その言葉を聞き、桜花はみ

その言葉を聞き、桜花はみるみる瞳の奥に悲しみを浮かべた。

 

 

『京は夏になったら、祇園祭という由緒ある大きい祭りがあるらしい』

 

『折角じゃけえ最初の山鉾巡行を見んか?屋台も多く出ていると聞いた』

 

 

 桜木の下で約束を交わ 【子宮腺肌症】患者不能懷孕?須切除子宮?4大治療方法:食藥/手術   した日のことを今でも鮮明に思い出せるのだ。それがより辛かった。あの日常が突然消えてしまうなど、誰が想像出来ただろうか。のように儚く淡く綺麗な日々だった。贈られた言ノ葉の一つ一つが愛しくて仕方なかったというのに、今はそれが苦しい。

 

 

 

──吉田さん。

 

 

 

「…………うん、そうだった。今日がその日だよね」

 

 

 

──吉田さん、吉田さん。会いたい。

 

 

 

 そう思った瞬間、左胸の痣がずくりと痛んだ。導かれるように立ち上がる。その足で二階へ行くと、簪と吉田からの文を懐へ入れ、を差した。

 

 階段を降り、脇玄関へ行くと草履を履く。立ち上がったところで、勇之助が走ってきては袖を引いた。

 

 

「桜ちゃん……どこ行くん?」

 

 

 まるで縋り付くようなそれに、桜花は目を細めながら頭を撫でる。

 

 

 

「……大切な人が待っているから」

 

 

 勇之助は恐る恐る桜花を見上げた。降ってくる声はいつもと変わらぬ優しさを帯びているが、その目は別人のように寂しい色をしていた。

 

 それが怖くて思わず掴む力を緩める。

 

 

 

「桜ちゃ…………」

 

「──ごめんね」

 

 

 桜花は薄く笑みを浮かべると、歩みを進めた。勇之助の手から着物の袖がするりと滑り落ちる。 何処かで鳴く蝉の声を聞きながら、桜花は歩みを進めていた。容赦なく照り付ける陽光すら今は気にならない。

 

 祇園祭のおかげで人通りが多く、誰に見咎められることも無かった。

 

 

 半刻ほど歩けば、浅葱の羽織を着た隊士の姿がちらほらと視界に入る。

 

 その足はいつの間にか池田屋の近くへと向かっていた。その周囲は新撰組会津藩士らで固められており、近付くことさえままならない。

 

 二階の障子は破れ、戸も一部外されていた。京の街へ降りてから初めて泊まったそこは見る影も無いほど荒れている。

 

 

 

「──怖いわァ。壬生狼が捕まえてくれへんかったら今頃火の海やったんやろうか……」

 

 

 ぼんやりと立ち尽くしていると、近くに居た女達が池田屋の方を見遣りながら噂をしているのを耳にした。

 

 桜花はそちらへ顔を向けると、つかつかと歩み寄る。

 

 

「あの……、すみません。今の話って池田屋の……?」

 

「へ、へえ。そうどす」

 

 

 詳細を知らない桜花は拳を固めると、口を開く。

 

 

「突然申し訳ありません。その話、教えて貰っても良いですか。

で何があったのか……」

 

 

 その言葉に女達は顔を見合わせると、おずおずと話し出した。

 

が、昨年の政変を根に持ってはって。京の街に火をつけて禁中から天子様を

「……かす──なんて大それた計画を立ててはったそうどす」

 

「もし壬生狼が踏み込まへんかったら、今夜あたり火の海やったかも知れへんて話どすえ。の人が多い刻を狙う話やったとか……」

 

 

 その話を聞いた桜花は、頭を棒で殴られるような衝撃を受ける。

 

 

──あの優しい吉田さんがそのような恐ろしい計画を……?

 

 

「そんな…………」

 

『のすることが、君を軽蔑させてしまうかも知れん』

 

 

 吉田の泣きそうな表情が脳裏を過った。あれはそういうことだったのだろうか。

 

 

「……教えて頂き、ありがとうございました」

 

 

 呆然としながら、会釈をするとその場から離れた。女達が「ええ男はんやった」と黄色い声を上げるが、それすら耳に入ってこない。のような男が小路へ身を潜めるように立っている。

 

 

「貴方は…………」

 

 

 いくらみすぼらしい装いをしていようとも、滲み出る品は隠せない。加えて一度聞けば忘れられない程の低く艶のある声だ。

 

 池田屋で出会った威厳のある男を思い出す。

 

 

「…………か、」