(確実だ・・・)

(確実だ・・・)

 

 

 薄れてゆく視界のなか、植眉 冬乃は統真の関与を確信しながら。

 

 

 「いっ・・!」

 

 

 何かを、蹴った。

 

 

 

 

 (なんか今、悲鳴が)

 

 「ッてめえ!!起きろ!!」

 

 

 (え?)

 

 「起きやがれ!!!」

 

 猛烈に叫ばれている気配に、冬乃はおそるおそる目を開ける。

 

 土方が目の前に映った。同時に暗い天井が見える。

 (・・んん?)

 

 「貴様、俺を蹴とばすたぁ、いい度胸だな!?」

 

 視界の端には、横に転がった文机。

 (えと、・・)

 

 この体勢から、状況を想像するに。

 またも文机に出現した冬乃に、文机の傍で寝ていたのか蹴られて起き上がった土方が、怒りのあまり冬乃を組み敷いたといったところだろうか。

 

 

 「ご・・ごめんなさい」

 「ごめんで済むと思ってンのか?貴様いつのまに入って来た、だいたい今何時だと思ってやがるッ」

 

 (怖・・っ)

 

 どうみても、むちゃくちゃ怒っている。常夜灯すら消したあとの真っ暗な内である以上、深夜のまっただ中で、土方の寝込みを襲った事態になっているには違いなく。

 

 「ご、」

 

 冬乃は組み敷かれたまま。

 「ごめんなさい」

 繰り返す、しかない。 「・・てめえ、神妙に謝ってりゃ済むと思うなよ・・」

 

 「まあまあ、土方君、彼女も困惑している様子だし、ひとまずは・・」

 仏の山南の声がして。

 冬乃は、はっと彼の声がしたほうへ顔を向けた。

 

 

 障子を透ける朧な月光が、薄暗がりに半身を起こしている山南と近藤、その向こうに布団の上で座り込んでいる沖田の姿を映して。

 

 (あ・・・)

 

 「ひとまずは、」

 山南が。

 憐れむような声で続けた。

 「冬乃さんを離してあげないか」

 

 「・・・」

 

 山南の言葉に縋るように冬乃は、真上の土方におずおずと視線を戻す。

 

 (お・・お願いします土方様)

 この体勢を沖田に見られているのは。それなりに辛いものが。

 

 「・・・離さねえよ」

 

 (え)

 

 「この際、吐くまでこのままだ。言えよ、」

 夜闇に、土方の大きな目がきらりと光った。

 

 「何の目的で、こんな夜中に忍び込んだ」

 

 (忍び込むだなんてっ)

 「そんなつもりはありません・・!今が夜中ってことも、来るまで知らなくて」

 「んなわけあるか!寝静まったところを狙って来たんだろうがッ」

 「ちがいます!」

 おもわず涙目になりながら訴える冬乃を、

 「ふざけンのも大概にしろよ・・・」

 土方が忌々しげに睨みつけ。 「だいたい、てめえのこのカッコも何なんだよ、わざとかッ?」

 

 (カッコ?!)

 

 怒りが収まらないらしい土方の矛先が、ついにあらぬところにまで向かってきたのかと、

 冬乃は自分の体に目をやって、

 そして。細い肩紐のキャミ一枚でいることに、

 (きゃあああ!?)

 気がついた。

 

 慌てて前を隠そうとして、おもえば冬乃の両腕は、土方に組み敷かれていて自由の効く状態ではないことにも、気づいて。

 

 (ま、前っ、隠させて・・!)

 

 襦袢と良い勝負な薄さのキャミを、裸にそのまま着ていて、しかも丈までも太腿がほとんど露わな長さなのだ。

 月明りの差しこむ中、いろいろと充分すぎるほど見えている。

 

 「これはっ、また向こうで着てたら、このまま・・っ」

 「おめえ、その未来だか何処だかから、来る直前にしてた恰好でこっちへ来るってぇ事は、もう知ってたはずだよな?つまりわざとだろ?」

 「え」

 「前も本当は知ってたんじゃねえのか。前は裸で今回はこれかよ?いいかげんに、襲ってくれとでもいわんばかりだな」

 (ええ!?)

 

 「それ以上からかうのは、可哀そうですよ・・」

 (あ)

 沖田の声がして。冬乃は咄嗟に、彼の救いに期待して沖田のほうを見やった。

 そんな冬乃の上で、 「からかってんじゃねえ、説教してんだよッ」

 「それ、よけい可哀そうでしょ」

 (うう・・)

 「五月蠅えよ、」

 土方は冬乃の拘束を解くことも無く。

 

 「だいたい夜這いに来ンなら、もう少し、礼儀ってのがあるだろうが。なんなら今から教えてやろうか」

 (よ、)

 

 夜這いの礼儀作法なんか知りたくありませんし!

 叫びそうになったが、

 土方がどこまで本気なのか、冬乃が何か言うより先に、そのきらきら光る目で冬乃を見下ろしたまま、その手を冬乃の肩にかけてきて、

 (え、ちょ、)

 慌てた冬乃が身を捩るのもむなしく、冬乃の細く心もとない肩紐はいとも簡単に左右で落とされ、

 「土方君!」

 「おい、歳っ」

 山南と近藤の制止の声と、同時に。

 

 冬乃の服と呼べないような服は、

 胸元まで擦り落とされそうになって。

 

 「い、・・や、・・」

 (こんなの、沖田様の前で・・!)

 

 咄嗟に冬乃はもう一度身を捩って冬乃の腕を掴む土方の手に歯を立てると、驚いたようにその手が緩んだところを腕を振り上げて、手刀を土方の喉元へと向かわせ。

 

 勿論、土方になら冬乃の手よりも早く、かわされてしまうことなど分かっていた。

 

 「おめえ・・・」

 

 それでも、