東西の郷は黄巾賊が押

 東西の郷は黄巾賊が押さえていて、北は山脈、南と南東への道を封鎖しているから宛が包囲されてしまったわけだ。郷を奪還するのが最善、道の敵を撃破するのが次善という風に見えるな。

 

 実際には白河が宛南北を走り抜けている、河上を通れば行き来も可能だ。城内との連絡はこれを使えば暗夜に到達も出来る、増援がやってきているのを知らせてやるとしよう。とは言え遡上するのも一苦労だ、出来れば河上から下った方が安全だろうな。

 

「典偉、宛に増援を報せた後に、公司報稅 ここまで戻ってこい。その頃には包囲をしている黄巾賊と戦闘をしてるかも知れんがな」

 

「わかった。今夜忍び込む」

 

 馬でいけば半日かからん、日没には余裕で間に合うな、こいつなら走っても間に合うだろうが。何も苦労しなくていいところでまでしなくていい、一人騎乗してさっさと城を出て行ってしまう。あいつなら一人で百人を相手にしても生き残る、心配は要らん。

 

 前進基地が必要だな、宛の直ぐ南、十キロあたりに景庄台という小山がある、白河にも沿っているしこいつが適当だ。賊が居るか調べて居なければ急進してこれを確保するぞ。居たらどうするかは簡単だ、追い散らして奪うまで。

 

「文聘、この小山を直ぐに調べさせるんだ。今回の戦略重要地点になる」

 

 地図を開いて指さしてやると、食い入るようにそれをじっと見詰める。意味を理解出来ないお前じゃないだろ。

 

「……南北の道、河、それに包囲をしている黄巾賊を見下ろせる場所、守りに易く、攻め上がるに難い。宛と相互の支援位置をとることができ、要塞化もしやすそうなところです。幅もある」 そうだ、二キロ四方で南西二面が河、小山といえども高低差は百メートルはあるはずだ。五千の兵士ならば充分居場所が与えられて、飲み水もあり籠もることも出来る。東には街道もあって、そこを通る賊を襲撃も可能。逆ならそっくりそのまま相手の利だ。

 

「お前ならここを押さえられたまま宛を解包出来るか?」

 

「そうですね、相手の三倍も兵力を貰えるなら力押も出来るでしょう」

 

 それはつまりお手上げだと苦笑した。相手が気づいているかどうか、こいつは大きいぞ。もし無人なら先遣隊を夜半にでも出すつもりでいなければならん。築城用の物資は河を使って運ばせよう。

 

「一応だが、夜目が効く兵を三百選抜させておけ。使うかどうかは半々だ」

 

 そのように言ってはあったが、偵察が戻るや否やすぐさま出撃させることになった。まさかあの小山が無人とは、やはり張何某とやらは戦に疎い、宗教集団なんだ勧誘や説法が上手いやつだったんだろうな。

 

 

 陽が出てきて朝餉を用意しているのを見ていると、陣の北側で騒がしくなる。そちらに注意を向けていると、何者かが騎馬で駆け込んで来る。じっと見ているとそれが典偉だとわかった。早いな、さすがだ。

 

 下馬して駆け寄って来るのを待っていると、どうにも様子がおかしいことに気づく。

 

「親分大変だ!」

 

「どうした典偉」

 

「宛が陥落して太守の許貢はもう殺されてた! 宛城は賊に占領されてる!」

 

 くそっ、遅かったか! しかし何故こうも簡単に落ちたのか。今は状況の把握だ。

 

「宛はいつ落ちたんだ」

 

「五日前には開城しらたしい、郡吏は落ち延びて離散、地方の軍も散り散りになってるらしい」