一八六三年、江戸にて将軍警

一八六三年、江戸にて将軍警護を名目とした浪士組結成の募集が掛けられた際。

近藤を始めとした試衛館組、芹沢を始めとした水戸出身の浪士らがそれに応じた。

斎藤はそこに居なかったが、京にて合流したという。

 

いざ京へ上ったは良いものの、浪士組には後ろ盾も仕事も無かった。芹沢の伝手を辿り、京都守護職の任に着いていた会津藩預かりとなる。

 

 

何をするにも豪快な芹沢は、安全期 金策一つにしても豪商を脅したり、浴びるように酒を飲んでは花街に入り浸ったりしていた。

 

だが、芹沢の存在が無ければ試衛館組は路頭に迷うことになっていたのは事実だという。

それもあり、芹沢を筆頭局長に据えた隊編成となった。

 

 

「良くも悪くも凄い人だったのですね…」

 

「ああ。あの土方副長ですら言い負かされていたからな。芹沢局長は、剣の腕も立てば弁も立つ人だった」

 

それらだけを聞けば、芹沢鴨という人物は癖はあるが秀でた人物に思える。芹沢の伝手や金策が無ければ壬生浪士組は成り立たなかったのだから。

 

 

「何故、そのような人が亡くなったのですか…?病気とか…」

 

その質問を受け、斎藤は立ち止まると桜花を

する。

 

斎藤が口を開くと同時に雷鳴が轟き、稲光が京の街を包んだ。

 

「──した」

 

 

桜花は空を見遣ると、斎藤へ視線を戻した。

 

「済みません、雷で聞こえず…」

 

「殺した」

 

 

その言葉にハッと息を飲み、目を見開く。斎藤はその反応を見ると、口角を上げた。

 

「…冗談だ。長州の者が闇討ちに来たのだ。深夜に酔い潰れて寝入っていたところを、襲われたと聞く。あの時もこの様な天気だった」

 

「…そ、そうだったんですね。斎藤先生もご冗談を言うとは意外です」

 

 

桜花はホッとしたように愛想笑いを浮かべる。

 

「もしも…が真だったら、どうしたのだ」

 

斎藤は試すような視線を向けた。桜花は少し考え込むと、言葉を選んで慎重に発言をする。

 

 

「…私がとやかく言うことでは無いとは思います。その場に居た訳でも無いですし。その時の止むを得ない理由があったのではないかと考えますかね」

 

 

返答が良かったのか、斎藤は少し驚いたような視線を向けた。

 

「……そうだな。あんたの言う通りだと、思う。憶測や見聞で非難するのは筋違いだ」

 

 

やがて、筆屋の前に足を止めると、斎藤は店の中へ入っていく。桜花は軒下にて雨宿りをして待っていた。その脳裏には先程の会話が浮かぶ。

 

 

恐らく、芹沢鴨という人物は新撰組によって殺されたのだろう。

 

 

『あの時もこの様な天気だった』

 

普通、他殺であれば具体的に天気まで覚えていることは少ない。

 

『そこまで思い入れの強い人達では無い故』

 

ましてや、さして興味の無い人の暗殺について詳しく覚えているだろうか。

 

そして先程見た土方副長の表情がそれを肯定していた。

だが何故それを私に話す気になったのか。試されているのだろうか。

 

 

桜花はそのような事を思いながら空を見上げた。「…待たせた」

 

そこへ斎藤が暖簾を潜って戻ってくる。

傘を広げ、軒先から出るとふと視界に再建途中の家屋が入ってきた。

 

どんどん焼けの被害にあった街並みが徐々にその姿を取り戻そうとしている。

 

 

業火に包まれたようなあの時の光景が、今でもありありと目に浮かんだ。

 

その視線に気付いたのか、斎藤も其方を見遣る。

 

 

「気になるか」

 

「気になるというか…。あの時の火事は酷かったですから」

 

「我々が未然に防いだ筈の大火なのだが…。思想に民が巻き込まれてしまうのは…痛ましい」

 

 

そう呟いた斎藤は何処か寂しそうだった。

それもその筈で池田屋騒動で防いだものが、結果的にその報復として引き起こされてしまったのである。

 

 

「そうですね…」

 

「本来…武士は