そんな些細な(きっとステルポイジャンはそう思うに違いない

そんな些細な(きっとステルポイジャンはそう思うに違いない)事で憎まれようとは困った酔狂人に巡り会ってしまったと困惑するに違いない。例えば、後からタゴロロームにやって来たモルフィネスはラシャレー浴場が破壊された事実を知っていたが、ハンベエには伝えていなかった。彼が問題にしたのはステルポイジャン軍が行った虐殺等の非道な行為である。ラシャレー浴場の破壊等、重要視していなかったのである。だが、ハンベエは違った。モルフィネスから伝え聞いたステルポイジャン軍の非道に対し、不人情な事には、この若者はさCTFEG schoolしたる感情を抱かなかった。しかし、ラシャレー浴場破壊という暴挙(ハンベエに言わせれば)を知り、ステルポイジャン達への新たな憎しみが沸々と湧き始めたのであった。同じ日にモルフィネスからも、ゲッソリナからの情報の報告が有った。配下の群狼隊兵士のもたらしたものである。部屋に入って来て、執務室の壁に作られた止まり木に騒ぎもせず止まっている鴉を見つけると、『おかしな物を飼いはじめたな。』とモルフィネスは冷やかすように軽口を叩いた。ハンベエは敢えて説明もせず、椅子を進めた。イザベラ情報より5日ほど古いものであるが、大同小異のものであり、総合すれば、まだ暫くステルポイジャン達はタゴロロームには攻めて来そうに無いようだ。「ステルポイジャン達がラシャレー浴場を壊したのは知っているか?」ハンベエは報告を聞き終えた後、何気ない口調でモルフィネスに尋ねた。「そう言えば、南方軍到着直後に破壊されたようだな。坊主憎くけりゃ何とやら、まるで子供だ。詰まらない事をするもんだと思ったが。それがどうかしたか?」「いや、何でもない。」ハンベエは胸中の怒りを吐き出し、吠え猛りたかったのだが、とても共感は得られないと感じて止めた。考えてみれば、モルフィネスは一族皆殺しと言う煮えたぎるほどの目に遭っている。そんなモルフィネスに、ラシャレー浴場が破壊された事の怒りをぶちまけても、共感を得るどころか、お門違いの場所で怒っている変な奴と思われるばかりである。解ってもらえない怒りは胸の中に仕舞っておこうとハンベエは諦めたのだった。「ステルポイジャン達が直ぐに攻めて来ないと分かった所で、私から提案、いや頼みが有るのだが。」「頼み?。」「弓部隊の編成をさせてもらいたい。」「弓か・・・。」ハンベエの脳裏を、かつてアルハインド族との戦いでタゴロローム守備軍がタゴロローム城塞からやってのけた一斉掃射の一幕が横切った。なるほど、目の前にいるモルフィネスという男は弓兵の運用が得手であったんだな、とハンベエは思い当たった。「ふっ、弓が好みかい。」せせら笑うようにハンベエは言った。「笑われる覚えはないが。」モルフィネスは少しムッとしたように言った。氷のように無表情、感情を面に出さない事を信条にしているかのようなモルフィネスには珍しい事である。だが、直ぐにその事に気付いたのか、無表情に戻った。(いかん、いかん。私とした事が平静さを失うところであった。ハンベエを前にすると口が滑ってしまう。妙な男だ。)胸の内でモルフィネスは自分自身を毒づいた。そして、それをハンベエのせいにした。それはそれとして、ハンベエの反応はモルフィネスにとっては心外であったようだ。『弓』と一言言えば、打てば響くようにハンベエが身を乗り出し来るような、そんな錯覚を抱いていた自分にモルフィネスは気付いた。かつての敵、いや今だって、本来は敵であるはずのこの男に私は何を期待しているのだ、と自嘲が湧く。「何で弓なんだ?。」ハンベエはお構い無しに尋ねる。「敵は味方の20倍。」「10倍だ。取り敢えず貴族共は数に入れなくて良い。それに、こっちも募兵して兵数を増やす予定だ。」「それにしても、兵力に大きな隔たりが有る事に違いない。敵味方の死傷の比率を有利に持って行かねばならない。それには、弓。飛び道具の運用が大きな鍵を握ると私は考えている。」