪くないが、ほんのりとした燭台の灯のなか、睫毛のながさまでみえるわけはない。なにゆえ、おなじ条件の島田が、おれの睫毛のながさがみえるというのか?その上で、悪くいっているのか?不可思議でならない。きっと、みえていないのに、テキトーにいっているにちがいない。

 

 ってか、これってめっちゃ

 島田の左腰に脇差が残っているのを、きいてみる。

といい、多摩地方の郷士が所持していたものである。下原鍛冶といわれる刀工たちがつくったもので、下原イコール下腹イコール切腹とイメージが強いため、人気がなかったのだとか。

 それは

 

 副長が、両掌に