時間にすれば、ほんの数秒であろう。不意に俊冬がファイティングポーズをといた。 刹那、かれが副長のほうへ体ごと向き直ると、副長もかれらの頭から掌をひっこめた。 「ありがたきお言葉。わが罪は消えることはなく、決して許されるものではございませぬ。なれど、わたしはの側に存在したい……」 はい? いまの、なんかおかしくなかったか? おおっと、気にするな。ツッコミはなし。あら探しもなし。 せっかくいいシーンが展開されているんだから。 「おいていただきとうございます。非力非才ながら、あなたのために尽くします」 かれは、そういってから深々と頭をさげた。 「頼むのはこっちだ。それと、礼をいう。それから、あらためて「おかえり」をいわせてくれ」 子宮內膜增生 副長は、また涙声になっている。片方の掌で俊冬の肩をつかむと、かれの頭をあげさせる。 よかった‥‥…。 心の底からほっとした。同時に、うれしくなった。 これでもう、思い残すことはない。 って、俊冬の影武者疑惑が残ってはいるが、それはおいおいどうにかすればいい。 ひとまずは、一件落着だ。 たぶん、だけど。 副長とのやりとりがおわってやっと、あらためておれたちがかれに挨拶する番である。 「おかえり」 まずは斎藤が拳を突きだした。 「ただいまもどりました」 俊冬も拳を突きだし、フィスト・バンプする。 「おそいぞ、たま。おぬしがいなければ、だれかさんの暴走がとまらぬからな」 「蟻通先生、恐れ入ります」 蟻通は、掌をさしだした。 二人は、握手で再会をよろこびあう。「だれかさんとはだれのことだ」 「だれかさんとは、だれのことなのです」 「だれかさんって、だれのことなんです」 思わず、蟻通の言葉をききとがめてしまった。ゆえに、かれにツッコんでしまった。 それはおれだけではない。副長と俊春もである。だから、蟻通へのツッコミは同時であった。 「……」 が、俊冬と握手をおえた蟻通は、おれたち三人をみまわしてから無言で肩をすくめだけである。 暴走しまくっているのがだれかは、残念ながらわからない。 「たまーっ!さみしかったぞーっ!」 そんな疑問などふっ飛ばしてしまう勢いで雄叫びをあげたのは、もちろん島田である。と認識するまでもなく、かれは同時に突進してきた。その突進ぶりは、猪もひいてしまうであろうというほどの猛進ぶりである。 島田は、よく笑いよく泣く。感情表現が超絶すごすぎるのである。とはいえ、喜怒哀楽のうち怒と哀はあまりお目にかかったことはないが。 兎に角かれは、斎藤ととおれをふっ飛ばし、ハグというにはなまやさしいような強烈かつ熱烈に俊冬を抱きしめた。 ちょっ……。 これは、ベア・ハッグ? 俊冬の上半身のあらゆる骨のきしむ音が、いまにもきこえてきそうである。 これが俊冬でなければ、確実に上半身をバラバラにされるであろう。これぞまさしく、チーンである。 板橋で島田と再会したとき、よくぞあれを喰らわなかったことだ。 そうか。あのときは、ちがう意味で強烈かつ熱烈なハグをする原田がいた。ゆえに、島田も遠慮をしていたのかもしれない。 「し、島田先生。く、くるしい……」 さすがの俊冬も、殺人的ハグに苦しめられている。 「おお、すまぬ。つい、感極まってしまった」 島田は照れくさそうにいいつつ、やっとのことで俊冬を解放した。 「おそろしすぎる」 隣でこっそりつぶやいたのは、斎藤である。 ああ、斎藤。心から同意するよ。 かれの感情を刺激するようなことは、今後いっさい控えよう。 それで?ええっと……。 まだ挨拶をすませていなのは、俊春と相棒とおれなわけで……。 って思っている間に、相棒がとっとと俊冬の脚許にちかづいてお座りしたではないか。例のごとく、相棒の尻尾はちぎれそうなほど盛大に振られている。 「ああ、わかっている。すまなかった」 俊冬はそうつぶきつつ相棒のまえに両膝をおり、ぎゅっと抱きしめた。 で? 残るは俊春とおれなわけで……。 どうするか?どうなるのかってかんがえていると、俊冬が熱き抱擁から相棒相棒を解放し、立ち上がった。 体ごとこっちに向きなおったので、必然的にがあってしまった。が、かれのは、おれにさだまりきっていない。そのときやっと気がついた。 いつの間にか、俊春がおれの横に立っているではないか。 俊冬のは、俊春とおれの間を彷徨っているのである。 これはもう、おれからではなくにアクションを起こしてもらおう。って、あれやこれやと気をまわしてしまうのは、長年の社会生活のなせる業なのか?それとも、職場環境がブラックすぎて、気をつかいまくらなければならない悲しい習性なのか? って、さらにさらにかんがえてしまっている間に、俊冬がこちらに向かってきた。 いつになくめっちゃマジな