当然の事ながら

当然の事ながら、実はナーザレフのノーバー暗殺指令があった事など、ゴルゾーラとナーザレフとその配下だけの秘密であった。明かせるわけもない。まして、そこにイザベラが介在していた事など太子軍首脳ですら知らぬ事であった。 一般兵士にとっては、狐につままれたような話で、マッコレが個人的にノーバーに恨みを懐いていたとか、軍監察員と貴族軍の間で衝突暗闘が発生しているとか、デタラメな憶測が流れていた。 諜報活動の前線から退いているボー 期指按金 ンも神ならぬ身ゆえ、その真相など流石に知りよう道理も無かった。ただ、太子の軍と貴族軍の間には信頼関係が無い事、貴族軍に領地保全の不安がある事は元サイレント・キッチンの腕利きであるが故に把握しているし、マッコレがナーザレフ配下の十二神将の一人であった事も知っている。何かが動いている、ボーンはそう感じていた。今のところ当てにもされていないのだろう。マッコレ乱心事件はボーンの耳にも入っていた。太子軍での発表は、単にマッコレが乱心してノーバーを襲い逆に返り討ちに遭ったというだけのものである。(何がどう動いたのかは分からないが、この事件で貴族軍と太子の間には大きな溝が出来てしまった。最早修復不能かも知れない。ハンベエは事件を知っただろうか?)知っただろうな、イザベラがいるし、他にも王女軍の間者が送り込まれいるはずだ。(どう動く、貴族軍はステルポイジャン軍潰滅の後、太子に乗り換えた。旗頭のフィルハンドラが死んでしまっていたから、仕方ない事だったかも知れないが、今の状況で領地保全を餌に誘われれば王女側に寝返る事も有り得る。いや、ハンベエの性格から考えてそういう裏切り者を受け容れるとも思えないが・・・・・・。)そもそも、ラシャレー閣下はこの戦争をどう考えているのだろう。戦争に反対なのは解っていたが、今となってはどうにもならない。ボーンは太子軍において自分が為すべき役割についても悩んでいた。何度も『声』にラシャレーの真意を質したが、ただ『太子の身を守れ、後はお前の判断に任せる』とだけで、戦争自体をどうするのかについては幾ら問うても答えが無かった。それについては、『お前の判断に任せる』という事なのだろうか。(ラシャレー閣下は、俺がハンベエやロキと友達なのを知っている。その上で、太子殿下の助言者に推薦した。しかし、太子殿下の力になれとも、太子の軍の勝利に尽力せよとも言われなかった。首領に質問しても『判断に任せると仰せ』だとの答えしか無かった。)この戦争、負けても良いのか?、負けても太子殿下の命さえ守ればそれで良いのかもう戦争は始まってしまっているのに、ボーンは思い悩んでいる。(王女エレナ殿下に太子殿下討伐の意図はそもそも無い。これはこっちから無理矢理仕掛けた戦争だ。勝たなくても、負けずにさえいれば・・・・・・いや負けても潰滅さえしなければ、講和の道は有る。その為に、ラシャレー閣下はハンベエと縁の深い俺を参軍させたのだろうか。・・・・・・どうにせよ、現状では太子に何を助言しても採用は無いだろうし、反って疎んじられるだけだ。まだ動けない。 西の空に浮かぶ雲を見ながら、そんな事を考えていた。二日後、ロキ率いる王女軍特別遊撃隊はベッツギ川目指して行軍の最中にあった。「ヒューゴさん、ハンベエと同じ型の刀が手に入って良かったね。その型のやつは、伝説の武将フデン将軍やステルポイジャン軍随一と怖れられたテッフネールも愛用していたらしいよ。