『声』は

 『声』は、相変わらず全く感情のない口調で答える。ラシャレーの叱責を意に介してないふうである。「待て、五人の死骸はなんとした。」「ちゃんと始末してありますな。人知れずに。」 昨日、ハンベエ達を襲ったのは、ハンベエの想像どおり、ラシャレーの一派のようであった。 開股票戶口ーはゴロデリア王国においては、功臣と呼んで差し支えのない人物であった。ともすれば、暴走しがちな軍部を押さえ、都市計画を進め、農工業を振興し、今日のゴロデリア王国の隆盛を築いてきたのであった。実際、ゲッソリナが人口20万という大都市に発展したのもラシャレーの内政手腕の賜物(たまもの)であった。

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だが、彼に対する世評は散々であった。ゴロデリア王国内にあっては、秘密警察を駆使して、国家を牛耳る悪徳宰相、他国からは、奸智と策謀に長けた信用ならない陰謀政治家であった。確かにゴロデリア王国を拡大するために、ラシャレーは欺瞞と恫喝を以て周辺の弱小国を併呑してきた経歴があった。しかしながら、乱世においてはラシャレーのような宰相こそ求められているのかもしれない。不快な報告を受けたラシャレーは、ハンベエを未だ良く知らないが、取るに足らぬゴミ虫と思う一方、目障りにならぬよう、今のうちに始末しておこうか、さて? などと考えていた。が、すぐに、ハンベエの事など頭から消し去り、今日行うべき政務に向かった。今日はボルマンスクから来たゴルゾーラ王子の守備隊の使者にも会わねばならない。忙しい人物なのだ。話を我等がハンベエに戻そう。ハンベエは早朝の鍛練を終えて、ロキと朝食を取っていた。「王女様からのお使い、いつ頃、来るかなあ。」「さあな。まっ、今日中には来るだろう。ところで、ロキは金貨10枚入ったら、どうするんだ?」「勿論、商売の元手にするんだよ。何しろオイラは今に大商人になるんだから。ハンベエ、やってみない? この乱世だから、腕の立つ仲間が是非とも必要だしね。」「大商人・・・良く分からないな。」 ハンベエは小さく笑って答えた。ハンベエは剣しか知らない。やらねばならない千人斬りもある。だが、ロキは憎めない奴だ。自分の進むべき道の障りにならなければ手伝ってやりたい気もする。(そういえば、今、俺の懐(ふところ)にはお師匠様にもらった金貨がかなりあるんだが・・・しかし、こいつは自分の道は自分で切り開くだろう。敢えて、その話はするまい。)

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「ハンベエは剣士だから、やっぱり軍人志望なの?軍人になるなら、このゴロデリア王国なんかいい仕官先だと思うよ。せっかく王女様と話ができて、コネを作るチャンスだったのに、惜しい事をしたね。もっと、愛想良くした方がいいかも。腕が立っても、雇ってもらえなかったら、腕の振るいようがないし。」ロキのお節介にハンベエは苦笑した。「そういえば、ロキは王女のファンだったな。では、今日会えるもしれないぞ。」「ええ、どうして。」「褒美の金貨を王女が持ってくるかもしれないって事だよ。」「ええ?、どうして王女様が金貨を持ってくるの?」「腕に覚えがあるからさ。」「さっぱり分かんないや。王女様が王宮を抜け出してまで来るわけ無いと思うけどなあ。」ロキはあまり期待していないようであったが、ハンベエにはある程度の確信が有った。昨日、王女は何か話したい様子であった。そのために、人払いまでしたのだと思われた。それは単なる口止めの類ではないとハンベエは感じていた。であるとすれば、王女はもう一度ロキに会わねばならないだろう。使者を寄越して、ロキを呼び立てる事はあるまい。用があるなら王女が自ら来るであろう。(あれは、そういったタイプの人間だ。) ハンベエはそう感じていた。朝食を片付けると、ハンベエは自分の持ち物の手入れを始めた。ロキはロキで背負って持って来たつ