Entries from 2024-07-01 to 1 month
眉根を寄せる信長に、姫は笑んで応えた。 「至極簡単なことにございます。確かにその刀は、私にとって何にも代え難い大切な物でございました。 なれど、それはもはや昔の話。今の私にはもう、刀などよりもずっとずっと代え難いと思える物が出来ました故」 「…
殿ならばきっと、その隠れた才を活かして、どのような窮地からも見事に抜け出されましょう」 「…三保野」 「殿のお味方になると決められたのは姫様です。最後までお信じになられませ」 三保野の強く優しい言葉を受けた濃姫は、ふいに、自身の腹部へと視線を…
御髪はいつもの茶筅髷であったし、服装は袖のない湯帷子、腰には刀や鞭などを下げ、手には真新しい鞍(くら)を掴んでいる。 濃姫にはどう見ても、馬の稽古に出掛ける前に、ついでに立ち寄っただけのようにしか見えなかった。 いずれにせよ時間通り皆の前に姿…
「無論じゃ。必ずや儂が信勝殿を説き伏せ、あのうつけ者を討つように仕向けてみせるわ」 信友が軽快に笑う様を、大膳は暫し険しい表情で眺めると 「承知致しました。殿のお手並み、しかと拝見させていただきまする」 急に笑顔に切り替え、ゆっくりと低頭した…
「じゃが、それでは…」 「それでは我々が齷齪(あくせく)と信勝様擁立に努めている意味がないではござらぬか!」 信友が言おうとするのを遮り、大膳が怒声を響かせた。 「肝心の信勝様のお心が定まっていなければ、信長殿から当主の座を奪う事はおろか、いざ…
柴田権六ら信勝を支持する家臣たちが密かに集まり、何やら穏やかならざる雰囲気を醸し出していた。 そんな彼らを、家老の坂井大膳(だいぜん)、河尻与一、織田三位(さんみ)ら信友の重臣たちが、一歩引いた所から淡々とした表情で眺めている。 「ほぉ…、では美…
「は、はい。承知致しました」 「お聞き下さいませ殿。先程 竹千代殿が言われていたことは、本当に──」 「儂は皆の所へ行って作業を手伝って参る!竹千代、お濃を頼んだぞ!」 まるで濃姫の言葉から逃れるように、信長は独り堤防の方へ駆けていった。 『 ほ…