巨漢の南蛮兵よりもさらに

 巨漢の南蛮兵よりもさらに一回り大きな男が、ばん馬のような異形の馬にまたがり怒声を響かせた。顔を蒼くした兵士が義務感だけで切り掛かるが、馬上から大斧を振り下ろすと頭から真っ二つにされてしまう。

 

「なめるなよ、雑兵では話にならん、大将が出てこい!」

 

 兵らの視線が『胡』の軍旗の方へと向かう。ここで退いて兵力をすり減らす戦いは可能だろう、だが許都に鎮座する魏帝の目の前で挑まれた戦いから引き下がれば胡将軍の名声は貶められる。結果は孟達が示す通りで、決して明るい未来にはならない。

 

「むむむ! 俺は安魏将軍胡遵だ、避孕 蛮族なにするものぞ!」

 

 矛を手にして騎馬を走らせる。馬金大王も一騎で進み出ると胡遵へと向かう。双方がすれ違った瞬間、馬金大王が振るった大斧で胴体が真っ二つになった胡遵が草原に転がった。

 

「雑魚が吠えるな! 他に俺に挑む勇気あるやつはいないか!」

 

 一喝すると魏兵が矛を放り出し背を向けて散り散りに逃げ出していく。

 

「追うな! 左手の孟達軍の側面に突っ込むぞ!」

 

 戦術的な勝利を追いかけずに、まだ規律を保っている軍勢への攻撃を即座に命令した。二百の騎兵の司令部だけを伴い真っ先に敵に突撃する。味方が守っていたはずの左側面から、恐ろしい形相の蛮族が強襲をかけてきて、にわかに陣が乱れて驚きが伝染する。 前にも後ろにも行けず、左手から攻撃を受けてそのまま向きなおって対峙した。前列は体力で、後列は技量で対抗する者が多かったが、中央は統制が取れず幅も持てなかったので不得意な力比べに引きずり込まれてしまう。

 

「ま、守れ! ここを通すな!」

 

 伯長が必死に声を上げて密集陣形で守りを固めようとするも、大斧で頭をかち割ったところへ強引に馬体を割り込ませ、そこで横薙ぎに振るうものだから被害が膨大になった。

 

「魏軍には案山子しか居ないのか! 蹂躙しろ!」

 

 南蛮騎兵が散開して最大限の攻撃力を発揮、歩兵相手に十倍の威力を見せつけ死体の山を築いていった。そのうち南蛮歩兵が到着し、騎兵の前へとせり出していく。

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図、倒した魏兵の血を啜り、顔に塗りたくると怒声をあげて暴れまわる巨漢の兵士たち。膂力の差に魏兵が文字通り宙を舞うことも珍しくない。

 

 ジャーンジャーンジャーン

 

 もはや敵わないとみてか魏で撤退の合図が出されて我先にと逃げ出していく。殿は『牛』の軍旗を掲げた部隊、こちらはまだ統制を保っていた。騎馬した武将が睨みを効かせて追撃を許さない構えだ。

 

「魏にも骨があるやつが居たらしいな。行くぞ!」 お互い目が合って大将同士だと確信すると駒を寄せて打ち合う。一合、二合、三合と切り結ぶと後方へと駆けて向き直る。

 

「この俺と三度打ち合わせて生きているのはお前だけだ」

 

「はっ、田舎の大将が思い違いするな。俺は魏の南寧将軍牛金だ、今は撤退の命令がある故見逃してやるが、次はそのそっ首叩き落としてくれるわ!」

 

 馬の腹を蹴りつけると決して背を向けずに、上半身を真横に捻って視線を切らずに許都へと引き上げていった。

 

「楽しみは取っておくとしよう。お前ら勝鬨だ! 死体から分捕り自由だぞ!」

 

 戦場での報酬はこれに限る、我先にとお宝に群がりみぐるみ剥いでしまう。奪ったものは自分のもの、唯一食糧だけは軍に没収されてしまうが、奪った時に食ってしまえばそれは不問になる。