「よう生きていたんだな

「よう生きていたんだな。」「貴殿もお元気の様子。何よりです。その後の御活躍は耳にしましたよ。」ハンベエに側に来られてラーギルはガチガチ震えながら喋る。「それにしてもしても、お前さんもみょーな使者ばっかり良くやるよなあ。」「恐れ入る。」「心配しなくっても使者は妄りに斬り殺すもんじゃねえって事は俺も知ってるよ。」そう言いながらハンベエは凄みのある笑みを見せ、「王女からの返書はまだ一両日掛かる。色々と不安だろうが、待っといてくれ。」と言った。ラーギルの身になってみれば今夜は眠れそうもない。全く使者とは因果な役目である。 王宮から『キチン亭』に火急の呼び出しが到着した時、ロキはザックと話をしていた。「それでそいつはどうしても納得がいかなくて逃げて来たんだそうだ。逃げる途中も追っ手が掛かって命からがらだったそうだ。」 語るザックの顔色は冴えない。楽しい話でないようだ。「本当なのかなあ。さっきの話。」植髮收費 ロキも相当に暗い面持ちである。「信じないのか。」「いや、そうじゃないけどお。一度本人に会って詳しい話を聞く必要があるねえ。」ザックの話の内容はこうだ。最近ザック達孤児連の集会所に『匿ってくれ』と逃げ込んで来た少年がいて、本人の話だとボルマンスクのナーザレフが率いる教団の経営する孤児院を脱走してゲッソリナに逃げて来たと言うのだ。しかも、『追われている』と本人が言うものだから、その保護の相談にザックがやって来ていたのだ。ロキやザックの表情が深刻なのは脱走少年が孤児院から逃げ出した理由が耳を疑うようなものだったかららしい。王宮からの使者がやって来たのは丁度その話の真っ最中だった。『御前会議』緊急召集の知らせを聞いたロキは『昼御飯は過ぎたし、晩御飯にはまだ間があるんだけど』と妙な文句を言いながらも王宮に向かう事となり、ザックは一旦集会所に戻って行った。王女の返書を無法にも破り捨てたハンベエは『御前会議』を開くべくイシキンを呼んだ。間を置かず召集の使者が四方に走ったのである。最初にやって来たのはやはりモルフィネスだった。王宮に詰めていたし、ボルマンスクから使者が来た以上、当然に会議になると待っていたようだ。. 他のメンバーがまだ来ないが、ハンベエは現在の状況を説明した。一体貴公は人に仕えるという事が分かっておるのか。本来なら、処刑モノだぞ。」手紙の一件を聞いてモルフィネスが顔をしかめた。「じゃあ何か。王女の手紙をそのまま使者に託して良かったてのか?」いや、それはまずい。というか、向こうから来た手紙の内容から我等に謀りもせずに一人決めの返書をしたためた姫君の行動は軽率の謗りを免れない。困ったものだ。」「だろう。」「だとしてもだ。人の手紙を破る等というのは、姫君と貴公の身分が逆であったとしても決闘を申し込まれて仕方ないほどの無茶苦茶だぞ。」決闘か。・・・王女が決闘申し込んで来ても知らんぷりするだけよ。無抵抗の人間を斬れるような王女じゃねえからな。まあ、ビンタの二、三発は我慢してやるか。」ハンベエは鼻で笑いながら言った。「狡猾だな。」「それも策略。」と、さらりと受け流すハンベエにモルフィネスは思わず笑ってしまった。ハンベエとモルフィネス、仲がいいのやら悪いのやら。尤も、悪謀を巡らす同士、相通じるものがあるのかも知れない。そうこうしている内に、ドルバスが現れ、ヘルデン、ボルミス、パーレルの三人が連れ立ってやって来た。次に現れたのはレンホーセンであった。かの傭兵騎馬隊長にも呼び出しが掛かったらしい。「後はロキとイザベラか。」とハンベエが見渡したところへ、ロキが入って来た。 少年、仏頂面である。何時もの愛想良い笑顔は急ぎ足のせいで置き忘れて来たのだろうか。