何と驚きだ、翌日に

 何と驚きだ、翌日には洛陽を出発することになった。準備不足があったとしても、それはもう無いものとして作戦を立てるらしい。なおこの考えに俺は結構賛成だ、準備が足りなければ後で揃えても良いが、時間だけはどうにも出来んからな。

 

 前方に千の前衛を置いて、騎兵に囲まれて移動をしている。楽長吏も行軍中はさほど役目も無いらしく、馬に乗ってゆっくりとしていた。

 

張遼、行軍中に専属部隊百を編制しておけ。歩兵だけでだぞ」

 

 これ以上騎兵を減らしたら流石に誤算を産みかねないからな。

 

「道々で徴募するのか?」朱古力瘤藥

 

「いや、既存の部隊を引き抜く。司馬の直下にな。直接話の分かる手駒が少しでも居ないと往生しかねん」

 

 夜警に立たせるとか、荷物を運ぶとか、俺達がすべきではない雑用係だな。

 

「では命令書を」

 

 お……そうだな、ここでは上官が居るんだ、確かな命令系統を踏むべきだ。文聘に書かせて俺の印を捺して持たせてやる。そんなこんなが数日続き、成翠県に到着した。入城すると県令の座に何苗が座った。主だった者、といっても楽長吏ら三人と、俺ら五人、そして県令らが三人だけだ。「ここから蛍陽までは徒歩で二日の距離だ、偵察を出すぞ」

 

 何苗がそう言うと楽長吏が命令を出そうとした。俺は一歩前に出ると発言を求めた。

 

「どうした島司馬」

 

「先だって出陣時に長距離偵察を出しておりますので、その者らをここに呼んでも宜しいでしょうか」

 

 顎に右手をやると「呼べ」何苗は髭を触りながら応じた。文聘に命じて偵察騎兵の隊長を呼び寄せる。

 

「申し上げます。蛍陽に羅怜が居座っており、中牟の北にかけて賊が広く散っております。恐らく蛍陽には千程の兵力しかおりません」

 

 事前に話は聞いているが、これについてどう思うかだよな。俺からは何も言わずに様子を伺う。

 

「ふむ、楽長吏はどう考える」

 

「分散している今が攻め時かと。守りが千人ならば程なく陥落しましょう」

 

 県令もそうしたらよいと意見を後押しする。場の雰囲気がそう傾いたところでも、何苗は俺にもしっかりと意見を尋ねて来た。

 

「司馬はどうか」

 

「賊徒の鎮圧を命じられているならば、一カ所に集めて撃滅すべきかと。取り残せばまた蔓延りますので」

 

 真面目な顔でそう言ってやったさ。実際は頭さえ切り取ればお終いでいいんだろうが、南陽では次々に後継者が出てからな。

 

「島司馬よ、それでは敵の兵力が増強され、こちらが不利になるではないか」

 

 楽長吏は儒学者かなにかだ、文事は出来ても戦は門外漢ってところか。顔色を見ても若いのもそう思っているようだ、何苗は……読めんな。

 

「国家の正規軍が、たかが半数の賊軍に負けるようでは話になりませんので。取り囲み全滅させるべきでしょう」「むむむ……しかし城攻めは三倍の兵力があり始めてなされるもの。それでも被害は大きいが」

 

「確かに正面から攻めるならばそうなるでしょう」

 

 不敵な笑みを浮かべておくが、考えていることは単純だ。城門を一つ内側から奪うだけのこと。パワーゲームだよ。

 

「何やら考えがありそうだな島介よ。失敗は許されんがどうだ?」

 

「ご命令とあらば成功させましょう」

 

「良く言った! では司馬に任せる。やってみせよ!」

 

「御意」

 

 なるようになるとはこのことだよ。

 

蛍陽の賊

 

 自分の屋敷、というか城内の部屋に四人を集めて会議を行う。こいつら全員悲壮な顔どころか心配すらしてないんだな。

 

「で島殿、何をするつもりだ」

 

張遼ならどうする?」

 

「そうだな、俺ならば一隊で城内に切り込んで首領を倒す」

 

 案外勢いだけで突っ込むタイプだったのか、こいつは経験を積んで自重していくってことなのかね。