「功績の独り占めは嫌われるぞ。何はともあれ賊を城に集めなきゃならん、だがこれこそが肝だ」
「中牟となれば集まるのにも五日はかかりますね」
その中牟がどこかは知らんが、県令が殺されたってほど治安が悪いんだ。そこから賊を引き込んで、蛍陽に集めた方が楽で良い。
「その五日の間にこちらの手の者を紛れ込ませる」
出来るかどうかでいえば出来る。何せ全員の顔を知っているわけでもないし、身分証があるわけでもない。来るもの拒まずとしか出んぞ、これが統治下であってもだ。
「あまり多いとバレるんじゃねぇか?」
「そうだな、甘寧の多いってのはどのくらいの数だ」「ああ? うーん、そうだな、五十も居たら即バレだ。精々二十ならばギリギリか」
こいつの感覚でそうだっていうならきっとそうなんだろう。俺に感覚はないが、こいつはあちこちでやらかしてきたんだ、間違っていたとしてもそう示唆する数字と離れん。
「ならば十人としよう」
「まあ、それくらいならな。で、そんな少数でどうするつもりだ?」
「もちろん、城門を奪って味方を引き入れる」
さもあらんとばかりにサラッと言った。眉をひそめたのが三人、大きく目を開いたのが一人だ。
「俺らとあと五人ってことですね親分!」
「そういうことだ。この面々ならば五十でも百でも相手に出来るだろ?」
互いが顔を見合わせて、何とかなりそうだと感じたらしい。連れて行く五人に城門を開かせて、俺達は戦闘だな。
「あんたとんでもな奴だったんだな!」
甘寧の叫びに皆で大笑いした。この位の無茶は無茶のうちに入らん、何故か知らんが出来るきがしてるんだよ。
作戦内容を何苗に説明すると上手くいくか懐疑的だったが「じくじったとしても兵十人だけの損失、どうとでもなります」と言い放つと納得した。そこらで拾ってきた司馬を失うだけ、最初からいなかったと思えば済む話だ。
遠くからも蛍陽に入ることが出来るように、進軍は三日後にすると触れを出す。その間に二人一組で紛れ込んでやった。西門の傍の廃屋を見付けると、そこに勝手に住み付く。誰かが来ても睨んでやれば愛想笑いをして逃げ出していった。 文聘以外は体格が良いからな、あいつだって小柄ではないぞ。兵の中でもいかつい顔のやつをペアにしてやったので、恐らくは同じような感じで追い返せているだろう。
数日分の食料は持ち込んでいるので、暇な時間だけが気になったが、それはじっと我慢することにした。変に出歩くよりも絶対に大人しく待っているべきだ。これに関しては兵同士を組み合せなかったので、間違いなく外に出ていないとの確信がある。
さて、予定通りの朝が来るぞ。まだ外は暗いが、太陽が少しでも空を照らし出したらそこで始めると言う取り決めだ。ここから城外は見えんが、何苗が軍を進めていると信じて実行する。
家の中でバラバラにして持ち込んだ武具を取り付けて、軋む扉を開けて外へと出る。交差点のことろで待っていると、全員が集まった。
「よし居るな、手筈通り兵は俺ら五人が相手をする。お前達は城門を操作して開けるんだ。開いてしまえば逃げても構わんぞ」
「司馬殿が居る場所の方が安全でしょう。それに、成功したら恩賞もたっぷりと」
「ふむ、そいつは期待していいぞ。では行くぞ」
実際こんな死地に赴くんだ、報奨金位は何苗だって喜んで出すだろうさ。普通に攻めるのと比べてどれだけ安上がりか。居眠りしながら門の傍で座っている男が五人、近づくと無言でそいつらを処分する。おいおい呆気なさすぎるぞ。
地面に矛や剣を突き立てておき、手にした武器を構える。予備の武器はたくさんある、こちらの体力は持っても武器は壊れちまう。
閂をあげると両開きの門を、五人で力を合わせて押し出そうとした。
「おいお前達なにをしているんだ!」