」とハンベエは少し頭を下げた

」とハンベエは少し頭を下げた。いえ、戦は今の世の習いですから。しかし、見ての通り貧しい村ですので、皆様方が満足できるほどの食べ物は提供できないと思うのですが。」「ああ、食糧の方は十分持ってきてる。自前で賄えるから心配無用だ。むしろ困ってるなら、分けてもいいぜ。」「え? デンベは驚いた顔をした。村を通って食糧を徴発する兵隊達はいても、分けようかと言う者達にはお目に掛かった事が無いようだ。「遠慮は要らんぞ。多めに用意しているからな。そうだ、丁度途中で猪を三頭ほど仕留めたから、迷惑料に引き渡そう。futu 」ハンベエは屈託のない笑顔でデンベに申し出た。 後ろに居るレンホーセンが少し不満そうな顔になった。今夜にでも旨いシシ肉にありつけると期待していたようだ。「そんな顔するなよ、レン。元々俺が仕留めたんだぜ。」 気配を察知したハンベエが振り返る。レンホーセンも苦笑いで頭をかいた。「よ、よろしいのですか。」 デンベは恐る恐る言った。「うん。」「余計な尋ね事ですが、ハンベエ司令官達はいつもこんな感じで民達と接せられるのですか?」「うーん、人気取りだよ。俺は至って乱暴者って評判で、本当は民達とかの事など戦の時には気にしない性分なんだが、我等が上に押し戴いてる王女のエレナってのが、すこぶる気の優しい性格で、この国の民を憐れむ心が強いんだよな。そんな王女は民達から憎まれちゃ泣いちゃうかも知れないんで、お前さん方の機嫌も取るのさ。」「・・・・・・。」 明け透けなハンベエの物言いにデンベは返す言葉に困った。勿体振った風もなく、人気取りだよと、あっけらかんと言うわ、姫様を畏れ多くも軽く呼び捨てにするわ、随分毛色の変わった大将のようだ。(少し足りないのでは・・・・・・。) と思ったほどだ。 その後、ハンベエはレンホーセンと共にデンベの家に招かれ、夜まで四方山話をした。村人達の反応は様々である。ハンベエの暴れっぷりはこの村にも届いていたようで、多くの村人達は戦々恐々の様子であったが、猪三頭の手土産が効いたのか、意外に話せる人物かも知れないと安堵の声も聞こえた。夜にはデンベの家を辞し、ハンベエ、レンホーセン共に野営する兵士の下に戻った。 翌日から、ハンベエ達はゲッソリナ方面から来る人々をこのモーセンビキ村周辺で足止めし、ゲッソリナ方面へ追い返した。胡乱な者は捕らえ、尋問した。制止を振り切って無理に通り抜ける者は捕らえるか、場合によっては斬って捨てた。 ゲッソリナとボルマンスクの通行はハンベエによって完全に遮断されてしまった。その一方で、この若者はタゴロロームでもやった事だが、手の開いてる兵士に命じてモーセンビキ村住民の家の修繕や田畑の畔の修復、用水路の手入れ等々の雑役もさせた。人使いの荒い大将であるが、この若者の武勇と人を斬る事に躊躇の無い性分を良く知る兵士達からは一言の文句も出ない。 同じ頃、ドウマガ原に野営している貴族軍は西方五十キロに有るコデコトマル平原まで敵影なしと報告したところ、更にコデコトマル平原まで進軍の上斥候活動を継続せよと、ソコハケン平野の太子軍から命令を受け、西に向かう準備に掛かっていた。この貴族軍の中に兵士に変装したイザベラが又もや潜り込んでいるのは言うまでもない。ゲッソリナへの緊急帰還からとんぼ返りで貴族軍に取って返して早や五日目である。